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出産までの記録と思い出たち:つわり
出産までの記録と思い出たち
妊娠が発覚し5週に差し掛かるころから
吐き気が始まった。
最初は朝起きた時の胃のむかつき、電車の中での無数の人工的な匂い。
全てのものに気分不良を起こしていた。
7週頃には食べれるものが限られてきて、
嘔吐も繰り返すようになった。
もちろん
ビタミンの摂取、水分摂取、
空腹を避けるためにこまめな経口摂取、処方薬の使用など
様々な努力をしていたがそれも虚しく、
突然訪れる吐き気は凄まじかった。
不思議と仕事をしていると落ち着く吐き気だったが、
外来のデスクの足元には看護師さんが気を利かせてくれて置いてくれた
バケツが常にあった。
9週を超えた週末、もう何も固形物が出ていないのに
2時間を置きに嘔吐していると
かーっと胃から喉元が熱くなるような感じがした。
便器を見てみると真っ赤に染まっていた。
散々、つわりに患者さんも見てきているし
どう対応していくべきか
そしてどんな経過で良くなっていくか
わかっているはずなのに、
流石に出血を見た時にはショックで眩暈がして、涙が出た。
これまで必死で身につけてきたどんな知識も
自分の体と心がダイナミックに変化するその状況には
勝てなかった。
ただ、同時に不思議とそのつわりは私に自信を与えてくれた。
まだ胎動もわからず、お腹も大きくなっていなかったその時には
新しい命がここにいるのだと感じられるのは
つわりの体調不良を感じる時だったから。
ふと、数々の患者さんの顔を思い出す。
つわりの終わりに驚いて泣きながら夜間受診をしにきた彼女や
つわりで点滴を受けながらも、頑張れます。
とエコー写真を握りしめた彼女の姿を思い出す。
きっとあの時の彼女たちと同じところに私はいる。
そう思うと自然と足元がしっかりしてくるような気がしていた。
あの時はあの時で彼女たちに真摯に向き合っていたけれど
今ならもっと上手に彼女のたちの背中をさすることができる
そんな気がしている。