【柚木麻子】「BUTTER」読書ノート
「人生を味わう」
これはまた、面白い表現だ。
だが、意外と的を射ているのかもしれない。
人間の三大欲求の一つである「食欲」
人間が食事を取らずに生きていくことは難しい。
どうせ食べ物を摂取するのならば、味わって食べたいものだ。
人生も、また同じである。
人生を味わうために不可欠なことを、私は「BUTTTER」から教わった。
この物語は、二〇〇九年に発覚した首都圏連続不審死事件をヒントに作られたフィクションだ。
柚木麻子さんは木嶋佳苗容疑者の中に、どのような物語を見たのだろうか?
あらすじ
感想
「BUTTER」の中で最も私の胸を打った人物は、主人公里桂の友人・伶子だ。
伶子のような女性は、かなりの比率で存在するのではないだろうか。
伶子は裕福で仲の良い両親のもとで育った、と思っていたが、実は母の味すら知らない少女時代だった。
中学一年の頃、両親にそれぞれ公認の愛人が何人もいることを知ってしまう。
伶子は中学二年の夏に両親を前に証拠を突き付け、二人の不貞を責め立てた。
そのとき父親に言われた言葉に激しい怒りを覚えた伶子は、ある決意をする。
そこまでの決意を中学生にさせるなんて……。
十四歳の伶子の心の傷の重みを考えると、私は暗雲たる気持ちにならざるを得なかった。
結局、伶子はその誓いを守ることはできなかった。
だが、できる限り将来を考えられる男性以外と関係を持つことは避け続けた。
私自身は伶子ほど徹底していたわけではない。
だが、初めて恋人ができた10代の頃から、現在に至るまで「この人と結婚することはないな」と悟った途端に別れを切り出してしまう。
今現在ならまだしも、高校生の頃からそうだったのだから、私は少し変わっていたように思う。
その点において、伶子と私は似通った部分があるのかもしれない。
もう一点、私と伶子の共通点をあげるならば「女としては、声が低い方」という部分だ。
アニメーションが流行る現代において、「可愛らしい女性の象徴」の一つとして、少し高音の声質が上がる。
私自身は幼いころより、自分の若干低めの声質に対してコンプレックスを感じ続けてきた。
突出して低い、というわけではない。
だが周囲の同性を見渡したとき、割合に低い自分のそれは、何かと私の「女らしさ」に関する劣等感を冗長してきた。
その似通った感性に私の中の何かが共鳴して、伶子の言動や行動にある意味、主人公の里桂以上に注目してしまった。
相手に悪く思われないために、自分の本音を殺すこと。
それは一時ならばできるのかもしれないが、夫婦とはこれから50年以上の人生を共にする、いわば相棒のことだ。
50年以上も「良い人」を演じ続けるのは至難の業である。
少なくとも、私にはできない。
相手に全て合わせる必要はない代わりに、自分好みに相手を変えようともしない。
相手の良い所も悪い所も受け入れる努力をしたいと願うと同時に、自分自身の長所も短所も相手に認めてほしい。
相手の感性や感受性に、自分がどこか打たれる部分があるからこそ、人は他人を愛するのだろう。
自分が惹かれた、その部分を大切に慈しみたい。
相手のそれだけは変えようとしてはならない。
だからといって、自分のそれを殺す必要もない。
もしそうすることによって不快感や嫌悪感を抱いて辛くなるのであれば、それはもう離れた方が互いのためだ、と私は考えてしまう。
憎しみをそのままにしておくと、大切な人の喜びでさえ嫉むようになってしまうからだ。
そんな哀しい人間に、私はなりたくはないのだ。
人間はどうしたって、思い込みの強い生き物だ。
自分が「こういうものだ」、と捉えていたことが実は大きな勘違いだった、なんてことはよくある話である。
長い時間をかけて、互いのギャップを埋める作業をし続けていくということ。
それこそが、「結婚生活」というものなのかもしれない。
BUTTERはこんな人におすすめ!
適量を知りたい人
人にはそれぞれ適量があります。
「人間関係の適量」「仕事量の適量」「食事量の適量」「モノの量の適量」など。
その適量が自分にとって心地いいものであるとき、人は幸福を感じるのです。
しかし今はストレス社会。
ついつい自分の適量を見失ってしまうことも。
そんなあなたに「BUTTER」がおすすめ!
忘れてしまった自分の適量を思い出させてくれることは間違いないでしょう。
男性社会の中で活躍されている女性
男性社会が色濃かった一昔前に比べ、女性の社会進出が加速してきた現代。
目まぐるしく変化する日々の中、お仕事を頑張っている女性の皆さん。
上司の女性軽視の一言にイライラしてしまう日もありますよね。
そんな夜には「BUTTER」をどうぞ!
自分らしく生きてゆくための鍵が隠されているかもしれません。
恋人との関係や夫婦関係に悩んでいる人
以前はうまくいっていたのに最近パートナーとすれ違ってばかり。
向き合おうとしているけれど関係は悪化していくばかり……。
途方に暮れているあなたは「BUTTER」を読んでみませんか?
見失っていた愛を取り戻せるかもしれません。
おわりに
「自分で自分を認めること」
それはすなわち「自分で自分を幸せにする」ということだ。
精神的に自立して生きてゆくことは、互いを尊重して支え合いながら暮らしを営むことに繋がっていく。
そのために必要なことは「今この瞬間のありのままの自分」を誰よりも私分自身が愛することだ。
だからこそ私は、その自分を今現在できる範囲で少しだけ幸せにしてあげたい。
自分が食べたいと感じるものを作ること。
それを、ゆっくりと味わって食べること。
夜空の月や星を心ゆくまで眺めること。
好きな小説の世界観にじっくりと浸ること。
何も特別なことをする必要はない。
自分が心地良いと思うことを、日々の暮らしの中で適量加えてあげるといい。
柔らかくあたたかい思いやりは降り積もり、想うあの人の心に愛をお裾分けしてゆくのだろう。
「BUTTER」
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