過去ばかり見てしまう人が未来を見るためのメガネの話。
わ、ミミズだ、と思ってピョンと跳ねるように避けた。通りすぎた後でよく見たら錆びたS字フックだった。
こういうことはまあよくあって、なーんだ、ビックリして怖がってバカみたいだったなと思うけど、ミミズに見えた瞬間イヤだなと感じたその思いは事実で、錆びたS字フックだと気がつかなければそれは永遠にミミズで、怖い思いのままだったのだろうと思う。真実はどうあれ。
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以前、人には未来を見てすすむ人と、過去を見てすすむ人がいるのではないかと書いた。
わたしは「過去を見てすすむタイプ」で、今までしてきたことを振り返って、そこから自分のできることを探す。いろんなことをよく憶えているし、過去の出来事が材料で自分が形成されている感覚がある。
過去と現在は地続きなので、過去で自分ができあがっているというのはまちがいではないのだけど、「こういうことがあったから今こうなっている」と因果関係を結びつけすぎる傾向にもあるなとも思っていた。
過去の出来事や、誰かに言われたことに意味を持ちすぎてひっぱられてしまい、いつしか未来を見ることが苦手になってしまったのかもしれないなと。
未来を見ることが苦手というのは、まさに「やりたいことがない」と同じなのだけど、過去と現在はつなげて見ることができるのに、現在と未来をつなげることができない。「先のことはどうなるかわからないから」と「こうしたい」と思うこともできなくなる。
つまり未来は「未定」で、将来を楽しみにすることができない。
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さらに、過去の出来事がいいことばかりではなくて、イヤなことやうまくいかないことが多かった場合(たいていの人はイヤなことのほうが記憶が濃いとは思うけど)、過去ばかり見ていると、まだ起こっていない未来についても「今までが不幸だったから、これからも不幸だ」と思い込んでしまう。まだ何も起こっていないのに、だ。
後ろ向きな考え、というのはまさにこのことだなと思う。過去ばかり見て未来(前)を見ることができないことから、過去のイヤな経験に引っ張られて未来もネガティブな見方しかできなくなるのかもしれない。
残念ながら過去は変わらない。不運な過去の経験に執着しているままだと、その先も含めた自分の人生は「不幸な物語」になってしまう。未来なんか見れない、という状況は、ほとんどが過去の虜になってしまっているのだ。
だからといって「過去を忘れろ、もう見るな」というのもむずかしいし不自然だ。というかできない。過去と現在はたしかにつながっていて、関係あるのだから。
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では過去に囚われすぎずに未来を見るためにはどうしたらいいかというと、ひとつは「過去は変わらないのでしょうがない」といったん諦めることだと思う。
忘れるでもなく、なかったことにするのでもなく、起きたこと過ぎたことはしょうがないから諦めることで、さて、ではどうするか、とようやく未来に目が向けられるのではないかと思う。
今までの人生が「不幸な物語」だったとしても、「だからわたしは不幸です」にしないで「だけどわたしはたのしく過ごします」にするには、ここから先の自分の人生を「たのしい物語」にするには、過去をどう捉えるかが重要になる。
過去のイヤな経験や思い出を、自分を苦しめる原因として見るのではなく、それがあったからこそできることを材料として見る。
たとえば、人の気持ちを察することができる人は、人の気持ちがどう動くのかをよく知っているので、なにかものを作って人をよろこばせたり笑わせたり感動させたりできる人が多いし、イヤな思いをした怒りのようなものを原動力に行動できる人も多い。
文句や不満が多い人は、「これがイヤだ」をひっくり返すと「こうしたい」になる。気になってしまうことが才能で、不満はすべて材料になる。
もうひとつは、他者の力を借りることだと思う。
自分ひとりでは未来を見ることができなくても、誰かに頼りにされることで、自分の代わりに自分の未来に期待をしてもらうかたちで、未来を見ることができる。
誰か(未来を見てすすむタイプの人)の見ている未来を一緒に見ることで、はじめは他人の未来だったものが、進みはじめるとそれが自分の未来になる。
これは、わたしが「やりたいことがある夢組と、やりたいことがない叶え組は組んでチームになるといい」と言う理由そのものだ。
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過去を見る(見てしまう)能力や、過去の出来事はそのままでも、ひっぱられすぎることなく未来を見据えるためには、過去をどう見るかのメガネを取り替える必要がある。
過去も自分も変わらないけど、メガネは何度でも取り替えることができるし、どんどんいいものに変えて最新に進化することができる。
そのメガネを手に入れることができると、グチや不満も宝に見えるし、欠点は長所に見える。ミミズもこわくない。本当はミミズだったのかどうかをいつまでも気にしていないで、あれはただの錆びたS字フックだったということにして、先に進むことができる。真実がどうあれ、もはやどうでもいいのだ。
まずは、今、自分がどんなメガネをかけているか、チェックをしてみるのをオススメするよ。