2024/10月第四週のゾンビ論文 ゾンビリーダーシップとは

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。

今回、10/21~10/27の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」四件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」五件(条件1との重複を含めれば九件)

検索条件1は教育学、生物学、医学、社会学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

アイデンティティリーダーシップとしてのセラピー:「Robertson et al. (2023):セラピーグループを促進するための社会的アイデンティティアプローチ」に関する解説

一件目。

アラート日付:10月22日
原題:Therapy as identity leadership: Commentary on “Robertson et al. (2023): A social identity approach to facilitating therapy groups”.
掲載:Science and Practice
著者:Haslam, S. Alexander
ジャンル:経営学

リーダーシップとゾンビといえば、もちろん「ゾンビリーダーシップ」。実はよく見る学術的ゾンビの一種。そしてよく見るくせに意味を調べたことはない。

ということで調べてみた。端的に言えば、過去に否定されたにも関わらず何度も蘇るゾンビアイデアのリーダーシップ版といったところか。2024年1月に発表された論文では、以下のような具体的な定義がなされている。

1. リーダーシップとはリーダーのこと
2. 偉大なリーダーは皆「持っている」特定の資質がある
3. 偉大なリーダーは必ず行う特定の行動がある
4. 偉大なリーダーを見れば誰でもわかる
5. リーダーシップはどれも同じ
6. リーダーシップは特別な人だけが持つ特別なスキルである
7. リーダーシップは常に良いものであり、それは常に誰にとっても良いことである
8. リーダーなしでは人々は対処できない

The Leadership Quarterly掲載
S. Alexander Haslam, Mats Alvesson, Stephen D. Reicher著
『Zombie leadership: Dead ideas that still walk among us』より
※和訳した状態で引用した

さっと読んだだけでも「遅れてる」「行動したくない人間の言い訳」と思えるような項目が目白押しだ。ゾンビと謗られても仕方がないのではないか。

ところで、「リーダーシップ研究」というものになじみがあるだろうか。私はゾンビ論文の収集時によく見るから知っているが、何それ?と疑問に思う方も多いのではないだろうか。そう考え、さらに「日本ではリーダーシップ研究が少ないのでは?」とも考えた。となれば、リーダーシップ研究が盛んな国があるはずだが、アメリカが滅茶苦茶やってそうな印象がないだろうか。

などと、つらづらと関係ないことを考えたりもした。調べてみれば面白いかもしれない。

この論文では、集団的なセラピーを行うにあたり、必然的にリーダーシップが必要になるとして、ゾンビリーダーシップを防止する必要性を説いている。

ジャンルは教育学。リーダーシップ研究の大元の目的が経営に直結しているように見えるため、経営学でもよさそう。また、「リーダーシップ学」でも良いのだが、さすがにニッチ過ぎる。


リゾケファラン類とそれがカニをゾンビに変える仕組み:オレンジマッドクラブ Scylla olivacea に寄生するサッカリナ科の Sacculina beauforti の事例

二件目。

アラート日付:10月24日
原題:Rhizocephalans and how they turn crabs into zombies: the case of sacculinid Sacculina beauforti on orange mud crab Scylla olivacea
掲載:Fish for the People
著者:Waiho, Khor と Yu, Yang、 Fazhan, Hanafiahの三名
ジャンル:生物学

先週分の記事でも扱ったゾンビガニの一種。日本ではフクロムシが寄生したオスのカニを去勢してメスにした上に、意のままに操る例が知られている。先週の記事で扱った論文も、今回の論文も、その類のもの。

同じ研究グループの報告かと思ったが、どうやら違うらしい。前回はLoxothylaucus panopaeiというフジツボに寄生されたEurypanopeus deressusとRhithropanopeus harrisiiという二種のカニの分析で、今回はRhizocephalans属のSacculina beaufortiに寄生されたScylla olivaceaというカニの分析らしい。手法も結構似ているように見えるのに、研究対象も別で研究グループも別とは。面白い偶然なのだろうか。

ジャンルは生物学。


感情抑制テクニック:激しい感情を管理する戦略

三件目。

アラート日付:10月24日
原題:Emotional Suppression Techniques: Strategies for Managing Intense Feelings
掲載:Emotional Processing
著者: NeuroLaunch editorial team
ジャンル:医学

