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テレビドラマ『君となら恋をしてみても』シーズン1の話がしたい

2023年10月5日から11月2日にかけて毎週木曜深夜、全5話にわたり放送されていたテレビドラマ『君となら恋をしてみても』シーズン1。
通称『なら恋』の話がしたい。

こちらのドラマは窪田マル先生原作コミックスの実写化で、2025年2月現在既刊5巻、マンガParkというアプリにて32話まで連載中だ。
最新刊5巻には25話まで収録されており、その続き26話からマンガParkですぐ読めてしまうので、続きが気になって仕方ないオタクのメンタルが大変助かっている。
ちなみに既刊コミックスにも収録されていない、今のところアプリ限定で読める『おまけ』の破壊力もすごいので、今週は連載の続きじゃなくておまけだ〜と油断すると必ずしぬ。油断してなくてもしぬ。(※5巻のアニメイト限定20P小冊子には修学旅行編のおまけ+描き下ろし4Pが収録されている。)

ドラマの放送時期は秋だったけれど、美しい画で丁寧に映し出された夏の江ノ島はすべてが眩くきらめいていて、寄せては返す波の音、肌を撫でる海風、降り注ぐ真夏の太陽、沈みゆく美しい夕陽、清らかな朝焼け、夕立の匂い……温度や湿度まで五感で感じられる風景の瑞々しさに、ふたりの恋模様を俯瞰で見守るだけではなく、毎週深夜30分だけ同じ世界の住人としてそこで暮らしているような気持ちにもなれる没入感だった。
きらめく夏の江ノ島で、胸に灯る想いをひとつひとつ大切に恋を紡いでいく高校生2人の尊さが堪らなくて愛おしくて、観終わったあとは毎話駆け出してしまいたくなりながら気づけば壁打ち1年以上。感想を小出しにするにも限界がある。

昨年3月末に開催されたBlu-ray発売記念イベントは元々配信視聴するつもりだったので、配信URLメール取得に必要なシリアル応募の形でドラマの感想欄に出来るだけ冷静な文章で想いを認めた。600字以内という制限があったので収めるのに苦労した。
特典が3種類あったので脳直で3枚購入していたから残りのシリアルは台本の抽選応募に宛てた。その際にももちろん内容を変えて600字以内に収まるよう努めて冷静に感想を送ったけれど肝心なことをひとつ書き忘れてBDを買い足して、結局600字×4通の感想を送ってしまったのにそれでも伝え足りない、話し足りない衝動に駆られてこれを書き始めたのはイベント直後の4月だったのに、もうリリイベから1年が経とうとしている。こわすぎる。

シーズン1放送当初はドラマを観終わってから原作を読もうと思っていた。ドラマ化きっかけで原作を知ったので、そのほうが両方ちゃんと楽しめる気がしていた。
けれど4話が放送されるあたりで全5話と知り、それってつまり来週最終回!? 早くない!? どう、どうなるの……!?
と、ドラマ最終回の展開が気になりすぎて即電子書籍で既刊4巻すべて購入。
色々調べてみると描き下ろしが紙と電子で違う巻もあるらしい、紙にはカバー下あとがきもあるらしい、ドラマ化決定の帯付きもあるらしい、とのことで後日、紙コミックスも購入。
さらにはアプリで連載中な上、放送時点で最新刊だった4巻の続きがそちらですぐ読めるらしいと知り、ほぼ無課金で読めてしまう福利厚生を我慢の効かなさでスルーして一気読み。今では毎週木曜24時(金曜0時)更新の連載を読んでひとしきり彼らに想いを馳せたあと、こんなの絶対実写でも観たい……!! と、心のちゃぶ台を両手でぶっ叩いてドラマのシーズン2を祈り願いながら眠りに就いている。
先日から充電期間に入ったので連載はしばしお休みだけれど、話数的には既刊5巻以降の6、7巻分とおまけをまたゆっくりじっくり読み返すのに良い機会だと思う。

