2024/6月第二週のゾンビ論文 写真の記憶はゾンビ化する

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。ただし、「-narrative」で排除される論文の中にはねらいの論文が含まれている可能性もあるため、条件3も設定してある。

今回、6/10~6/16の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」二件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」六件(条件1との重複を含めれば八件)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」39件

  4. 「ゾンビ」一件

検索条件1は芸術学、医学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

後のトラウマゲイター

一件目。

アラート日付:6月11日
原題:Later Traumagator
掲載:Digressions: Literary & Art Journal
著者:Jyllian Brown
ジャンル:芸術学

演劇脚本。しかし、論文内の著者略歴にZombie Promを手伝ったと書かれているだけで、ゾンビが出てくる脚本というわけではない。

ジャンルは芸術学。


CPHEN-017: 末梢ヒト好中球における好中球細胞外トラップ(NET)の包括的表現型解析

二件目。

アラート日付:6月16日
原題:CPHEN-017: Comprehensive phenotyping of neutrophil extracellular traps (NETs) on peripheral human neutrophils
掲載:Cytometry A.
著者:Ceridwyn Jonesを筆頭著者として、四名
ジャンル:医学

末梢ヒト好中球における好中球細胞外トラップの包括的表現型を解析したらしい。つまり、何をしているのか私にはわからない。

死んだ細胞を着色する、ゾンビ試薬を扱っているため検索に引っかかった。

ジャンルは医学。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

サイバーセキュリティの用語とその比喩

アラート日付:6月13日
原題:The terminology of cybersecurity and its metaphors
掲載:Aspects of Cognitive Terminology Studies
著者:Nava Maroto
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。内容がタイトルの通りとすれば、ウイルス感染してハッカーに乗っ取られたコンピュータを"zombie computer"と呼ぶケースを扱っているのだろう。


写真的に見るということと写真の記憶

アラート日付:6月14日
原題:Seeing Photographically and the Memory of Photography
掲載:Media Theory
著者:Paul Frosh
ジャンル:芸術学?

何で排除されたか不明。"zombie category"という概念が紹介されている。

The memory of “seeing photographically” does more, it claims, than preserve photography as a “zombie category” that disguises the reality of computational imagery.
(この記事によると、「写真的に見る」という記憶は、写真を計算画像の現実を隠す「ゾンビ カテゴリー」として保存する以上の効果があるという。)

同論文より


国境の古典: グロリア・アンザルドゥアと脱植民地化

アラート日付:6月15日
原題:CLASSICS AT THE BORDERLANDS: Decolonising with Gloria Anzaldúa
掲載:The Routledge Handbook of Classics, Colonialism, and Postcolonial Theory
著者:Mathura Umachandran
ジャンル:評論(ポストコロニアル批評)

「-network」で排除。各国の古典文学を植民地主義およびポスト植民地主義の観点から読み解く本の一章。"zombie discipline"(ゾンビ規律)という文字列が見られる。

「ゾンビ規律」という言葉は過去にも触れたことがある。その時は、意味までは分からなかったが、西洋によるイスラム文化への価値観押し付けに触れながらこの言葉を使っていた。西洋主義が関係する概念なのだろうか。


タワーディフェンスゲームにおける高レベルの戦略的制御のための強化学習

アラート日付:6月16日
原題:Reinforcement Learning for High-Level Strategic Control in Tower Defense Games
掲載:Joakim Bergdahl と Alessandro Sestini、 Linus Gisslénの三名
著者:Paul Frosh
ジャンル:情報科学

「-network」および「-AI」で排除。機械学習?を用いて『Plants vs. Zombies』の攻略をコンピュータに学習させる論文。


失敗した自動化の再考: 新自由主義的懲罰的自動化から ケアの政治に向けた福祉

アラート日付:6月16日
原題:Reimagining failed automation: from neoliberal punitive automated
welfare towards a politics of car
掲載:Handbook on Public Policy and Artificial Intelligence
著者:Lyndal Sleep and Joanna Redden
ジャンル:政治学?

「-philosophical」および「-network」、「-AI」で排除。AIの自動化がもたらす影響を考察しているらしい。それがどうゾンビに関係するのかわからないが。

政治学だけではなく、情報工学やメディア学ともまじりあっているように思う。


厳選された英国の広告におけるスラング表現の使用を調査する

アラート日付:6月16日
原題:Investigating the Employment of Slang Expressions in Selected British Advertisements
掲載:Iraqi Academic Scientific Journals
著者:Atyaf Hasan Ibrahim と Azhar Hamid Ali
ジャンル:メディア学?

