2024/2月第三週のゾンビ論文 ニュージーランドの政治のゾンビ
本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。
アラートの検索条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)
「zombie philosophical」
「zombie Chalmers」
「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。
「-firms」:ゾンビ企業
「-philosophical」:哲学的ゾンビ
「-drug」:ゾンビドラッグ
「-network」:情報科学系の論文ならなんでも
「-DDoS」:ゾンビPC
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬
「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論
検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。また、検索条件3と4は「philosophical」と「Chalmers」と、どちらがより哲学的ゾンビを排除できるか見るために設定した。
今回、2/12~2/18の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」四件
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」九件(検索条件1との差分は四件)
「zombie philosophical」九件
「zombie Chalmers」七件(検索条件3との差分は二件)
検索条件1は評論、政治学が二件ずつだった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」
ホラー作品の美学分析:香港ホラー映画『ニュー・ミスター・ゾンビ』を例に
一件目。
アラート日付:2月13日
原題:An analysis of the Aesthetics in Horror Artworks: Taking the Hong Kong-style Horror Movie "New Mr. Zombie" as An Example
掲載:International Journal of Education and Humanities
著者:Y Yang
ジャンル:評論(文化批評)
"New Mr. Zombie"という映画の評論。"Mr. Zombie"はおそらく『霊幻道士Q 大蛇道士の出現!』か、そのシリーズを指す。 『〇〇道士』は色々多くてよくわからないので、確信はないが。
キョンシーはゾンビではないのだが、英語圏の人間はあらゆる「動く死人」をゾンビとして回収することしか出来ないので、仕方がないか。
ジャンルは評論。
ゾンビアイデア: 政策の振り子と効果的な政策立案の課題
二件目。
アラート日付:2月15日
原題:Zombie Ideas: Policy pendulum and the challenge of effective policymaking
掲載:Policy Quarterly
著者:B. Guy Peters と Maximilian L. Nagel
ジャンル:政治学
過去に否定されたにも関わらず何度も蘇るアイデアを指す、ゾンビアイデアに関する論文。ゾンビアイデアの主戦場である政治分野のお話。
政治的右派左派も「それぞれ独自のゾンビ思想を持って」いるという身も蓋もない事実に失笑してしまった。考えてみればそうだ。左翼にも右翼にも「またその話!?」と思うことが多い。
論文の内容は、上記引用の通り。ニュージーランドの右派左派のゾンビアイデアも気になるが、これ以上の内容には立ち入らない。
ジャンルはもちろん政治学。
ゾンビの歴史: 不可能な親和性とアンデッドのインスピレーション
三件目。
アラート日付:2月17日
原題:Zombie Histories: Impossible Affinities and Undead Inspirations
掲載:University of Brightonのアーカイブ
著者:Annebella Pollen
ジャンル:評論
何がどうゾンビにかかわりがあるのかわからないが、KLFというバンドの論評らしい。
ゾンビに関係する楽曲を作っているわけでもなく、KLFの諸々の過激な活動が筆者にインスピレーションを与えるらしい。それを"undead inspirations"と呼んでいる。
ジャンルは評論か。
違法タバコに関するゾンビの誤った議論には、これ以上酸素を与えるべきではない
四件目。
アラート日付:2月17日
原題:False zombie arguments about illicit tobacco shouldn’t be given any more oxygen
掲載:Public Health Communication Centre Aotearoa
著者:Chris Bullenを筆頭著者として、六名
ジャンル:政治学
ニュージーランドの"zombie argument"(ゾンビ議論)を紹介する論文。ゾンビ議論の定義は次の通り。
ニュージーランドのアオテアロアではタバコ増税による禁煙措置がなされ、違法タバコが増長される可能性があるとタバコ会社が主張しているらしく、その一連の議論を「ゾンビ議論」と呼んでいる。そして、この論文ではその主張は誤り、むしろ逆であると結論付けている。
ジャンルは政治学でよいだろう。
検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」
上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。
「楽しみは決して終わらない」: カートゥーン ネットワークのアドベンチャー タイム、ウーの国での地位と時間をめぐる闘争。
アラート日付:2月13日
原題: “The Fun will never end”: Cartoon Network's Adventure Time, a struggle for status and time in the land of Ooo.
