医療マーケティング論①
大学院2年目前期には、医療マーケティング論という講義があります。
医療経営・管理の定義が、「良い医療を届ける仕組みを組織的に構築し、実践する活動」であることから、馬場園教授の専門である地域包括ケアシステムに関連させて医療マーケティングについてまとめてくださった内容が講義となっています。
複数回に分けて、概要のみ以下にまとめていきます。
マーケティングとは
マーケティングの本質が「市場と顧客の創造」であるというドラッカーの言葉や、経済学とは、“様々な用途を持つ希少性のある社会資源とその活用の関係としての人間行動を研究する科学”であるとLionel Robbinsの定義を引用し、医療におけるマーケティングのあり方がどうあるべきかをオープニングとしています。
Robbins, Lionel: An Esay on the Nature and Significance of Economic Science 2 ed, Macmilan, London, 1935.
戦略的マーケティング
戦略的マーケティングを「目標を明確にしてニーズやウォンツを充足する製品やサービスを市場に充足させていくプロセスを論理で示す」と定義し、その問題解決や経営方針の決定のための枠組みとして、様々なものがあります。
市場分析として内・外部環境分析、統合分析として4C分析・SWOT分析・バリューチェーン分析などが挙がっていました。
外部環境分析の例:PEST分析
・Political environment:政治・法律環境
・Economic environment:経済環境
・Social environment:社会・文化環境
・Technological environment:技術環境
※他に人口動態(Demographic)やビジネス手法(Business Method)などを含む考え方もあります
4C分析:
所属する事業者(Company)
競合相手(Competitor)
顧客(Customer)
他の医療・福祉施設との連携(Combination)
SWOT分析:
内部環境分析による事業者の強み(Strength)と弱み(Weakness)
外部環境分析による機会(Opportunity)と脅威(Threat)
これらを明らかにし、戦略の方向と戦略課題を発見することを目的とする
市場の選択とマーケティングミクス
市場選択の構成要素である、「セグメンテーション」「ターゲッテイング」「ポジショニング」、そして目標を達成するための手段を組み合わせる方法としてマーケティング・ミクスを解説しています。
マーケティング・ミクスは、いわゆる4Pで構成されています。
Product:製品・サービス戦略
Price:価格戦略
Place:流通戦略
Promotion:プロモーション戦略
そして、それぞれ、顧客の購入に影響を及ぼす4Cである
Customer Value:顧客の価値
Cost:費用
Convenience:利便性
Communication:コミュニケーション に対応している
競争戦略とブルーオーシャン戦略
競争戦略とは、「競争の発生する基本的な場所において、有利な競争的位置を探すこと」を指します。その競争位置として、マーケットリーダー、市場挑戦者、市場支持者、特定市場開拓者という分類があります。
マーケットリーダー:最大の市場占有率を持つ業界の牽引者
市場挑戦者:マーケティング・ミクスの4Pなど工夫をしてリーダーに挑戦する
市場支持者:マーケットリーダーを模倣することによって市場で競争する
特定市場挑戦者:特定の狭い市場に経営資源に集中する
また、2004年にW. Chan KimとRenee MauborgneがHarvard Business Reviewで提唱した、ブルーオーシャン戦略も扱われました。6つのパスと4つのアクションで、バリュー・イノベーションを起こすことが重要とされています。
6つのパス:
・代替産業に学ぶ
・業界内の他の戦略グループから学ぶ
・買い手グループに目を向ける
・補完財や補完サービスを検討する
・機能志向と感性志向を切り替える
・将来を見通す
4つのアクション:
「取り除く」「減らす」「増やす」「付け加える」という4つのセグメントに、業界や他社の取り組みを当てはめ、バリュー・イノベーションを検討するツール
このブルーオーシャン戦略は、奈良の森川先生も総合診療領域が目指すべき方向性について関連させて言及しています。
成長戦略
製品・サービスのライフサイクルとして、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階があり、それぞれに応じた戦略があります。
具体的には、アンゾフの成長マトリクス、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント、GEマトリックスがあります。
アンゾフの成長マトリクス:
ロシアの経済学者であるHarry Igor Ansoffが提唱した、組織の成長を導くフレームワーク。内部の組織と外部の顧客の存在する市場の状況によって、市場浸透、市場開拓、新サービス開発、多角化からなる4つの戦略を検討する方法である。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:
複数の事業を把握し、どの事業に投入する資源を増やすか、どの事業を撤退させるかの「選択」と「集中」を行う。
図:ボストン・コンサルティング・グループが開発したBCGマトリクス
GE マトリックス:
「市場魅力度」「ビジネスの強さ」からなる2つの局面による評価のツール