風速0m
朝、目が覚めた。
まだ外は暗い。
東の方角を見る。
雲はない。
朝日は望めそうだ。
走りに行こう!
暗い部屋の中、準備を進める。
昨日、用意しておいたリュックに
水筒を入れる。
出発だ。
家のドアを開けた。
ムッとする湿気に包まれる。
湿度が高い。
既に、空気が熱い。
そして
風が…無い。
張り付くような空気に包まれながら
バイクが置いてあるところに行く。
ロックを外し、カバーを取る間に
蚊が寄って来た。
夏はまだ残っている。
物置の中も無風。
蒸し暑さに汗が止まらない。
ヘルメットを被る前に
一度、汗を拭いた。
走ってしまえば
汗はすぐにひくはずだ。
いつもより静かな住宅街。
エンジンをかけるのも気が引ける。
キーを回す。
ニュートラルの緑色、Nを確認し
セルボタンを押した。
スタートした。
そのとたん、首元に風が吹いた。
さっきまでのっぺりとまとわりつく
ただの空気だったのに。
バイクに乗るとなぜ
無風の街中で風が吹くんだろう。
バイクの音が響く。
街はまだ眠っている。
ギアをなるべく上げる。
エンジン回転数を下げて
ひっそりと街中を抜けた。
大通りに出る。
その頃にはエンジンも暖まっている。
周りにはほとんど車は無い。
静かに信号だけが赤くともっている。
バイクを先頭で停めた。
空を見上げる。
空は水色とピンクを織り交ぜたみたい。
薄い水色の中に淡い透明なピンクを
はけで描き入れたような色彩だ。
上空に風は無い。
雲はほとんど流れずに
空のキャンパスに留まっている。
停まっているわたしの周りも
風は無い。
湿気を含んだ空気の中に
とぽんと身を置いている。
青になる。
先頭で飛び出す。
首元を風が過ぎる。
長袖の肘の辺りがバタつく。
さっきまでなかった風。
それが、今
耳元で風切り音を鳴らしている。
風の音とバイクの音を聴きながら
車のいない大通りを走り抜けた。
信号が変わる!
とっさに
いつもよりブレーキをかけて
交差点に進入した。
フロントフォークが沈む。
左に曲がりながら
地面に吸い付くようなトラクションを感じた。
これはいい!
この感覚は最高だ。
地面に食い付きつつ、粘りがある。
トラクションコントロールはついてないけど
さすが、ポテンシャルが高いと評判のバイクだ。
相棒。きみは優秀だね!
もう少し柔らかいタイヤに変えて
サーキットを走ったら
どんな動きをするんだろうか。
なんだかワクワクしてきた。
橋を渡りながらふと横を見たら
真っ赤な朝日が浮かんでいて驚いた。
こんなところにいたんだ。
昇って間もない大きな朝日。
何度も横を向きながら
周りをピンクやオレンジに染めている
紅い太陽を見ながら走った。
今日は海の向こうが見えない。
全てが霞んでいる。
空気に水分が
たっぷり含まれているのがわかる。
そんな重たい動きのない空気の中に
全てのものが包まれている。
わたしもその一つ。
水分を通して見る景色はおぼろげだ。
閉じ込められて動けなくなっているみたい。
そんな中、1人動いているわたし。
前後に車の影はない。
前を向いてもバックミラーを見ても
わたしだけ。
たった1人だ。
時間が止まったような景色の中を
走っていたら
突然、赤い文字が目に入ってきた。
『風速0m』
赤く光っている。
風速0m。
心の中で反芻する。
風が無い… ということ。
じゃあ今、身体いっぱいに受けている
これは何なんだろう。
耳元で鳴っている
この音の正体は?
そうか!!
この風は
わたしが作った風なんだ。
バイクとわたしが作り出した風。
きみは風を作れるんだ!
たった1人
止まった空気の中を走り抜けて行く。
空気との摩擦が、風ってこと?
不思議な感覚になる。
止まった空気の中を動く。
わたしだけが風を感じている。
自分の足で走っても
風は起こるのかな?
イメージしてみる。
頬をそよぐ風が撫でる。
バイクで走ると…
風は初め、首元に感じる。
シャーと小さな風切り音とともに。
ヘルメットの中の口元も
ふわっと風に撫でられる。
スピードを上げる。
首元の風は力を持ってくる。
ザーーッという風切り音。
上着が後ろに持っていかれる。
わたしの身体も後ろに押される。
空気の壁に突っ込んでいるみたい。
もっとスピードを上げると…
上着がバタバタと大きな音を立てる。
両腕が押されてハンドルから手が外れそう。
ヘルメットが後ろに引っ張られる。
身体がバイクから浮く。
まだこのバイクでは体感していない。
前にも後ろにもいない
たった1人の空間で
たった1人
空気を切り裂いて
風を感じている
きみとわたし。
さぁ、灯台を見に行こう。
まだまだ道はこれからだよ!
一緒に風を作って行こう。
わたしのバイク。
わたしの相棒。
これからもよろしくね。
🏍 🏍 🏍
このnoteは苧環さんのために書きました。
風が好きな苧環さんが素敵なnoteを書いてくれたので、昨日わたしは走りに行くことができました。
noteから勇気をもらう。
そんな素敵な経験をさせてもらって、走りに行った先で見た『風速0m』の文字。
考えたことがなかったことを思考するきっかけをいただきました。
苧環さん、どうもありがとう!
灯台へのツーリングはまだまだ続きます。
続きも楽しみにしててくださいね♪
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