薄々勘付かれているかもしれないけれど、ドラマなら恋シーズン1の話がしたい=ドラマなら恋シーズン2を待ち望むオタクの怪文書である。

前置きが長すぎる。

※原作、ドラマ含め『君となら恋をしてみても』の話をします。
※双方のネタバレもします。

そんなこんなで結局ドラマの放送が終わるのを待ちきれず最終回手前で原作をアプリ連載まですべて読んだオタク、ここにきてドラマ第1話冒頭から脚本と演出の素晴らしさが炸裂していたことに気づき天(てん)を仰ぐことになる。

第1話は、引越し先である祖母が暮らす町に天(あまね)が降り立つところから始まる。
海水浴場側から捉えた江ノ島の全景。
よく晴れた夏の空の下、風が海岸を撫で海の鳥たちが鳴いている。
砂浜に打ち寄せる真夏の太陽を反射したきらめく波。
電車が走る音と共に竜宮城のような鮮やかな外観の片瀬江ノ島駅が映し出され、駅のホームにがやがやと降り立つ人々の中には手を繋ぐ男女のカップル、仲良さそうな男女のグループ、ただ並んで歩く男女、1人で歩く男性や女性。
年齢も様々だけれど、天が電車を降りるタイミングで主に同じ画面にいるのは1人で歩く男性と、手を繋ぐ男女のカップル。
そこへメッセージアプリの通知音がして画面を開いた天は小さな溜息を吐き、そして吸い込まれるように駅に常設されている新江ノ島水族館、通称えのすいのクラゲ水槽の前に立ってこう思う。

『クラゲには感情がない。だからきっと、恋もない。』

ドラマでは原作には無いこちらのモノローグが最初の言葉だ。
原作は『俺には「好きな人」がいない』というモノローグから始まる。
こちらもドラマチックな1ページ目になっていて天が生きてきた人生がよくわかるし、読み進めていくほどに天がどうしてここに行き着いたのか、その心の奥が見える印象的な言葉だ。
けれど確かに実写にするとインパクトが強く出過ぎるかもしれないシーンでもある。
以前、窪田先生と担当編集玉田氏のスペースで、冒頭のシーンは物語における大事なエピソードではあるけれど映像表現としては難しいかもしれないと思っていた、というようなお話をされていた。そしてさらに、ドラマオリジナルのクラゲモノローグが脚本の初期段階から存在していたことも質問箱に答える形でお話されていて、このエピソードは監督のインタビューでも語られている。
驚いた。
この神モノローグが初期段階で既に生まれてることあるんだと思った。
シーンのセンシティブさを自然に和らげつつ、天がこれまで生きてきた人生を思わせるような、もうこれしかない、これ以上ない大正解モノローグで始まるドラマ、信頼しかない。
そこに言及できるのは世界中で窪田先生ただひとりなのは承知の上で、ただのオタクが言ってしまうけれどもこんなの信頼どころではない。
大大大大大大大大大大信頼である。
脚本の森野マッシュ先生が窪田先生ではないのなら、生き別れの双子を疑うレベルで確かに海堂天(かいどう あまね)のモノローグだった。

そしてさらに窪田先生の生き別れの三つ子登場である。松本花奈監督だ。
この大信頼モノローグを、ひとりでクラゲを眺める天の後ろ姿と共に映し出すという愛。
監督のセンスと才能が炸裂しているのもさることながら、その才能を解放する根底に天というひとりの人間への愛が溢れていて、と同時に、絶対この先のふたりの物語も私が撮る、という監督の熱意を勝手に感じたオタクは3巻のえのすいデートをめちゃくちゃ読み返した。絶対実写のふたりでも観たい。

