
共同創造マジック(小西真奈Wherever展)
印象派
展覧会パンフレットの、透明感のある風景画に惹かれて「小西真奈Wherever」展(府中市美術館)に行って来ました。
画題は、公園や植物園、川、池、海、山、ときどき息子さん、というふうに、圧倒的に風景画が多い画家さんですね。
彼女の絵は、明るく鮮やかな色彩と、ぼかしたような柔らかい線で構成されていて、ヨーロッパの印象派を思い出しました。
蛍光のピンクやグリーンなど、ネオンカラーを所々に効かせた、モダンで洗練された「印象派」なのですが。
水
そして題材として、水辺の絵が多い。

展覧会パンフレットの「Untitled」(図録表紙と同じ絵)もそうですが、噴水やプール、雨の路面、水たまり、池、湖、滝、小川、海、など
画面に「水」が描かれている絵が(今回出品作の)3分の2を占めていました。
リフレクション(反射)
中でも、鏡のようにあたりの風景を写した、美しい水面の絵が多い。

思い出したのは、三嶋りつ惠さん(ガラス作家)が「そこに光が降りてくる」展(東京都庭園美術館)の館内インタビュー動画で語っていた、
「日本人は、直接ではなく反射した光を美しいと感じる」という指摘。
不勉強な私には、それが三嶋さんの発見なのか、どこかで語られていた定説なのか、わかりませんが、とても新鮮な気づきでした。
日本人がモネの睡蓮の絵(水面に空が写り込む)が好きなのも、そういう事⁈
ドローイング(素描)
会場には31点のデッサン画も展示されています。(撮影が許可されていないため、掲載できませんが)
絵画作品が先に描かれているケースもあるようで、必ずしも「下書き」ではなかった旨の(会場)説明書きが、ありました。
グルグルと鉛筆で描かれた円形の線は、何か振動しているようにも感じました。
向かう先を探して、ぐるぐる動き回る線が、微細な振動を発しているような。
普遍化
会場の解説文の中でも興味深かったのは、
「この絵からは何の音も聞こえず、異世界のようだ」という内容。
確かにそう言われてみれば、音の無い世界のようにも感じます。
(なぜ?)

これは私の憶測に過ぎないのですが、絵の色彩が人工的に美しい事が、影響しているのではないかと考えました。
光を通したセロファン紙のように明るい青、水色、緑、蛍光ピンク…
実際の植物や風景を、視覚的に美しく変換した、人工的な色合いで描いているため、現実からの浮遊感が生まれたのかもしれない…
美しい色のプラスチックを見るような。
画家の中で加工された風景はデザイン的で、
色や形が、ある種の記号のように鑑賞者の記憶を刺激するので、どこか”懐かしさ”を感じるのかもしれません。
記憶の中に存在する、個人的風景を思い出させるのです。
「どこでも」描ける、絵を描くことで「どこにでも」行ける。
展覧会のタイトル「Wherever」は、そういう意味をこめました。
小西真奈
彼女が描いた「どこか」は、「どこにでもある」ような風景として、メッセージ性が薄められ、鑑賞者の内にひたひたと、水のように染み込んで来ます。
見る人を巻き込む
会場を巡りながら、ハッと気づいたのは、自分が小西さんの絵を見ながら「どこかで似た風景を見ただろうか?」と無意識に自分の記憶を探していた事でした。
脳が自動的に(!)記憶を探し回っていたのです。
まるで絵の風景を、自らの記憶で補うように。
「Untitled(無題)」の画名が非常に多いところも、見る人にテーマを委ねようとする意図があるのでしょうか。
こうした仕組みが、絵と鑑賞者の距離を縮め、記憶と混じり合って、「私の絵でも、ある」ように心に取り込まれる。
見る人のマインドに染み込み、記憶を巻き込んでしまう「共同創造」マジックが、彼女の絵に働いているのではないか、と感じました。
#小西真奈 #Wherever #府中市美術館 #三嶋りつ惠 #そこに光が降りてくる #懐かしさ #ドローイング #共同創造マジック