温かい後悔
五年前、祖母が死んだ。
祖母はお世辞にも良い人ではなかった。
家族には平気で嘘をつくし、口も悪かった。
でも、両親が共働きだった私の面倒をみてくれていたのは祖母だった。だから今はとても感謝しているし、その分後悔もしている。
祖母と一緒に住む前は、別の場所で祖母と祖父は2人暮らしをしていた。
祖父が病気で倒れ、入院したのをきっかけに祖母と暮らすことになった。
元々祖母は糖尿病で合併症も患っていたので、介護は必要不可欠の状態だったが、日に日に文句が増えたり嘘をつくようになったりと、此方も頭にくることが多くなった。
正直、「クソババア!」と思うことも少なくなかった。
或る日、私は学校に行くために準備を急いでいたとき、祖母から
「いつもありがとうね」
と言われた。
しかし私はそれをスルーしてしまったのである。
その日の夕方、祖母が倒れ救急車で運ばれた。
駆けつけた私は、祖母の手を握った。
すると、意識が朦朧としている中、目を見開き、私の手を強く握ってくれた。
その力強さと温かさを今でも忘れない。
それから、祖母は植物状態となり話すことはなくなった。
いざ憎たらしい人が亡くなったとき、人はその人の嫌だったところは全く思い出せなくなる。
優しい言葉や笑顔、自分を想ってくれていたことが思い出される。
果たして私はどれだけ、その想いに応えられていただろうか。
あの時、あの「ありがとう」に応えていれば。
あの時、嫌な顔をしないでちゃんと行動していれば。
あの時、、、。
後悔しても、しきれない。
お葬式の時、棺に入れた手紙はちゃんと届いていますか?私は、あなたのことを忘れません。
あの優しかった笑顔と、温かかった手を、いつまでも忘れない。
ありがとう。