さて、天が降り立った駅のクラゲから映像はどこへ向かうかというと、引越し前夜に遊び相手と居たホテルの一室を彩るアクアリウムに漂うクラゲだ。
しかもこのクラゲ、装飾用のシリコンクラゲなのである。本来クラゲが泳いでいないアクアリウムに色とりどりのシリコンクラゲを仕込むという天才的なさり気なさ。社会人が16歳高校生を相手に遊んでいるバリバリセンシティブシーンが、原作でも印象的なクラゲをキーアイテムとしたモノローグと合わさり物語の導入としてなだらかに作用していて、天の人生を語る上で欠かせないエピソードを実写でも描きたいという意志が静かに伝わってくる。
クラゲの変遷を時系列で辿れば、遊び相手といたホテルのアクアリウムを漂うクラゲが片瀬江ノ島駅の水槽を泳ぐクラゲになり、駅でひとり見たクラゲが今度は龍司とのえのすいデートでふたりで見るクラゲになって、この先、天の恋が実って続いていく未来を想えるし、
天の回想で辿れば、ひとり降り立った駅で見るクラゲに昨夜のホテルにもいたなぁとぼんやり思い出した天のクラゲモノローグが、そのあとの『俺が本気の恋とか、ウケるな。』に繋がることで、天がこれまで不要に傷ついてきた過去や、想いが確かに存在することを諦めるしか選択肢がなかったやるせなさが一層深くグッと胸に迫ってくる。
と、ちょうどこのモノローグ『俺が本気の恋とか、ウケるな。』のタイミングで自動改札を通る天はチャージ不足で扉が閉まり足止めされてしまうのだが、まるで始まってもいない恋に予防線を張るかのようなシーンに胸が痛む。
この時点でのクラゲは、他者に特別な感情を持ち過ぎない、心を誰かに左右されないよう努めてふわふわ軽やかな雰囲気を装って生きている天を象徴しているように映る。
けれど3ヶ月後には、寂しげな印象だったクラゲが龍司との初デートで行く新江ノ島水族館のワンフロアを占める水槽を漂うクラゲになり、それを綺麗だと眺める天の後ろ姿に龍司はこっそりスマホのカメラを向けるのだ。
引越し初日=遊び相手と寝た翌日、江ノ島に降り立った天が『クラゲには感情がない。だからきっと、恋もない。』と、ひとりクラゲを眺めていた後ろ姿が、初デートで龍司がそっと写した天の後ろ姿になるシーズン2、早く観たい。

ここまで開始2分50秒。いよいよオープニングだ。
the shes gone がこのドラマの主題歌として書き下ろした楽曲『きらめくきもち』に乗せて、眩しい夏の江ノ島とふたりの恋のきらめきが爽やかに混ざり合う、まるで美しい夢のような、いつかの懐かしい想い出のようなOP。
それでいてこの世界のどこかで、ふたりの物語は確かに地続きに存在するんだと思わせる何気ない日常の実在感。この尊さ溢れる40秒は、きっと大人になっても一緒にいるふたりが不意に思い出す夏の想い出なのだろう。
そう思わせる歌詞とメロディが映像と相俟って、観る度に眩しくて尊くて胸がいっぱいになる。
シーズン2の主題歌も絶対 the shes gone に書き下ろしてほしいと思うくらい、なら恋の世界観に、龍司と天にぴったりな主題歌が彩るドラマが全5話だなんて未だに信じられない気持ちだ。
23分×5話なので全話観ても115分。2時間ドラマより短い。映画なら1本だ。
サクッとイッキ見しやすい良さはあるけれど、強欲なのであと100話は観たいのが正直なところ。
強欲ついでにシーズン2の主題歌MVにはぜひ龍司と天、もしくは日向さんと大倉さんのお2人で新しい物語を紡いでほしいと思う。

オープニング明け。
「ばあちゃん? 天だよ」と江ノ島に着いたことを連絡する天がかわいい。
そこへふたりの出会いのきっかけになる江ノ島の猫・タル助が天のごはんに飛びついて、落ちたコンビニ袋の中身をムシャムシャ食べ始めてしまう。しょうがないなぁと撫でる天に「すいません!!」と声がして、振り向いた先には猫を追いかけて駆けつけた少年。その姿を見た瞬間の天のモノローグはこうだ。

