2023/08/01(火)のゾンビ論文 がん細胞はゾンビ細胞よりもヤバい
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)
「zombie」(取りこぼし確認その2)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」/「-bot」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
また、「zombie」の内容も確認するのは、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる目的である。ただし、条件4の通り、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは完全な排除をねらう。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」四件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」三件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」四件
「zombie -firm -philosophical」五件(差分一件)
「zombie」五件(条件4との差分なし)
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は医学、感染症学、文学、評論が一件ずつだった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」
がん細胞はゾンビと同じように、分泌された微小環境を介して正常細胞を再プログラムする
一件目。
原題:Cancer cells same as zombies reprogram normal cells via the secreted microenvironment
掲載:PLoS ONE
著者:Shadi Rabieeを筆頭著者として、六名
ジャンル:医学
"zombie cells"(ゾンビ細胞)という細胞があり、それを引き合いに出してがん細胞について議論する論文。ゾンビ細胞は次のサイトが詳しい。
As people age, they accumulate damaged cells. When the cells get to a certain level of damage, they go through an aging process of their own called cellular senescence. When cells become damaged or if they replicate too many times, they undergo a process of irreversible removal from the cell cycle and start releasing inflammatory factors that stimulate the immune response to clear the damaged cells. A younger person’s immune system is healthy and is able to clear the damaged cells, but as people age, they aren’t cleared as effectively and they accumulate causing potential problems.
(人は加齢とともに損傷した細胞を蓄積します。細胞が一定レベルの損傷を受けると、細胞老化と呼ばれる独自の老化プロセスが起こります。細胞が損傷を受けるか、細胞の複製が過剰になると、細胞周期から不可逆的に除去されるプロセスが発生し、損傷した細胞を除去するために免疫応答を刺激する炎症因子の放出が始まります。若い人の免疫システムは健康で、損傷した細胞を除去することができますが、年齢を重ねると効果的に除去されなくなり、蓄積して潜在的な問題を引き起こします。)
要するに、細胞は傷ついたら死ぬように自身をプログラムしているのだが、その自殺プログラムに乗っ取らずに、損傷したまま存在していることがある。その細胞をゾンビ細胞と呼ぶ。正式には老化細胞と呼ばれるのだとか。
そのゾンビ細胞が加齢とともに蓄積していくと、「潜在的な問題を引き起こ」すらしい。具体的には体の老化やアルツハイマー病といったもの。生物の進化には世代交代が必要であるから、事故や病気がなくとも勝手に古い世代が死ぬようになっているに違いない。しかしこの仮定が正しいとすると、ゾンビ細胞を作らない生物もいたが、生存競争に不利になって自然淘汰されてしまったとも考えられる。不死の生物が競争に負けるのはにわかには信じがたいが…。
そして、この論文ではがん細胞の解析を行い要所要所でその悪性をゾンビ細胞と比較している。
The acidic and conditioned media produced by cancer cells can remotely activate malignant signaling pathways, much like zombies, which can cause metabolic and epigenetic changes in normal cells.
(がん細胞によって生産される酸性の馴化培地は、ゾンビ細胞と同様に悪性シグナル伝達経路を遠隔的に活性化する可能性があり、正常細胞に代謝変化やエピジェネティックな変化を引き起こします。)
がん細胞もゾンビ細胞も、どちらも正常な細胞に働きかけて悪性な細胞に変化される作用があるらしい。
ジャンルは医学でよいだろう。
余談だが、ゾンビ細胞については以下のnoteの記事がわかりやすかった。
また、今回紹介したもの以外にもゾンビの名を冠する細胞があるらしい。
反/ワクチン: ワクチン論争の再構成
二件目。
原題:Anti/Vax: Reframing the Vaccine Controversy
掲載:Journal of Medical Humanities
著者:Heidi J. Larson
ジャンル:感染症学?
本文もアブストラクトも読めないため、Googleアラートのメールしか頼れるものがない。メールに記載されていた、この論文で"zombie"の単語が出てくる文を引用する。
Hausman moves into Zombie and Zombie hordes “territory” and explains why they are relevant to this controversy.