掲載:?
著者:Jacob Lenhardt
ジャンル:評論
「-gender」および「-philosophical」
「-network」で排除。カートゥンネットワークというアニメ番組の評論。Zombieが出てくる番組もあるらしい。
21世紀のケベック映画:国家を超越する
アラート日付:2月13日
原題:Quebec Cinema in the 21st Century: Transcending the National
掲載:このタイトルの本がある
著者:Michael Gott
ジャンル:評論
「-gender」および「-narrative」、「-network」で排除。内容はタイトルの通りケベックで作られた映画を扱うのだろう。ゾンビが出てくる映画もあると予想。
大きな力と大きな責任: スーパーヒーロージャンルの政治を探る
アラート日付:2月15日
原題:Great Power and Great Responsibility: Exploring the Politics of the Superhero Genre
掲載:New Political Science
著者:Michael McKoy
ジャンル:政治学
「-gender」および「-narrative」で排除。
ヒーロー、特にスーパーマンをベースに政治を語る。ダニエル・ドレズナーの『国際ゾンビ論』を引用しているため、検索に引っかかった。
免疫と行動の間のクロストーク: 昆虫病原性真菌とその昆虫宿主からの洞察
アラート日付:2月15日
原題:Crosstalk between immunity and behavior: insights from entomopathogenic fungi and their insect hosts
掲載:FEMS Microbiology Reviews
著者:Wei Zhangを筆頭著者として、六名
ジャンル:菌類学
「-network」で排除。ゾンビアリやゾンビキノコを扱う論文。
積極的崩壊および不作為を伴うビザンチン協定およびマルチパーティ計算における一般的な敵対者の構造
アラート日付:2月15日
原題:General Adversary Structures in Byzantine Agreement and Multi-Party Computation with Active and Omission Corruption
掲載:Cryptology ePrint Archive
著者:Konstantinos Brazitikos と Vassilis Zikas
ジャンル:情報科学
「-network」で排除。マルチパーティ計算というのはデータ送受信の際に複数のサーバで暗号解読を処理する計算手法のこと。そして、ビザンチン協定というのは、「ビザンチン将軍問題」と呼ばれるアルゴリズムのことで、マルチパーティ計算の中で誤った計算をするサーバを自己検出して、計算から排除するアルゴリズムのこと…のはず。端的に説明することは難しいが、概念は以下のnoteに分かりやすくまとめられていると思う。
分析的非二元論: なぜ現実は客観的に主観的なのか
アラート日付:2月15日
原題:Analytic Nondualism: Why Reality is Objectively Subjective
掲載:eprints
著者:Max Pohlmann
ジャンル:哲学
「-philosophical」で排除。哲学的ゾンビを扱う論文ではあるのだが、なぜかeprinsのページにはジャンル「Computation」との記述がある。
ゾンビレビューの攻撃? JBI Evidence Synthesis の編集者が解説「冗長な系統的レビューの定義、害、防止」について議論
アラート日付:2月17日
原題:Attack of zombie reviews? JBI Evidence Synthesis editors discuss the commentary “definition, harms, and prevention of redundant systematic reviews”
掲載:JBI Evidence Synthesis
著者:Cindy Sternを筆頭著者として、八名
ジャンル:図書館学?