『お、タイプ』

最高最高最高。顔がタイプで始まるボーイミーツボーイは最高だって決まってんだ。
そして申し訳なさそうに佇む少年に天が「名前は?」と問うと彼はこう答える。

「山菅龍司です」

天才天才天才。これが山菅龍司(やますげ りゅうじ)だよ。ここに彼の良さがみちみちに詰まってる。素直1000%山菅龍司。
天も「あ、いや…猫の」と言いながら笑ってしまって「龍司くんね。俺は海堂っていいます」と名乗り、世界一の自己紹介が終了。
そして龍司は天が既に顔がタイプでときめいてるなんて露知らず、さらっと「よかったら、うち来ます?」と誘う。思わぬ誘いにときめき継続中の天は一瞬、下心的な期待の顔を浮かべ、それが家業の食堂を手伝う龍司のお詫びごはんだとわかるとすぐおいしいごはんへの期待の顔に変わる。
「ちょっと歩くんですけど」と言う龍司の言葉を信じてついて行った結果、天にとっては結構な山登りになってしまい途中ご機嫌ななめになったりもするのだが、龍司の励ましもあり無事辿り着いた先には眼下に広がるきらめく海と、食堂の入口に並ぶおいしそうなメニューの数々。さっきまでの疲れなんて嘘みたいに大はしゃぎの天にクスッと笑ってしまう龍司と、それに気づいて少し恥ずかしそうな、気まずそうな天の表情のやりとりが良い。
「機嫌直ってくれてよかったです」と爽やかに笑ってエプロンを身につけ厨房で生しらす丼を作り始める龍司は、さっき店頭でメニューを見た天が「あ! 生しらす!」と嬉しそうにしていたのもあってこれをチョイスしたのかもしれないが、一方、天は絶賛下心満載で調理中の龍司を『1回くらい遊びたいけど、ノンケっぽいよな〜』と眺めている。
龍司が盛り付けた生しらす丼を「すっごく美味しい!」ともりもり食べる天。
自分は料理しないから尊敬しちゃうな、すごい、えらい、と天が褒めると龍司は「えらい? ですかね、家業を手伝うのは当たり前っつーか……」と、もごもご素直に受け取れない。
けれど天は龍司を真っ直ぐ見つめてこう言うのだ。

「当たり前って簡単なことじゃないし。龍司くんは胸張っていいと思うよ」

これを受け取った龍司の表情が本当に良くて……天才的なぶっ刺さり顔をしていて、思えばこの時点でもう龍司にとって天は『また会いたい人』にはなってたんだろうなと思う。もしまた会えなくても、折に触れ不意に思い出してしまうような思い出のお兄さんにはなっていた気がする。
まぁ全然わりとすぐ無事再会します。やったね!

そんなこんなでふたりは天の転校先で同級生として再会する。
黒板の日付は2023年6月26日(月)。
遊び相手が「引越し明日だよね」と言ってるのでこれを金曜の夜か、もしくは土曜の夜と仮定して龍司と出会ったのが土日のどちらかとすれば翌日か翌々日には再会している。運命じゃん。
席は窓側の一番後ろ。龍司の隣。担任の先生大天才の瞬間だ。

そして天は転校初日=龍司と再会したその日のうちに「放課後、デートしよ」と軽やかに誘ってみる。
ソフトクリームを見つけて駆け出す天に「気をつけてくださいよ」と、お兄ちゃんムーブで気遣う龍司はいちごと抹茶で迷う天を前にサラッと両方注文し、天に「はい、どうぞ」とソフトクリームを2種類差し出す。

ここで冒頭のシーンに遡ってみる。
ホテルでシャワーを浴びて出てきた天に遊び相手がバニラアイスを差し出した時、天は「あれ? いちごのもなかった?」と尋ねるけれど、男は「ごめん、そっち食べちゃった。アマネくん、甘いのならなんでも好きでしょ」と悪びれもせず煙草とライターを手に取り、天も渋々「まぁ……そうだけどさ」と残ったバニラアイスの蓋を開ける。
天の名前をカタカナでしか呼べない男に天のことを知ったかぶりされた腹立たしさはとりあえず置いておく。

