見出し画像

九州ツーリング その17 国道九四フェリー


夢にまで見た佐田岬を走っている。
さっきまでずっと桜吹雪の中を走っていた。

今は、桜は消え、代わりに突風が吹く。
雨も混じっている。

これ以上強くなると危ないな。

尾根から港への下り坂。
下から風にあおられると危ない。

ギアを落とし、2速10,000回転に。
甲高い排気音を響かせながら
タイヤをなるべく地面に食わせるイメージで。

あと何分で着くのか。

オドメーターを見る。

もう少し。

雨はひどくならない。もちそうだ。

無事に山を下り、町中に入る。
町中に入ると、風もおさまってきた。

さっきまでの
風と闘っていたような気分が静まる。

フェリーの看板が見える。

着いた!

左折して、白く平らな場内に入った。


前方に建物が見える。
きっとあそこが受付だろう。

誘導されて先頭にバイクを停める。

うわっ。9:50!!

バイクの時計は12分遅れている。
つまり、今10:02だ。

フェリーの受付は10時まで。

間に合うように、どこも停まらず
桜吹雪も写真に撮らず、走り抜けてきたのに。

1時間後のフェリーかもしれない。

ガッカリしながら覚悟を決めて
建物の中に入っていく。

前に1人いてチケットを買っていた。

まだ買えるのか?

聞き耳を立ててやり取りを聞く。
なんとなく大丈夫な気がする。

わたしの番になった。
思い切って言ってみた。

10時半のフェリー。大人とバイクで。

大人とバイク一台ですね。と復唱された。
10時半の言葉には反応しない。

頼めたのかな?
もしかして…間に合った?

ホッとしながら会計を済ませた。



『10:15にバイクまで戻ってきてください』

雨は止んでいる。
雨雲を追い越したのかもしれない。

時間をつぶすことにして
とりあえず、右手の建物に向かった。

新しくモダンな建物


もっと早く着いていたら
ひと通り見てまわったのに。

左の建物の2階が
展望スペースのような気がして
手前の階段から上に上がった。


目の前は海だった。

はなはなって何だろう
岬の先端を望む 空は灰色
受付の建物 先頭にわたしのバイク


もう一度、海に目をやると
遠くにあった船が近づいてきていた。

あれ?もしかしてあれが
これから乗るフェリーじゃないのかな。

フェリーが着岸するのを見たい!
何なら、開いて車が出てくるのを見たい。

時計を見る。10:07。
まだ10:15じゃない。もう少し見られる。

フェリーが着岸するのを
ギリギリまで見ることにした。


なんでこんなに機械ものが好きなのかなぁ。

自分でも不思議なんだけど
車もバイクも船も飛行機も好きだ。

今は船。ほら、近づいて来た。

近づいてきたよ
向きを変えるんだね
開いてきたよ!


ここで、10:13。

その後、車が出てくるのを
ビデオで撮ろうとしてしまう。

車やバイクが出てくる様子を撮りたかったが
タイムオーバー。

10:15になり、慌てて階段を駆け降りる。

雨が少し降ってきた。

先頭だったけど、間に合うかな。

後ろにさっきの自転車がいる。
間に合ったのか!

あの高低差を上り下りしてきたのか。

バイクより非力な自転車で
あの道を走り切ってきたことに感嘆する。

目の前の船からバイクが出てくる。
車も出てきた。

その間にヘルメットを被る。
シールドに雨粒が落ちる。

シートをタオルで拭き
バイクにまたがって指示を待った。


『どうぞ!』

指示があり、先頭でスタートする。

フェリーの甲板は
ものすごく滑るイメージがあった。

鉄板で、かつ雨が少し落ちてきている。

怖いな。

こういう路面の滑り方は尋常じゃない。
気づくと地面に叩きつけられているくらい
一瞬でツルっといく。

バイクのステップをつま先で踏ん張り
急な加減速はしないよう最大限注意して
滑り止めのような段差があるところを
ゆっくりと進んだ。

4ストロークのエンジンブレーキは最強だな。

無事に船内に到着。

中の船員さんからの指示で
手前の右端に壁につけて停めた。

ヘルメットを脱ぎ
荷物をくくりつけたままバイクから離れる。

船上に上がるために奥の方に進む。
階段を上る前、振り向いて写真を撮った。

船員さんたちがベルトで固定してくれていた


階段の途中で、自転車の2人とすれ違う。
目が合うと、笑顔で会釈してくれた。

バイクで1人、九州に向かっている自分を
すごいと思っていた。

でも、外国から来て見知らぬ土地を
自転車で走っている方がもっと凄いなと
会釈を返しながら思った。


車はこれからなので
船室にはまだ誰もいなかった。

どこに座ろうか。

右に座るか左に座るか、悩む。

新幹線だったら行きは絶対右だから…
(富士山を見たいから)

その感覚が残っていたからか
右端の席に座る。

一番前だと目の前が壁なので
少し離れて。

船内の様子


今から80分の船旅だ。
左隣の席に荷物を全部置く。

ジャケットを脱いだ。体が軽くなる。
ウィンターパンツも脱ぐ。

汗をかいていたので
船旅の間に乾くといいな。

身の回りを整理していたら
気づくと船は動き始めていた。

デッキから四国に別れを告げるでもなく
出航の余韻に浸る間もなく
船内のシートから窓の外を眺めていた。

水しぶきをあげながら進む
風力発電の風車が並ぶ

右に座ってよかった。

佐田岬と並行して進んでいる。
山並みをずっと見ていられる。

尾根伝いの風車がいい。絵になる。

先ほどまで走っていた道のことは
もう思い出さなかった。


船酔いが心配だったので
少しだけ寝た。

次に目を開けたら
見る限り、灰色の空と海だった。

一面の海


雨は昼からと天気予報が告げていた。
が、今すでに降っている。

降りる時は早めに身支度しよう。

一旦脱ぎ、身軽になった体を
雨対策で万全にしなければならない。

そして、この後のルートのことを考えていた。


今日は雨。1日降る予定。
予定では、阿蘇を走るつもりだった。

阿蘇山には色んな道があり
どの道をつなげて、どう走るか?
あらかじめ、ある人に相談していた。

ツーリングと言えば、geekさんだ。


おすすめルートを教えてもらっていた。

今は八幡浜から臼杵の方へ航行中


九州で一番楽しみにしていた道。

雨でも走れるのか?

昨晩、どうにも結論が出なくなり
2人に相談していた。

もう1人は、あこはるかさん。


2人に「雨で阿蘇は走れるの?」と聞く。

はるかさんから『風が心配』と返事が来た。
雲も湧くとひどいらしい。

風は、千葉で体験している。危険だ。
雲は、富士山で体験している。これも危険。

どちらも『あれば』だ。
風が吹き、雲が湧けば危ないのだ。

今朝、geekさんからメールが来ていた。
『阿蘇は走らないで高速で熊本へ行く』
という内容だった。

高速!?

選択肢になかった提案。
えっ!?違和感しかない。

試しに、高速のルートを調べてみた。

大変な遠回り


西に移動し、鳥栖を経由して南に下がる。
直接熊本に向かう高速はないようだ。

上のルートから100kmも走行距離が増える。

この選択は無いな。

そう思いながら、別ルートを考えていたが…

geekさんの言うことはいつも的確だから。

そう思う自分もいた。

はるかさんのメールにもあった風と雲。
これがあるかないかで決めるのか。

雨風に突っ込むのか。
迂回してプラス100km走るのか。

これから来る未来をずっと
船の中で、ぼんやりと考えていた。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?