20190929タイの薬局でパスタ食いながら接客された話サムネ

タイの薬局でパスタ食いながら接客された話

働き方改革とか言われて久しい昨今だが、そもそもどんな働き方だったら人は幸せなのだろうか。いやその前に、そもそもなぜ人は働くのだろう。

こんな問いを私はいつも頭の片隅に置きがちで、でもそんな私は全く生産性のない事ばかりしているのだが、それでも私はこんな事ばかり考えている。皮肉だ。

この問いを考えるにあたって、少しヒントになりそうな出来事に遭遇したので、今日はそれについて書いていこうと思う。

これはタイのチェンマイでの出来事。とある古めのショッピングモールに入っていた小さな薬局(ドラッグストア)での話だ。

私はいい匂いのマッサージバームを探して店内を物色していた。マッサージバームというのはその名の通りマッサージに使うバーム(軟膏)で、マッサージが本場のタイには有名なのからそこら辺のおばあちゃんが作ったような物まで、本当に沢山の種類があるのだ。別にマッサージとかしないけれど、いい匂いだから一つくらい欲しくなる。

カウンターには2人のお姉さんが座っていた。仲がいいらしくずっとぺちゃくちゃと楽しそうにお喋りしていて、その片方はコンビニで売っているナポリタンのようなスパゲティーをむしゃむしゃ食べていた。私がいてもお構いなし。小さい店内なので外からも割と丸見えなのだが、全然気にしていないようだった。

「日本の接客レベルは高い」というのはもう周知のとおりだが、実際に海外に行ってみるとそこは本当にその通りだなと実感する。

しばらくして、私がお目当の商品を持ってカウンターに向かったのだが、お姉さんは相変わらずスパゲティーをむしゃむしゃしていた。

大変に申し訳ないことだが、その見た目はちょっと汚らしかったのである。しかもそのお姉さんは結構な美人だったから、余計にインパクトがあったのだ。この文章のタイトルも「食べながら接客された話」の方がまだ綺麗げがあるよなあと少し迷ったのだが、「食べながら」と言うよりも、「食いながら」の方が実情に即していたのでこっちにさせていただいた。まあなんと言うか、あまりお上品ではなかったのだ。

カウンターに品物を置くと、パスタのお姉さんは面倒くさそうにお皿を置き、ダルそうにお喋りを中断した上で「ピッ」とやった。言われた金額を支払うともう、お姉さんの手はパスタに伸びていた。

私はその一連の動作を見て、腹が立つどころか面白くなって、そして安心してしまったのだ。もしかしてこれが人間らしい働き方なのかも と。

日本に居るとこんな接客をされることはまず無い。基本的にどこへ行っても、たとえそれがコンビニのお手洗いを借りるために買ったたった100円のミンティアであっても、ぞんざいに扱われることは無い。そして店員はきわめて万全の体制で客に仕えている。まるでこちら側(客側)に監視されているかのように、少しでもクレームがつきそうな行動はしないのである。ましてや客前で食べたりスマホを触るなんてもっての外だ。たとえその時給がほんの数百円だったとしても。

確かに素晴らしい。ずっと客の立場で居られるならこんなにいい国は無いかもしれない。でも、本当にそこまで必要だろうか。

日本で働く、特に日本で接客業として働くのは「演じること」に等しい。店員さんだって普段からあんなロボットみたいではないのだ。だが一旦仕事になると生身ではいられない。役者になって「店員」役を演じないといけないのだ。基本的に「働く」というのはそういうものだという固定観念が、日本社会では広く共有されているのではないだろうか。

だがパスタのお姉さんは違った。良くも悪くも生身のまんまなのである。客がいるからって態度は変わらないし、喋るし食べる。自分のこと最優先。すごく人間らしい。

ここでもう一つ思い出したのだが、タイのタクシーの運転手さんも自由だった。初海外で緊張の中、空港からホテルまで送ってくれた運転手さん。なんと途中で何も言わずに何処かへ行ってしまったのだ。しばらくして帰って来て、トイレ休憩だったらしいことが分かったのだが、これもまたすっごく自由。お客さんがいてもちゃんと自分のことを優先するのだ。

「演じる」という働き方は海外でも一般的なのかと思ったら、実はそうでもないらしい。まだ行ったことはないので又聞きだが、ドイツの接客は本当に無愛想らしい。別にわざとではないらしいのだが、良くも悪くも「素」で、仕事中だから客前だからといって我慢することがないらしい。ムッとしていたらムッとしたまま接客しているのだ。この裏表の無さは日本人からすると強烈だが、慣れれば案外心地いいのかもしれない。

そもそも、接客に何をそこまで求めるのだろうか。勿論ここで言う接客は高級店のことでは無い。五つ星レストランとか高級ジュエラーとかではもちろん素晴らしいサービスが提供されるべきだし、それ相応の対価も払っているだろう。でもコンビニとか普通の飲食店とか、そういう所ではそこまで必要だろうか。コンビニやスーパーのレジなら最早人間でなくてもよかったりする。素早くミス無く会計してくれれば良いだけなので、殆どの人はそこに愛想なんて求めない。突っかかってくるのは一部の変な人だけだ。

だから私としては、もっと素で仕事して良いんじゃないかなあと思うのだ。「演じる」という働き方が浸透したこの社会では、なかなか切り替えるのは難しい。でもそれにしたってちょっと無理し過ぎじゃないかと思ってしまうのだ。だってこれからの時代、人間じゃなくていい仕事はどんどん機械に置き換わる。人間はお腹も減るし、機嫌がいい時も悪い時も色々ある。だったら人間はもうちょっと人間らしくいてもいいんじゃないかなあ、なんて思うのだ。


パスタのお姉さんを起点にここまで書いてきたが、当の本人はそんなことつゆ知らずだろう。今日もまたパスタ食いながらレジやってるかもしれないし、パッタイ食ってるかもしれない。この日本でもパスタ食いながらとは言わないが、もうちょっと無理せず、素に近い感じで働ける人が増えたらいいなと思っているさっこだった。


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sacco piano
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