このカップアイスとソフトクリーム、双方のシーンの対比が見事で、遊び相手の男は天に選択肢を与えなかったけれど、龍司はそれが当たり前のように、なんでもないことのように自然に天に選択肢を提示している。龍司が言う「俺、どっちでもいいんで」は無関心ではなく天への思いやりだ。そして天は龍司に言われたとおり一口ずつ食べて、特においしかったほうを選ぶ。
ここで天が、ほんとは食べたかったのに遊び相手に食べられてしまったいちごを選ばずに、いちごと抹茶の両方を食べた上で抹茶を選ぶところにグッとくる。
こういった対比は原作にもたくさんあって、短いスパンで回収されることもあるし、そういえばこれって……? と読み返したくなるようなロングパスもある。
そのうちのひとつがカップアイスとソフトクリームの対比のシーンに続く。

思いがけず龍司にソフトクリームを「あーん」できちゃった天は「今のデートっぽかったね」とはしゃいでみせる。
すると龍司が「さっきからなんなんすか、デートデートって」と、恐らく誘われた時からその言葉の真意を図りかねていただろう素直な疑問を口にして、天はなんでもないような口ぶりで答える。

「デートのほうがアガるじゃん」
「いや……逆に虚しくなりません? 男2人で」

この時の龍司が言う『男友達と2人で遊ぶことをデートって呼ぶなんて虚しい』という感覚を、龍司自身が感じたことがあるのか、そういう世間のイメージを口にしただけなのかはわからないけれど、そんな風に言っていた龍司が1ヶ月後には天を花火大会にふたりで行こうと誘い、そのさらに1ヶ月後の夏祭り当日には一緒に花火見ようよと誘ってきた同級生たちに「悪い。俺らふたりで見るから」と断るのである。
この4話と5話に向けて投げられた対比のシーンで天は「俺、男が好きだし」とサラッと打ち明けたつもりだけれど、そもそも初対面で天のストレートを食らっていた龍司には全く通用しない。「茶化さなくていい」と、あまりに真剣に受け止めてくれる龍司にどうしていいかわからない天の手から、空気を読んだ抹茶アイスがこぼれ落ちる。嘆く天に龍司は美しい夕陽を指差して、綺麗だと喜んで写真を撮る天の姿に何か思い浮かんだ彼は、空っぽになったソフトクリームのコーンと天の写真を撮り始める。
カメラマン龍司に指示されるまま撮られていた天が駆け寄ると、そこにはコーンに乗った太陽にかぶりつく天の姿が写っていた。
「夕陽アイス! 俺こういうの大好き!」
大喜びの天に龍司が言う。

「よかった。喜んでもらえて」

山菅龍司〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!
食堂に連れて行った時は「機嫌直ってくれてよかったです」とか言ってた男が「よかった。喜んでもらえて」????? なん……なんなんですか!? そら天も恋しちゃいそうなめろめろめろめろ顔になるし、出会って3日目くらいの天が龍司にとって『喜んでほしい人』『喜んでくれたら嬉しい人』になっていて、そんなのはもう恋の種じゃん。花が咲くまで水をあげるっきゃないじゃん。
なのに天は遊び相手に言われた「ほんとに好きな奴作んなよ」が過ぎって顔を曇らせてしまう。中学の頃の苦い苦い記憶。傷つくのが怖くて遊び相手に逃げたのに、また恋をして、また傷ついたら?

このドラマは、恋をするもしないも自由に選べるはずのこの世界で芽生えた想いを恋心だと認められる天が、けれど打ち明ければまだ傷つくことが多い日常で、それでも君となら恋をしてみてもいいのかもと思える、祈りと希望の物語だなと思っていて。
原作を読んだ時の印象もそうで、こんな人いる? いないでしょ。と思うような素敵人間龍司と友人たちが居て、ただのオタクは勝手に祈りの部分を龍司が、希望の部分を友人たちが主に担っていて、それぞれに祈りと希望が込められているように感じているのだけど。
果たして漫画原作を実写化した時に、そんな『祈り』と『希望』が成立するんだろうか。
って多分、元々原作ファンでずっと連載を追ってきたところに実写化のお知らせを聞いたオタクだったら危惧してたと思う。
でもドラマ化きっかけで原作を知ったので、もう大天才原作の大天才ドラマで大天才と大天才の神コラボでしかなくて。