「-gender」および「-network」で排除。タイトルでおおむね内容がわかる。投稿論文が雑誌に載る前にその論文を専門の研究者がレビューするのだが、レビューの中に「冗長な系統的」なもの(=ゾンビレビュー)が存在し、その害と防止を議論するとのこと。
バジリスクとゾンビ: 大衆文化を通じた AI による生命の未来の探索
アラート日付:2月17日
原題:The basilisk and the zombie: exploring the future of life with AI through the medium of popular culture
掲載:Darbai ir dienos
著者:JAR ŽIGA MARUŠIČ と UROŠ SERGAŠ
ジャンル:情報科学or哲学
「-philosophical」および「-network」で排除。AIの発展とそれに対する社会の態度がもたらしうる影響を探る論文。タイトルの「バジリスク」と「ゾンビ」はどちらも人間のことで、AIが人間を“apex of existence”(存在の頂点)と捉えたときが「バジリスク」、"automatos"(自動人形)として使用するたときが「ゾンビ」に相当する。バジリスクの座をAIが奪い、人間を自動人形に貶める、という構図を前提においた議論をするようだ。
「philosophical」と「Chalmers」の差分
検索条件3と4の差分を確認した。それぞれ、検索ヒット数は九件と七件で、哲学的ゾンビを扱う論文は三件と四件だった。また、二件だけがどちらの条件にもヒットした。
「Chalmers」の方が哲学的ゾンビをよく排除している一方で、「philosophical」は私の求めていない論文その他諸々を一挙まとめて排除していたと言える。
検索条件3(ヒット数:九件)
以下の通り、三日で九件のヒットがあった。うち、哲学的ゾンビを扱っていると思われるのは三件だった。的中率は33%。ただ、AIの意識がどうのこうのというのも哲学的ゾンビにカウントしてよいのだろうか。今回はカウントしておいたが。
“The Fun will never end”: Cartoon Network's Adventure Time, a struggle for status and time in the land of Ooo.(「楽しみは決して終わらない」: カートゥーン ネットワークのアドベンチャー タイム、ウーの国での地位と時間をめぐる闘争。)
Papers in English and linguistics(英語および言語学の論文)
The influence of the Covid-19 pandemic on the professional identities of health care workers(新型コロナウイルス感染症のパンデミックが医療従事者の職業的アイデンティティに与える影響)
Notes on Spiritual Extractivism: A Choreography(精神的搾取主義に関するメモ: 振り付け)
Exaggerated claims of artificial general intelligence(汎用人工知能の誇張された主張)
ABOLISH THE FAMILY!(家族を廃止せよ!)
BOOM! SPLAT!: Comics and Violence(ドカン! ブシャー!: 漫画と暴力)
Analytic Nondualism: Why Reality is Objectively Subjective(分析的非二元論: なぜ現実は客観的に主観的なのか)
The basilisk and the zombie: exploring the future of life with AI through the medium of popular culture(バジリスクとゾンビ: 大衆文化を通じた AI による生命の未来の探索)
検索条件4(ヒット数:七件)
以下の通り、三日で七件のヒットがあった。うち、哲学的ゾンビを扱っていると思われるのは四件だった。的中率は57%。
Digital Content Strategy: Detailed Review of the Key Content Components(デジタル コンテンツ戦略: 主要なコンテンツ コンポーネントの詳細なレビュー)
Analytic Nondualism: Why Reality is Objectively Subjective(分析的非二元論: なぜ現実は客観的に主観的なのか)
The basilisk and the zombie: exploring the future of life with AI through the medium of popular culture(バジリスクとゾンビ: 大衆文化を通じた AI による生命の未来の探索)
The sublime of consciousness(意識の崇高さ)
Recursive Joint Simulation in Games(ゲームにおける再帰的ジョイント シミュレーション)
LANGUAGE EXTRAPOLATION. GLOSSOPOESIS IN SCIENCE FICTION(言語の外挿。 SFにおけるグロッソポエーシス)
Thinking twice inside the box: is Wigner's friend really quantum?(箱の中でよく考えてみよう: ウィグナーの友人は本当に量子なのか?)
最後に
検索条件1は評論、政治学が二件ずつだった。
政治学の二件がどちらもニュージーランドの政治にかかわるものだったのは驚きだった。それ以外はゾンビフィクションの評論が多く、特に言うことがない。
ただ、哲学的ゾンビを調べるにあたり、AIも哲学的ゾンビに該当するという議論があることを知れたのはよかった。AIは「-network」に引っ掛かりやすいので、特別な対応をする必要がない点もまた良い。とはいえ、AIと意識の哲学を調べるのにまた時間がかかる点は面倒というほかない。
今回はねらいの論文がなかった。