感情を制御する手法を教える記事。zombieの単語は以下の文で"emotional zombie"(感情ゾンビ)として現れる。感情ゾンビが何なのか、説明はない。

But here’s the kicker: emotions are what make us human. They’re the spice in our emotional curry, if you will. So, let’s dive into the world of emotional suppression and uncover some nifty tricks to keep our feelings in check without turning into emotional zombies.
(しかし、ここで重要なことがあります。感情こそが私たちを人間らしくしているのです。感情は、いわば私たちの感情カレーのスパイスです。それでは、感情抑制の世界に飛び込んで、感情ゾンビにならずに感情をコントロールする気の利いたトリックをいくつか見つけてみましょう。)

同論文より

ジャンルは医学。


進歩に関する議論が行き詰まる理由

四件目。

アラート日付:10月25日
原題:Why the Progress Debate Goes Nowhere
掲載:The New Atlantis
著者: Samuel Matlack
ジャンル:社会学?

内容不明。表紙だけ読むことはできるが、そもそも進歩に関する議論が行き詰まっていることを前提としているようで、その行き詰まっている理由がほぼわからない。また、なぜゾンビ論文の検索に引っ掛かったのかもわからない。

ジャンルは社会学にしておいた。何となく、進歩を議論しそうなのが社会学なので。


検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

寄生虫からBwOまで:ウイルスゾンビの破壊的擬態

アラート日付:10月22日
原題:From the Parasite to the BwO: Subversive Mimicry in Viral zombies
掲載:Mimetic Posthumanism
著者:María del Carmen Molina Barea
ジャンル:社会学

「-network」で排除。ゾンビの擬態とは言うが、単にモノマネのこと。歩き方や身振りに代表されるゾンビの擬態手段がどの文化でも似通うことに注目し、どのようにして典型的なゾンビの擬態が伝播したのか探る


インド料理の旅:亜大陸をアラカルトで巡る

アラート日付:10月25日
原題:The great Indian food trip: around a subcontinent à la carte
掲載:The Commonwealth Journal of International Affairs
著者:Terry Barringer
ジャンル:?

排除キーワード不明。内容も不明。リンク先のページに飛んでも何も書かれていない。


ウイルスや真菌による宿主の行動操作:サミット病

アラート日付:10月25日
原題:Viral- and fungal-mediated behavioral manipulation of hosts: summit disease
掲載:Applied Microbiology and Biotechnology
著者:Abolfazl Masoudi と Ross A. Joseph、 Nemat O. Keyhani
ジャンル:菌類学

「-network」で排除。ウイルスや菌類に寄生された宿主が高いところに登るようになる行動を"summit disease"(サミット病)と呼ぶ。そのメカニズムの概論。寄生されて行動を操られる生き物がゾンビと呼ばれることから検索に引っ掛かった。


MR.STEVE: Minecraft の「何、どこ、いつ」の記憶を持つ指示に従うエージェント

アラート日付:10月25日
原題:MR.STEVE: INSTRUCTION-FOLLOWING AGENTS
IN MINECRAFT WITH WHAT-WHERE-WHEN MEMORY
掲載:Under review as a conference paper at ICLR 2025
著者:匿名
ジャンル:情報科学

「-AI」で排除。Minecraftの主人公スティーブをAI(というか、大規模言語モデル)で動かす。AIのシステムに「何、どこ、いつ」の記憶を持つ指示が組み込まれているようだ。Minecraftにゾンビが出てくるために検索に引っ掛かった。


ビデオゲームの映画化:映画とビデオゲームの比較によるメディアのジャンルへの影響の検討

アラート日付:10月27日
原題:The Cinemafication of Video Games: An Examination of the Effect of Medium on Genre Through the Comparison of Films and Video Games
掲載:Concordia Universityに提出された修士論文
著者:Ekers, Joshua D.
ジャンル:比較文化学

「-drug」および「-gender」、「-network」で排除。映画とゲームの比較をするにあたり、『バイオハザード』を持ち出している。



最後に

検索条件1は教育学、生物学、医学、社会学が一件ずつだった。

ゾンビリーダーシップを初めて調べた。ゾンビリーダーシップそのものも仕事や遊びに役に立ちそうだが、元のリーダーシップ研究も中々面白い。組織論なんかは日本で持て囃され、様々な研修で持ち出される印象があるが、リーダーシップ論はそれほど注目されていないように思う。それどころか、何となく疎まれているような気もする。私の勝手な印象でしかないが。

ゾンビリーダーシップはどこかのタイミングで記事にしておこう。リーダーシップ研究はともかく、どんなリーダーシップが有害であるかという記事はきっと社会に有用だろう。ああ、やりたいことばかり増えていく。

今回はねらいの論文がなかった。


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