ではここでオープニングクレジット順にキャストさんたちに触れていきます。

まずは山菅龍司を演じた日向亘(ひゅうが わたる)さん。
あなたは山菅龍司を演じるためにこの世に生まれてきましたか?
と思うくらい龍司だった日向さん。演じてるんだけど演じてない、ただただ山菅龍司としてそこに存在していて、でも本来それが一番難しいはずの役でそれを成立させている日向さんが本当にすごくて素晴らしくて大大大大大感謝。
実在する江ノ島が舞台とはいえ原作は漫画だし、きっと窪田先生の祈りや希望が込められていて、それはある意味、現実世界では叶わない、叶うにはまだ時間がかかるような願いでもあって。
けれどそんな祈りも希望も願いも全部「いや、もうここに居るけど」と言わんばかりに自然に存在している山菅龍司。
それを違和感ひとつなく現実世界に、我々オタクの日常の地続きに彼が、彼らが確かに生きている、生活していると思わせる日向さん。
すごい、なんてもんじゃない。表現できる言葉が見つからないくらい本当にすごくて。
強いて言うなら、この世で一番、山菅龍司を演じるセンスに長けた人。
BD特典のメイキングに本読み初対面の時の様子が収録されていて、それを終えたあとのコメントもそれぞれ撮ってくれているのだけど、日向さんが「1人でずっと見えない天と対話をしてきたので」って話してるのがとても好きで。
俳優のアプローチとして当たり前のことなのかもしれないけれど、そのマインドがとても嬉しくて、前述したとおり山菅龍司を演じるセンスに長けた人でもあるけれど、それはイコール元々の素質と龍司という人物との相性が良かったのかもとも思う。
そして見えない天と対話をしてきた日向さんが、実際に龍司として大倉さん演じる天と向き合った時の素晴らしさといったら。
特に第4話。

「しばらくは、俺に片想いしといて」

この台詞を山菅龍司として言える日向亘さんほんと全宇宙一の大大大大大天才です。
実はここ原作と表情が違ったりするので是非両方見てほしい。どちらも素敵なので。
4話は視点が天から龍司に変わるところも神構成で、モノローグも当たり前に龍司でしかなくてすごい。
そして第5話でも途中から視点が龍司に切り替わって、天に告白されてから片想い保留を申し出たあと、龍司がどうやって答えを見つけたのか、その過程が描かれる。
原作もドラマも龍司はひとり自問自答しながら天の想いと向き合うけれど、ドラマオリジナル部分ではそこに龍司のお母さんとのやりとりが加わって、ドラマならではの素敵なシーンになっている。
このオリジナル部分が違和感なく成立しているのも結構すごくて、お母さん役の肘井ミカさんのお芝居が本当に素晴らしいので5話の11:22〜あたりの表情を是非見てほしい。母と息子の静かなやりとりの中に龍司がこう育つのがわかる、あたたかな愛があってとても好きなシーンのひとつだ。龍司がちゃんと息子の顔をしているのも良いし、原作の延長線上に亡くなった父親について母親に「まだ寂しい…?」「会いたい…?」と訊ける龍司が居るという尊さ。その尊さを具現化できる日向さんと肘井さん。大助かりである。大大大大大感謝。

このターンの最後にひとつだけ。
第5話終盤の龍司のサイレント「はい」をどうか見てくださいよろしくお願いします。見ればわかります(もしかしたら「手」かもしれない)。

さあ、そして海堂天を演じた大倉空人(おおくら たかと)さん。
徹頭徹尾、何から何まですべてが確かに海堂天で、それは最初の本読み後のコメントにも現れていたように思う。
メイキングコメントなので多少の編集はあるだろうけれど、「見えない天と向き合ってきた」と話す日向さんとは対照的に「いや〜…かっこいいね〜……かっこいいなと思いました。ほんと龍司だなぁと。しかも身長もおっきいので、かっこよさ倍増でしたね。スタイルも良く、肌の色感も良かったですね」だったのがもう顔がタイプから入る天そのもので。しかもそのあと「すごい天みたいなこと言ってますけど」って話してるとこまで最高に良すぎる。「身長もおっきいので」のとこで、そこに居ない日向さんを見上げるかのように眼差しを向けるのも天才仕草で、大倉さんも天を演じるために生まれてきた人でした。湘南出身だし。

