黒文字やにて③
ハルメク
「―――。話して来たら聞くし、聞かれたら、そうなのねって答えたりするわよ。でも私達から口を出すことはないわ、孫のこととかも。自分達の思う通り、考える通りしてもらえばいいと思うし。子ども達の考えで育てるだろうし。もう、うちは子ども達に言ってるの。私達のことは心配しないで良いって。ちゃんと準備して生活してるし、相続のこととかも、もう話してあって、みんな納得してるのよ。」
ちょっと耳を離した隙に、違う話になっとる!家族の話はあるあるだけど、ハルメクのご夫人は、なかなかイマドキの視点をお持ちの様子。ちゃんと相続の話しもしてて偉かねえ。
アディダス
「あら、もう?そうなの。うちはまだ一人結婚してないのがいるから。早くしてくれれば良いんだけど。」
出た!結婚してない子どもの話だ!
ハルメク
「そんな、今は結婚するとかしないとか自由じゃない?それでいいのよ、別に。その人の考えとかあるもの。40%くらいしないらしいじゃない。別におかしいことでもないし。それぞれの幸せがあるのよ。」
アディダス
「そうね、それも分かる。でも、長男がねえ。うちの人(夫)と同じであんまりしゃべらなくて、女の子をとっかえひっかえするんじゃなくて、一人の人とこう、ね。そう、良い子なのよね。誰か合う人がどこかにきっといるんだろうけど、親がこう、言うのもなんかね。」
ハルメク、すかさず
「それは、私は言わないわ。本人達のことだもの。聞かれてたり言ってきたら話を聞きはするけど、こうしなさいとかはもう言わない。結婚してる子達に対してもそうよ。」
ハルメクのご夫人、やはり”幸せは人それぞれ”の姿勢を崩さんね。日頃から意識してるとかな。
アディダス
「そうよね、言わないほうがいいわよね。分かってるのよ。母親としては、あるじゃない。子どもを抱く幸せとか、彼がどんな父親になっていくんだろうっていうことを思っちゃうのよね。」
はあ、そうか。そげんかことを思うのか。でも、なぜそげんかことば知りたいとやろ・・・?
ハルメク
「あ、私もそう思ったわ、前は。確かにそういうところはあるわよね。うん。」
え、そうなの?あるあるなの!?
アディダス
「そうでしょう。だから、早く結婚してくれたらと。やっぱり早くしてくれたらって思うのよね。」
ハルメク
「まあ、40%が結婚しないんでしょ?そういう時代だし、本人たちが幸せならそれでいいわけよ。周りから見てどうとか、こうしたらこうしなきゃダメみたいなことは、どうでもいいのよ。本人たちが幸せならそれでいいのよ。私達がこう思うからって、それを他の人達がしなきゃいけないわけじゃないのよね。」
ハルメクのご夫人、やはり姿勢を崩さない。最近、SDGsとか多様性とかテレビでも言ってるもんなあ。
喫茶店での何でもないマダムたちの会話が、慌ただしくて不確かな時代の昼下がりに流れていく。