「-drug」で排除。収集したスラングの中に"phone zombie"がある。軽いスマホ依存症のような意味合いで使われている。



検索条件3「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」

検索条件2の「-narrative」がねらいの論文まで排除していないか調べる。

以下、39件のゾンビ論文が見つかった。そのうち、「-narrative」で排除したかった評論・比較文化学・社会学など(太字で表示する)は計22件だった。つまり、残りの17件は意図せず排除してしまったゾンビ論文である。ただし、この中にねらいの論文はなかった。

6/10はヒットがなかった。

ということで、まず、6/11の分。#7の白人主義がどうのこうのな論文はちょっと面白いかもしれない。ゾンビの広まりと白人主義は切っても切り離せない。

  1. Financial DreamScape: Puzzle Narrative Games for Financial Education(金融ドリームスケープ: 金融教育のためのパズル物語ゲーム 教育学)

  2. Dystopien in Serie(ディストピアンシリーズ 評論)

  3. ‘Three or four families in a RPG’: Gaming and Jane Austen(「RPG に 3 つまたは 4 つの家族」: ゲームとジェーン オースティン 評論)

  4. Patient-reported outcomes of psychiatric and/or mental health nursing in hospitals: a systematic review protocol(病院における精神科および/またはメンタルヘルス看護の患者報告アウトカム:系統的レビュープロトコル 精神医学)

  5. NEW ANTHROPOLOGIES OF ITALY(イタリアの新しい人類学 人類学)

  6. SHADES OF POST-POSTMODERNISM IN RUSSIAN LIFE AND LITERATURE: A METAMODERN STUDY OF VIKTOR PELEVIN AND VLADIMIR SOROKIN(ロシアの生活と文学におけるポストポストモダニズムの影:ヴィクトル・ペレーヴィンとウラジーミル・ソローキンのメタモダニズム研究 評論)

  7. Wellness and white power: a fantasy theme analysis of U.S. wellness influencer content and its utilization of white power discourse(ウェルネスと白人至上主義: 米国のウェルネス インフルエンサー コンテンツのファンタジー テーマ分析と白人至上主義の言説の利用 社会学)

  8. Introduction: Strange Multiplicities(はじめに: 奇妙な多様性 評論)


次に、6/12の分。

  1. Sectoral myths, technotypes and institutional science fiction: how organisations stimulate their creativity(セクター神話、テクノタイプ、組織SF:組織が創造性を刺激する方法 経営学)


次に、6/13の分。#3はぜひともリンク先へ飛んでアブストラクトを読んでみてほしい。Google翻訳でもいいから。ジャンルに「妄想」とつけてしまおうかと思ったほどに意味が分からない。…と思ったが昔から実際にあるのだ、「エコフェミニズム」という思想が。

  1. WITNESS, PROPHECY, AND FOUND FOOTAGE IN ABLE GANCE'S J'ACCUSE (1919, 1938)(エイブル・ガンスの『告発』(1919年、1938年)における証言、予言、発見された映像 評論)

  2. We Didn't Fall from Eden We are Slowly but Surely Crawling Out of Hell(私たちは楽園から堕ちたのではない - ゆっくりとだが確実に地獄から這い出ているのだ 社会学)

  3. An Eco-feminist Perspective: Diversifying Power to Defy Patriarchal Structure and Capitalist Agenda(エコフェミニストの視点:家父長制構造と資本主義のアジェンダに逆らう多様化する権力 社会学)

  4. Roleplay with Large Language Model-Based Characters: A Creative Writers Perspective(大規模言語モデルベースのキャラクターを使ったロールプレイ:クリエイティブライターの視点 情報科学)

  5. Spectral geography(スペクトル地理学 人文地理学?)

  6. Expanding Freedoms in the Intersections: Bringing Young Women of Color’s Voices to the Forefront in Youth Apprenticeship Practice(交差点における自由の拡大:有色人種の若い女性の声を若者の見習い制度実践の最前線に持ち込む 社会学)

  7. The Temporal Plot of Understanding the Text(テキスト理解の時間的プロット 哲学)

  8. Cultural Cannibalism: Interrogating Identity in Contemporary Tales of Consumption(文化的カニバリズム:現代の消費物語におけるアイデンティティの問い 評論)

  9. Fascism Without Men: On the Gender Politics of the Radical Right(男のいないファシズム:過激右派のジェンダー政治について 政治学)

  10. Statement on the recent banking crisis Lessons Learned from the Recent “Banking Crisis”(最近の銀行危機に関する声明 最近の「銀行危機」から学んだ教訓 経済学)


次に、6/14の分。

  1. The Sexual Politics of Empire: Postcolonial Homophobia in Haiti by Erin Durban (review)(エリン・ダーバン著『帝国の性的政治:ハイチにおけるポストコロニアル同性愛嫌悪』(書評) 評論)

  2. Data Visualization, Licensing, and other Generative AI Initiatives at Minnesota State University Mankato(ミネソタ州立大学マンケート校におけるデータ可視化、ライセンス、その他の生成 AI イニシアチブ 情報科学)

  3. Digital Games to Develop Empathy in Students: A Scoping Review(生徒の共感力を育むデジタルゲーム:スコープレビュー 教育学)

  4. Tea Leaves and Other Stories: Expressing Themes of Change and Loss through the Magical Realist Style(茶葉とその他の物語:変化と喪失のテーマをマジカルリアリズムで表現 評論)