そして何より大倉さんのすごいところは、ドラマオリジナルのモノローグから始まる物語の導入を海堂天として担っているところだ。

『クラゲには感情がない。だからきっと、恋もない。』

このモノローグに至るまでの表情も、語る声音も、原作の延長線上に存在する天そのもので、あまりにも切ない。
この時の天を救うためにも、シーズン2で3巻のえのすいデートを放送しないといけないのだ。

恋をしないクラゲを羨ましく思う天が、龍司と出会うことで過去の傷と少しずつ向き合うことができて、自分の気持ちに嘘をつかずに息ができる場所がどこなのか、恋心と共に気づいていく過程を、大倉さんがとても丁寧に、そして眩しいくらいの瑞々しさで演じている。
感情の機微が瞳や眼差し、眉や睫毛の角度、指先からも伝わる細やかさで、これはアイドルとしてのキャリアも存分に発揮されているように感じる。クランクインの2日目にワンマンライブしてたスケジュール超人すぎる。
そういった細やかな機微にモノローグがしっかりリンクしていて、原作の愛おしさそのままの天がずっと居てくれるありがたさ。大大大大大感謝。

とにかく天はときめきの連続で、無自覚龍司のドストレートを食らいまくるのだけど、そのときめきを引き出す龍司の無自覚さも自然だし、ときめいちゃう天も自然で、これはおふたりの役との相性も良いし、芝居の相性も良かったんだろうなと思う。
なら恋に限らず創作物を生身の人間が演じる場合のすべてに言えることかもしれないけれど、どこかに違和感があるとすべてが嘘になってしまうので、それがないのはとてもすごいことだ。
しかもメイキングによると7/18にクランクインして約2週間で撮りきっているし、江ノ島ロケなんて4日間というタイトスケジュール。海堂家での撮影も初日で全て終えていて、もちろんストーリー順で撮影できるわけもなく時系列はバラバラ。それが当たり前の職業かもしれないけれど、そういった中で時系列に沿って感情を整理しながら、お互いのお芝居を受けて龍司として天として向き合ってくれた作品がこんなにも素晴らしいこと、そりゃあシーズン2の放送を待ち侘びても仕方がないだろうと思う。
だって日向さんの龍司と大倉さんの天で見たいシーンが、素晴らしい原作に山ほどあるのだから。

シーズン2の放送が始まるまでの間にシーズン1を繰り返し見るのは当然として、ほかにもドラマの複製台本をグッズで販売するとか、シナリオブックを発売するとか、サントラを配信するとか、リリイベを例えば公式同時視聴会限定で再配信するとかしてくれたらとても嬉しいです。
とにかく台本が当たらなかったし当たった方をいまだに観測できていないので台本が……とにかく台本が読みたい……台本を読ませてくださいどうかよろしくお願いします。
というのを然るべきところにどれくらいの頻度と熱量で送ったらいいのかがいつもわからない。控えめにした熱量をここで解放しています。怪文書なので。


怪文書ついでに天の遊び相手の話をします。
まずメッセージアプリの天。

22:33 着いたよー
22:33 どこ?

に対して、この男

22:34 もういるよ?
22:34 音声通話0:23

って、こいつ……22時半に16歳高校生を呼び出しておいてシャワーから出てきた天に「引越しの準備どう? 明日だよね」ってサラッと訊くところが憎みきれなくて〜〜〜〜〜〜〜〜森野役の遊屋慎太郎さんめちゃくちゃ芝居が上手い……。
しかも勝手に天のいちごアイス食べたあとに紙煙草にライターってあまりにも解釈一致すぎる……天が知ってるキスは紙煙草なんだ……天才…………。
このホテルの内装はリニューアル前だけどアクアリウム越しにシャワー浴びてる天が見えるはずなのに、断りも入れず(ち、、は挿れたくせによ)天が食べたかったほうのアイス勝手に食べるところも天才解釈(ちなみにこの部屋は303号室)。
それでいて天が転校してから2ヶ月後くらいに