(ハウスマンはゾンビとゾンビの大群の「領域」に進出し、それらがこの論争に関連する理由を説明します。)
Zombies—in fact, a whole chapter titled “Viral Imaginations”—was prompted by a mention by two interviewees …
(ゾンビ — つまり、「ウイルスの想像力」というタイトルの章全体 — は、2 人のインタビュー対象者による言及がきっかけでした…)
まず、掲載誌とタイトルからして、ゾンビに喩えられているのはコロナウイルスか反ワクチン主義者のどちらかだろう。コロナ感染者もゾンビに喩えられなくはないが、ゾンビにはネガティブな意味が付与されるため、医学系の雑誌でそう表現するわけがない。
次に引用した二文を見ると、ゾンビは明らかに実態を伴うものとして描写されている。コロナウイルスではありえない。よって、反ワクチン主義者をゾンビに喩えていると思われる。
とすれば、引用文の「ゾンビとゾンビの大群の「領域」に進出し」は反ワクチン主義者の集まりに突撃したと解釈される。また、「ゾンビ ー つまり、『ウイルスの想像力』というタイトルの章全体」は反ワクチン主義者が何を考えているかに言及したものであると思われる。悪辣にとらえるならば、反ワクチン主義者の陰謀じみた想像力に言及したといったところだろうか。
ジャンルは、掲載誌より感染症学。しかし、感染症社会学という呼び方をした方がより正確であるようにも思われる。
ジョナサン・レヴィン監督の映画『ウォーム・ボディーズ』におけるモチベーション理論を用いた「R」の性格変化の分析
三件目。
原題:An Analysis of Changing Character of 'R'Through Motivation Theory in the Movie Warm Bodies Directed by Jonathan Levine
掲載:e-LinguaTera, Universitas Buddhi Dharma
著者:YunitaとIrpan Ali Rahman
ジャンル:文学
『ウォーム・ボディーズ』というゾンビ映画がある。当時はゾンビ映画としては珍しかった恋愛ものである。今でも珍しいかもしれないが。
その主人公は「R」と呼ばれている。そのRは、物語のはじめこそ主人公である女性を襲うゾンビなのだが、彼女の恋人の脳みそを食べることで逆に彼女を守るようになる。
その性格…というか心境の変化を「モチベーション理論」を用いて分析するのがこの論文である。
恋愛映画、特にボーイミーツガールを描いた映画に「モチベーション」が発生するのは当然のことに思えるが…。
ジャンルは文学。アブストラクトに文学の理論を使ったとあったため。
死すべき運命、可能性
四件目。
原題:Mortality, destiny, and possibility
掲載:The Lancet
著者:Gavin Francis
ジャンル:評論
zombieの単語は次の文で出てくる。
These are some of the questions that surface in Lorrie Moore's surprising, surreal new novel, I Am Homeless If This Is Not My Home, and she sets about answering them with hectic energy, a zany swirl of images, word games, black comedy, and a zombie ex-girlfriend.
(これらは、ローリー・ムーアの驚くべきシュールな新作小説『I Am Homeless If This Is Not My Home』の中で浮上する疑問の一部であり、彼女は多忙なエネルギー、おかしなイメージの渦巻き、言葉遊び、ブラックコメディ、ゾンビの元彼女。)
ローリー・ムーア作の小説『I Am Homeless If This Is Not My Home』にゾンビの元カノが出てくるらしい。どうも古典怪談とゾンビとのロマンスを組み合わせた作品らしいが、読まないことにはレビューだけではわからない。
発売日は2023年06月15日。日本語版が出ていないのは発売してから日が浅いせいか、そもそも彼女の作品が翻訳されていないからか。
ジャンルは評論。
検索条件の差分
「DDoS/bot」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。
今回は「viability/biolegend」に差異が見られた。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」四件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」三件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」四件
差分は次の一件。
がん細胞はゾンビと同じように、分泌された微小環境を介して正常細胞を再プログラムする
「-viability」で排除された。細胞の生き死にに関する調査であるため、"viability"(生存可能性)という単語が使われたのだろう。しかし、ゾンビ細胞が生物のシステムに組み込まれている前提で、何をもって細胞の生死を定義しているのだろうか。私にはわからない…。
ゾンビ試薬は使われていなかったため、「-biolegend」に引っ掛からなかったのは妥当といえる。目的外の論文を排除したということになるため、「-viability」は排除キーワードとして不適という根拠になりうる。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical」
このキーワードでは「zombie」ゾンビ論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
MTVのモンスター: アダプテーションとゴシック ミュージック ビデオ
原題:Monsters on MTV: Adaptation and the Gothic Music Video
掲載:Humanities
著者:Drago Momcilovic
ジャンル:比較文化学
ミュージックビデオの表象を読み解く論文。ゾンビや狼男などのモンスターが出てくることに関して、作り手の意図を推量しているようだ。
となれば、もちろん「-gender」で排除。
検索キーワード「zombie」(差分なし)
「zombie -firm -philosophical」との差分を確認する。上記条件からも排除され、こちらの条件でのみ引っかかった論文がゾンビ企業・哲学的ゾンビの論文であれば、ねらい通りといえる。
今回差分はなかった。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は医学、感染症学、文学、評論が一件ずつだった。
今回は「ゾンビ細胞」を知ることができたので、ねらいのゾンビ論文がなかったとはいえ収穫はあった。しかも二種類のゾンビ細胞だ。
片方はこの記事の中でも触れたが、もう片方は言及するに留めている。もう片方もきちんと調べて、どちらも「学術論文に潜むゾンビたち」に蒐集しておこう。