  5. On self-driving cars and its (broken?) promises. A case study analysis of the German Act on Autonomous Driving(自動運転車とその(破られた?)約束について。ドイツの自動運転法のケーススタディ分析 法学)

  6. Medieval re-creation and translation in Edwin Morgan and Derek Jarman’s archives: A dialogue(エドウィン・モーガンとデレク・ジャーマンのアーカイブにおける中世の再現と翻訳:対話 評論)

  7. Pure Consciousness as the Ground of the Given: Or, Why There is No Perception Without Background Reception(与えられたものの基盤としての純粋意識:あるいは、背景の受容なしに知覚が存在しない理由 哲学)

  8. Growing Up to What? On the Grounded Theory of Adulthood as the Goal of Growing Up(何に成長するのか?成長の目標としての成人期のグラウンデッド・セオリーについて 心理学)

  9. The Mirage of a ‘Paradox’ of Dehumanization: How to Affirm the Reality of Dehumanization(非人間化の「パラドックス」の幻想:非人間化の現実をどう肯定するか 哲学)

  10. The Alchemy of the Player and the Game: Creating and Embodying  Mental Health Meanings in Digital Games(プレイヤーとゲームの錬金術: デジタル ゲームにおけるメンタルヘルスの意味の作成と具現化 ゲームデザイン学)


次に、6/15の分。

  1. Computo, Ergo Sum: Teaching and Learning Mathematics in the Age of ChatGPT (Computo、Ergo Sum: ChatGPT の時代における数学の教育と学習 情報科学)

  2. Water Memory: A Novel by Tom Strelich (review) (水の記憶: トム・ストレリッチの小説(レビュー) 評論)

  3. Technological Governance and Escapism in Times of Accelerated Change(加速する変化の時代における技術ガバナンスと現実逃避 科学哲学?)

  4. The Consequences of Evidence-Versus Non-Evidence-Based Understandings of the “Truth”: How Russian Speakers in Germany  Negotiate Trust in Their Transnational News Environments(「真実」に対する証拠に基づく理解と証拠に基づかない理解の結果:ドイツのロシア語話者が国境を越えたニュース環境において信頼を交渉する方法 国際政治学)


最後に、6/16の分。ゾンビ織物だけジャンルに全く自信がない。タイトルから考えれば環境学あたりが妥当だが、ゾンビのメタファーを用いて環境への解決策を考察すると言われると…なんなんだろうか。

  1. Fractured Narratives and Pandemic Identities: COVID-19, the (Post) Apocalyptic, the Dystopic, and the Postcolonial(KUSH アフリカにやってきた致死的な新薬 衛生学)

  2. Zombie textiles: Weaving with undead waste(ゾンビ織物: アンデッドの廃棄物で織る 社会学?)

  3. William Shakespeare and 21st-Century Culture, Politics, and Leadership(ウィリアム・シェイクスピアと21世紀の文化、政治、リーダーシップ 評論)

  4. Vigilante Justice in Society and Popular Culture(社会と大衆文化における自警団の正義 法学)

  5. The Contemporary Female Gothic: Hauntings from the Home to the Colonial Landscape(現代女性ゴシック:家庭から植民地時代の風景までのたまり場 評論)

  6. Evald Ilyenkov and the enactive approach(エヴァルド・イリエンコフとアクティブなアプローチ 哲学)



検索条件4「ゾンビ」

単に「ゾンビ」とだけ入った検索条件も設定してある。ごくたまにしかヒットしないため普段は扱わないが、今回はヒットしたので論文を紹介する。

深層恒常性強化学習による恒常性に対して非自明な行動の創発

アラート日付:6月14日
掲載:7KHWK$QQXDO&RQIHUHQFHRIWKH-DSDQHVH6RFLHW\IRU$UWLILFLDO,QWHOOLJHQFH
著者:吉田尚人と國吉康夫
ジャンル:情報科学

2Dゲームの中でゾンビ、骸骨と、様々なパラメータを有する人間を配置する。人間が生存するための最適な行動を機械学習で学習させる論文。マインクラフトで似たものを見たことがある。

ゾンビが出てくるゲームで、人間を模した「エージェント」を学習させて、生存に最適な行動を学ばせる。今回の論文も上記のマインクラフトを使った論文も、それ以外にも様々な場面で同じテーマでなされた研究があるはずだが、各研究のオリジナリティはどこにあるのだろうか。学習方法?報酬の計算手法?グラフィック?よくわからない。



最後に

検索条件1は芸術学、医学が一件ずつだった。

特に得られるものはなかった。もう少しで「ゾンビ規律」を理解できそうな点は惜しかったが…。また、エコフェミニズムなる思想に触れて驚天動地の心持なのだが、ゾンビは関係ないしなあ。

今回はねらいの論文がなかった。


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