雨は遠くからやってくる
秋になって、最近雨が多い。
私は雨がふる時の空気感が好きだ。それは降っている最中だけじゃなくて、その前後にある匂いと空気の移り変わり、そのグラデーションに心惹かれる。
今日、その雨が降って、雨は遠くからやってくることを知った。そんなこと知っててもおかしくないくらいは生きてきたのに、ちゃんと分かったのは今日が初めてだった。
雨がやってくる。
空の白色が少し暗くなって、雨が近づいているのを知らせてくれる。光はベールがかかって、カーテン越しに空を見ているよう。
暫くすると雨の音が聞こえてきた。
まだ降り始めの、手のひらにおさまるくらいの小さな音。これで庭の草木も瑞々しくなっているだろう。
...閉めなきゃな。
そう思って窓に手をかけたのに、何故か雨は降っていなかった。
あれ、聞き間違いか。
と思ったけれど、確かに音は聞こえているのだ。心地よい軽いシャワーのような音。それなのに、屋根は乾いた色のままだった。
私は音のする方を耳で探索して、遠くの空を見つけた。音はあの遠くの空から聞こえているようだった。
まだ雨は来ない。でも確実に近づいている。
もうじきこの屋根も濡らすだろう。
それからしばらくして、ここにも雨がやってきた。しばらくと言ってもほんの数秒だったかもしれないが、観察できるくらいに、スローモーションみたいに長く感じた。
赤い屋根を水玉模様がおおって、やがてその模様も見えなくなった。
この田舎では雨は遠くからやってくるのだ。空の広いこの場所ではそれがよく分かる。遥々遠くからやって来て、もうすぐそっちに行くからねとシグナルを発している。
都会のビルの底では雨は突然やってくる。小さく切り取られた空は一瞬で色が変わって、その移り変わりは見えないけれど、本当は全てグラデーションだったんだ。空は繋がっている。
逆に静けさを感じるほどの轟音に包まれながら、そんなことを考えるうちに雨は止んで、またさっきのお日様が顔を出していた。
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