議院内閣制と大統領制
医療行政学という講義の導入部分で、一般的な「行政」について学びました。行政の仕組みを理解する上で、まず「議院内閣制と大統領制では、どちらがリーダーシップを発揮しやすいか」という問いに始まりました。
そもそもリーダーシップとは
そもそもリーダーシップとは何か、を考えたときに、単に「カリスマ性」とか「強い行動力」といったことではなく、「皆が納得しついていこうと思う方向性を示すことができる」ととらえました。なので、トップがリーダーとして適切な能力(分析・干渉・コミュニケーション・不均衡状態への対処…『リーダーシップは教えられる』より)を持ち、適切に発揮できるならば、大統領として一国家をあるべき方向性へ示せるだろうと考え、大統領制のほうがリーダーシップを発揮しやすいと考えました。この問いに明確な答えはないのですが、考える前提として議院内閣制・大統領制とは何か、ということを知っておく必要がありました。
議院内閣制と大統領制
議院内閣制の定義として、「行政権の成立根拠を議会(国会)の信任に置く制度」、具体的には、「議会で多数派を形成した政党が行政権を握る制度」です(『日本の統治構造』より)。欧米では議院内閣制を、議会と行政府の双方をコントロールできる内閣の長である首相、と認識していますが、民主政を重要視していた日本では異なった形を作り上げてきました。本当に民主政を目指すなら、大統領制のように「大統領」と「議会」があって、お互いそれぞれ抑止力を持って独裁にならないシステムが望ましいとされています。議院内閣制でありながら、民主政を目指した日本は、議院内閣制のイギリスとも違う独自のシステムを作り上げてきました。このような、本来の言葉通りのシステムができていったのは、日本に限った話ではありません。大統領制をとっている韓国は、同じく大統領制のアメリカと同じシステムかというとそうではなく、権力が大統領に集中していて、アメリカのように大統領と議会に分権されているわけではありません(最初のリーダーシップの問いで、私は大統領制というと権力が集中しているものと勘違いしていました)。
ざっくりとした説明になりますが、
▶︎議院内閣制:与党として優勢な党が政権を握る(イギリスが代表的)
▶︎大統領制:大統領はいるが議会の選挙はそれと別に行われる(アメリカが代表的)
となっています。概ねどちらかの制度を各国とっているわけですが、それぞれの代表国であるイギリスやアメリカと同じ形をとっているかというとそうではないのですね。
それ以外の行政の仕組みとして、スイスの「直接民主制」があります。直接民主制では、重要な議案を国民投票で最終決定します。例として、スイスが国連に加盟すべきかどうかを国民投票したところ、「スイスという国は厳格に中立を守るというスタンスを貫くべき」として否決されました。この直接民主制も難しいところがあり、代議制のほうがいい場合もあります(例:日露戦争の際、国としては状況も厳しく戦争を終結させようとしていたが、世論としては「勝っているのになぜ終結するのか」と戦争終結に反対し、日比谷焼き打ち事件が起きた)。
医療へどう活かすか
以上のように、行政の仕組みとして「議院内閣制」「大統領制」という大きく2つの制度があり、ただその仕組みは言葉通り受け取ってはダメで、それぞれ国ごとに独自のあり方を呈している、ということを学びました。また、興味深いのは、日本が国政としては議院内閣制なのに、地方行政は大統領制をとっていることです。国と地方で行政の仕組みが異なることは、医療行政・政策を考える上で重要だろうと思いますし、それこそ各国の医療制度が異なっているのと同じで、文化や地域の歴史的な経緯もあって、いろいろな制度設計があって明確な正解はなくそれぞれ模索していくべきものなのかもしれません。
国であれ地方であれ、一つの組織と捉えると、システムのあり方を理解しておくことは、医療行政や医療政策を考える上で重要ですね。個人レベルで言うと、医師として将来どう働くか、医療の立場からどういう役割を果たせるかという視点にもなるので、医学生の段階で今回のような講義があると面白そうです。初期臨床研修の先生、総合診療の専攻医に先生方にキャリアの話をすることがあるので、今回学んだ視点も意識しておきたいと思います。