1歳4か月の挑戦
リビングのドアをそーっと閉めて廊下に出る。
5秒もかからないうちに、中から音が近づいてきた。
とん、とん、とん……
気づかないフリをして、洗面所に駆け込む。
がちゃ、かちゃ…バタン
上手く開かないドアの音を聞きながら素早く顔を洗った。
とん、とんとん。
音はどんどん近づいてくる。もうすぐ、私だけの時間が終わる。
顔を上げて鏡を見る。左下に、膝立ちの息子が映っていた。
母の落胆に気づくことなく、息子は笑っている。ぼく、一人でこれたでしょ?とでも言いたげな姿で。
1歳4か月を迎えた昨日、彼の人生に革命が起きた。
自分でドアを開け、ママを追いかけられるようになったのである。
ドアノブに手が届いたその日、彼の挑戦は始まった。
下に引けばドアが動く。手前に引くと外が見られるが、何かが邪魔で出られない。
どうやら、ボクの体が引っかかっているらしい。ちょっと怖いけど、後ろに下がってみよう。あ、開いた。でも、また閉まった。そうか、手を離したらいけないんだ。
開けられるまでに3日はかかると信じていた私を裏切り、その日の晩には夫を迎え入れることができた。
次の日の朝、息子は初めて外に出た。
私が顔を洗っているところ、昨日着ていた服がグルグル回っている様子、ちゃぷちゃぷできないお風呂。
「おお~!」
ひとつずつきちんと興奮し、ドアを丁寧に閉めて洗面所を出る。
私に捕まる前に、階段の前で座ってみる。横座りになり、右足を起点にグルグル回ってみた。楽しい。リビングのマットよりも回転が速い。
次は階段を登ってみようとしたところで捕まった。でも大丈夫。明日また遊べばいい。
次の日、彼の冒険はあっけなく終わった。
私が急いで用意したドアロックのせいで。
だが、彼の挑戦は終わらない。ドアロックを突破するその日まで。
母の心労は、当分尽きそうにない。