『久しぶり、元気? 今江の島きててさ。会おうよ』

って、こいつ……引越し当日は『昨日はありがとね。こっち帰ってくる時教えて、また遊ぼう。』とか言ってたくせにさ〜〜〜〜〜〜〜まるで天のシェルターは俺だと言わんばかりの絶妙な距離感の演出が上手すぎて大人として最低極まりないのに全然憎めなくて困る。引越し前夜に誘ったのも、家でひとりで居るかもしれない天を心配してわざと呼び出した気がしてくるから怖い。天が頼れる大人がこんな男だけでいいわけないのに。森野役にこんなに芝居上手い人連れて来ないでください情が湧いてしまうし天と森野のなら恋前日譚スピンオフが見たくなってしまう。

そして恐らく1話冒頭のホテルのシーンを撮影最終日の朝とかに撮ってる可能性があるのもすごくて。
というのも、最終日のロケ地と待機場所の位置関係やメイキングのスタッフさんの服装、各公式SNSの情報を整理すると多分そうかな〜と。あくまで予想ではあるけれど。
夏休み中の天が黄昏ていた砂浜もOPもキービジュアルも同じビーチで撮影していて、そこから徒歩圏内のフォトスタジオが恐らく待機場所・控え室になっておりメイキングコメントもそこで撮っている。撮影協力にクレジットされていないので一応控えておくけれど、ウエディングフォトや各種前撮りなど人生の節目に地域の皆さまが利用しているとてもあたたかな雰囲気が感じられるフォトスタジオで、いつかりゅあまも記念写真撮ったりするのかも、と考えたりしながらたまにインスタを眺めている。
そしてこのビーチから車で数分の距離にホテルがあり、その裏手の建物が撮影協力にクレジットされているので、最終日にホテル(第1話)、黄昏天(第4話)、キービジュアル、OP水鉄砲を撮影してから湘南海岸公園に移動して銭湯帰り(第2話)を撮影、呼び捨てシーンでクランクアップだったのかなと思う。

とまぁここまで予想しておいて結局いつ何を撮ったかは関係なくて、あの酷暑の中、撮影終盤に物語序盤を撮るような怒涛のタイトスケジュールで全5話がこれ以上ない大正解で完成されたのは奇跡だし、すべてのキャストスタッフ陣には感謝してもしきれない。
願わくば、シーズン2はたっぷりスケジュールで12話くらい撮ってほしい。
ほんとはあと100話くらい見たいけど。

ところで、2話の銭湯帰り龍司と4話の黄昏天のTシャツが同じなのは撮影日が同じだからなのか、天がこっそりお揃いにしたのかずっと気になっている。
あと1話で遊び相手といた時のTシャツを4話では龍司との花火大会デートを指折り数えるうきうき天が着ていて、とてもとてもよかった。

最後に、忘れられないエンディングの話をして終わります。
EDはosageによる楽曲『夜煩い(feat.石野理子)』。
こちらは元々配信されていた楽曲が起用されたパターンで、特に深夜の放送をリアタイしたり、そのすぐあとを追いかけていたTVer勢は時間帯も相俟ってとても思い出深い曲になったのではと思う。
男性ボーカルと女性ボーカルがリレーとユニゾンでしっとりと紡ぐ心地好いメロディライン。切なさを纏う楽曲と歌詞が話数を重ねるごとに、より一層物語にマッチしていく不思議さがとても魅力的で、ふたりのきらめく恋を包み込む温かさに何度もグッときてしまう。
もしシーズン2で書き下ろし楽曲がきたらどうなってしまうんだろう。楽しみだ。

さて、ここまでとてつもなく長々と書いてしまったけれど、本日2月25日は天のお誕生日。
ドラマの彼らは高校3年生。共に18歳だ。きっと高校卒業まで、あと少し。
原作ではまだ描かれていない彼らの未来に想いを馳せながら、ふたりが歩むこの世界に幸多からんことを願って。
お誕生日おめでとう、天。

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