黒文字やにて①
久しぶりの福岡。暑くなってきたし、都会でパフェでも食べたいと思い、事前に調べておいた。”大人の隠れ家”の謳い文句と、プリン・ア・ラ・モードのように横に長く盛られている和風パフェの写真に引かれ、黒文字やを訪れた。Google Mapに指示されるがまま、どんどん住宅街に入っていく。左の路地に入った瞬間、そこだけ時空が違うかのような雰囲気をまとった、草木に彩られた民家が現れた。
店の玄関を開けようとして、引き手付近に”喫煙可能店”の文字あり。このご時世に喫煙可能店かと尻込みするも、暑いし、パフェ食べたいしと思い、結局は入る。黒をベースにインテリアが揃えられ、バーのような雰囲気を持つ、落ち着いた和モダン空間が広がっている。入るなりたばこの臭いが。すでに喫煙者がいた。男性客が一人で一服しながら本を読んでいた。うう、厳しいかもな、と入って数秒で苦手なたばこの臭いに、気分がだだ下がる。喫煙可能店と書いてあったのに入ったのだから当方の責任だ。これも経験と思い、たばこを吸う男性客と対角の角の席に座った。
たばこの臭い消しの為に、予定になかったコーヒーを注文する。先に持ってきてもらうよう頼んでから、お目当ての黒蜜きなこパフェを注文した。すぐにコーヒーが来る。土の手触りが残る黒くて武骨な見た目だけど、両手に収まる愛らしい形のコーヒーカップに注がれたコーヒーの香ばしい臭いに、緊張がほぐれる。そのまま一口すすると、苦みが薄いさわやかな味わいに、ストレートにはミルクを入れがちな私は感心した。男性客は、何本目だろうか、もう一本たばこを取り出した。あー、これは早くパフェを食べて退散だな、早くパフェ来ないかな、と私は携帯を取り出した。
「――。昔は、ご近所の交流が結構あったわよね。」
「そうよ、今は本当に隣の人の事も分からないものね。」
一番近い左後ろの4人席に、70代くらいと思われるご夫人が2人、女子会をされているご様子。方言があまり出ていないからか、なんだか柔らかな印象を受ける点、他県からお嫁に来て福岡の都会に長年住んでいるマダムといったところだろうか。都会に住むマダムたちの話を聞く機会など、田舎に住む私にはそうそうない。なんだか面白そうなので耳を傾けてみる。
「私が子どもの時はね、普通さ、それこそ、ここの通りみたいなところでもさ、みんな知っとってさ、”おばちゃん、お菓子ちょうだーい。” ”なんね~。もう、分かったたい、ちょっと待っとかんね。これ食べてかんね。”とか言ってたじゃない。どげんしたと?なんかあったらいつでも言うてね。とか、お互い様な感じでさ、そういう声を掛け合う風景があったよね。あれ、私は好きやったわ~。」
だいぶ訛っているじゃないか。地元出身なのだろうか。なんだか面白くなってきた。