バイクツーリング 〜静岡 富士山〜 その17
好きな高速コーナーを
下っている。
カーブの先に
車の赤いランプが並ぶ。
ようやく信号で止まる。
左に曲がるとススキ野原だ。
急いで帰らなきゃいけないから
コンビニには停まらない。
左折して
ススキ野原の真ん中を走る。
このススキが見られるのも
また来年か。
そう思いながら
ふと左を見た。
えっ?
ずっと見えなかった富士山が
雲がなくなって
静かにたたずんでいた。
もう一度、左を見る。
やはり
少し霞んで少し遠くに見えるけれど
富士山はそこにいた。
やっぱり見える。
停まろうかどうしようか
とても悩む。
夕飯に間に合わないので
もう停まらないと決めていたから。
悩んでいる間も
車の列は進んでいく。
流れに乗りながら悩む。
ススキ野原が終わった。
富士山に気を取られて
ススキをゆっくり見られなかった。
コンビニがあった。
コンビニの向こうに
富士山が大きく見える。
停まりたい!
最後に、富士山を
ゆっくり眺めたかった。
ずっと見たくて
裾野を延々と走っていた時は
雲に隠れて
全く見えなかった富士山。
諦めて
帰ろうとしたら
最後に挨拶するかのように
顔を出してくれた富士山。
願っても叶わないこと。
諦めたら叶うこと。
心の揺らぎを
見透かされたような
そんな気がした。
停まらないって決めたから。
決めたことはくつがえさない。
コンビニの前も
停まらずに通過する。
見られただけでいい。
最後に顔が見えただけで。
「ありがとう。」
心の中でつぶやく。
富士山に
お礼を言った。
車の列は続いている。
こういう時は
並んで走った方がいい。
ゆっくり走ると
周りが見えるから。
お肉屋さんに
人が並んでいる。
時間があったら
馬刺しを買って帰るのに。
そんな時間も取れないほど
夕飯は迫っていた。
5時半には帰りたい。
そう思いながら
車の後ろを大人しく走る。
ここは
道が狭いので抜けない。
慌てずにと
心の中で自分をいましめる。
R246に出る。
左折して右車線に入った。
どこかで右折する。
朝来た道を思い出せるかな?
昔、よく通ったはずなのに。
少し緊張しながら進む。
あっ。ここだ。
交差点名と周りの建物で
間違いないことを確認する。
右折。
やはり、車の後に続く。
しばらく行くと
朝、富士山がよく見えた陸橋があったなぁ。
陸橋に来た。
てっぺんで振り向こうと思ったけど
後ろすぎるから止めておいた。
高速の入り口が見えた。
東名御殿場インターから入る。
路肩に停まり
通行券をウエストポーチにしまう。
ここから高速。
横浜町田インターまで
ここから30分かな。
本線に入った。
左を見る。
富士山が見えるから。
雄大な富士山が
白いベールをまといながら
悠々とそこにいた。
ありがとう。
もう一度、お礼を言う。
これで最後だ。
帰ろう。
間近に富士山が見られる
最後の機会にきちんとお礼を言って
前を向き
アクセルを開けた。