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バイバイ、大人になったピーターパン

右の方をよく見ていたらしい。
抱かれ癖がそうだったようだ。
首がどうしてもそちらを向く。
誰か居たのかな。
それとも反対側に誰もいなかったのだろうか。
眠る時も、頭がごろりとそちらを向く。
三十年間生きてきて、ずっとそうだから、今更、変わったりしない。たとえ貴方がつよくつよくお願いしてきても。

星が見たいと散々喚いてきた。
都会はね全然見えないの、って私が言っても、山育ちの貴方は信じてくれなかった。私がすごくすごく少ないのよ、と言っても。

夢に見ていた。星の夢を。本物より多いんじゃないかな、ってくらいの満天の星空だったけど、見た事ないから、わからない。
私は、星空を見られたとしても右ばかり見るのだろうか。星空の下で貴方に抱きしめられたとしても、顔は右がいい。

そう、すぐ貴方は言う。
言ってしまう。私の心をしゃべりつくしてしまう。
だから私の言いたい事はすべて出尽くして、私が言える事なんて残っていなくて。
でもまあ右を向かせて抱きしめてくれるというならば、妥協してやってもいいよそれくらい。私は少しばかり心が広いのよ。

それでも星が少ないって事を信じてくれないのは、ちょっと嫌。
ピアノを弾けるのよ、ある程度、って言ったときも信じてくれなかったけれど、そんなこととは比べ物にならないくらい、嫌。

「右から二番目の星が、どれだかもわからない?そんな事もわからないの?」

貴方ってさ、ちょっと、もしかしたら、大人になれちゃったピーターパンなんじゃないかしら。それくらい頑な。
私は大人になりきれないウェンディ。星空を乞うて、ここから一歩も動かない。
右ばかり見ているウェンディ。右から二番目の星が、どうしてもわからないウェンディ。

ねえいつか貴方の言ってる星を見せてよ。そして私を連れてって。
右向きで抱きしめて、これでようやく眠れるって安心させて。
だけど貴方が頑として信じない。だからなにもはじまらない。貴方はもう、空を飛ぶことができないし、私も、それを望まない。
さよなら大人になったピーターパン。私より二歩幅分速く左側を歩くピーターパン。右から二番目の星は、どこにあるんだろう。


#詩


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