2023/08/22(火)のゾンビ論文 終わる世界は誰のために?
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)
「zombie」(取りこぼし確認その2)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」/「-bot」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
また、「zombie」の内容も確認するのは、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる目的である。ただし、条件4の通り、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは完全な排除をねらう。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」二件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」二件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」二件
「zombie -firm -philosophical」四件(差分二件)
「zombie」六件(条件4との差分二件)
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は評論が二件だった。また、「zombie -firm -philosophical」で比較文化学が一件、「zombie」で人文学が一件、それぞれ興味を引く論文があった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」
ケイト・メスナー作『世界で一番怖い子猫』
一件目。
原題:The Scariest Kitten in the World by Kate Messner
掲載:Bulletin of the Center for Children's Books
著者:Natalie Berglind
ジャンル:文学
Kate Messnerによる『The Scariest Kitten in the World』のレビューをする論文。『The Scariest Kitten in the World』は子猫がお化け屋敷の訪問者(=読者)を怖がらせようと奮闘する絵本らしい。下にリンクを貼っておくが、世にも恐ろしい白い子猫が人間を恐怖に陥れようとしている様子が描かれている。
zombieの単語が出てくるのは次の一文。
要するに、かわいらしいキャラクターが訪問者を怖がらせようと様々に工夫し、その中にゾンビを装ったナマケモノがいる。ということである。
ジャンルは文学。評論でもよいが。
「オレンジカラー労働:刑務所における労働と不平等」のレビュー
二件目。
原題:Review of “Orange-Collar Labor: Work and Inequality in Prison”
掲載:Social Forces
著者:Erin Hatton
ジャンル:評論
Michael Gibson-Lightによる『Orange-Collar Labor: Work and Inequality in Prison』の書評。「刑務所における労働と不平等」とあるように、刑務所における労働に着目した本。
zombieの単語が出てくるのは次の文章。
「ゾンビ作業」というのは「低賃金、高レベルの監視、速いペース」の仕事のことらしい。イメージとしては、高負荷な作業で労働者が思考を奪われてゾンビのようになる仕事といったところだろうか。
こちらもジャンルは評論。論文の紹介文を読む限り、本当に単なる紹介し化していないように思われるため。
検索条件1-3の差分(差分なし)
「DDoS/bot」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。
今回は差分がなかった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical」
上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは意図的に取りこぼすこととする。
ジェンダーパフォーマティビティ: 高慢と偏見とゾンビにおけるエリザベスのジェンダーアイデンティティに関する研究
原題:Gender Performativity: A Study of Elizabeth's Gender Identity in Pride and Prejudice and Zombies
掲載:Art and Performance Letters
著者:Xinyu Cai
ジャンル:ジェンダー学
「-gender」で排除。『高慢と偏見とゾンビ』を扱ったため検索に引っ掛かった。
愛を叫ぶ: 6 つのラブスタイル理論に着目したホラー映画業界の分析
原題:Screaming for Love: An Analysis of the Horror Film Industry Through the Lens of the Six Love Styles Theory
掲載:Eastern Kentucky Universityに提出された学位論文
著者:Emilee McQueen
ジャンル:比較文化学
「-gender」で排除。ただし、本文ではなく参考文献のタイトルのため。
「愛」という観点でホラー映画の分析を行う論文。その映画の中に『ウォームボディーズ』があったため検索に引っ掛かった。ほかには『クワイエットプレイス』『ゲットアウト』『シャイニング』『X』の四作品がある。
また、タイトルにあるラブスタイルというのは、以下の六つを指す。
アガペー:自己犠牲的で相手に尽くすタイプの恋愛(愛他的な愛)
エロス:恋愛の本質をロマンスと考える(情熱的な愛)
マニア:独占欲が強く嫉妬深い(変質狂的な愛)
ストルゲ:長い時間をかけて愛がはぐくまれ、長続きする(友情の恋愛)
ルダス:恋愛をゲームの駆け引きのように楽しむ(遊びの恋愛)
プラグマ:恋愛を自分の目的達成の手段と考えている(実用的な愛)
それぞれの映画の描写がラブスタイルのどれに該当するかを読み解き、描かれた時間に応じてラブスタイルの円グラフを作成している。たとえば『ウォームボディーズ』では、アガペーが46%、エロスが26%を占め、次にストルゲ15%とマニア10%が続く。残りはプラグマ3%にルダス0%である。
『ウォームボディーズ』を観れば納得の割合である。
検索キーワード「zombie」
「zombie -firm -philosophical」との差分を確認する。上記条件からも排除され、こちらの条件でのみ引っかかった論文がゾンビ企業・哲学的ゾンビの論文であれば、ねらい通りといえる。
銀行の資本増強政策が信用配分、投資、生産性に及ぼす影響:日本の銀行危機の証拠
原題:The Effect of Bank Recapitalization Policy on Credit Allocation, Investment, and Productivity: Evidence from a Banking Crisis in Japan
掲載:ESRI Discussion Paper Series(経済社会総合研究所報告書)
著者:笠原博幸と澤田康幸、鈴木通雄の三名
ジャンル:経済学
「-firm」で排除。ゾンビ企業について言及。
ESRIは内閣府の経済社会総合研究所(Economic and Social Research Institute)のこと。
世界を救うために誰を殺しますか?
原題:Who Would You Kill to Save the World?
掲載:このタイトルの本がある
著者:Claire Colebrook
ジャンル:人文学
「-philosophical」で排除。アポカリプスが描かれる映画を題材として、世界の終わりが様々な思想(たとえば、西洋主義、資本主義、植民地主義、白人主義、異性愛規範主義、個人主義)の誕生にどうかかわるかを思考実験する論文。
興味深いのは次の一文。
要するに、終焉を迎えたときに大勢が救いたくなる「世界」はその世界で生きる強者のためのもの(=裕福な西洋社会)であり、その「世界を救う」というのはその世界で苦しみながら生きる弱者にならないことである。と規定しているのである。
過去にゾンビ・アポカリプスが起きると男性たちが家父長制を復活させて世界を支配しなおそうとする危険性を説いた論文を紹介した。その時は半ば軽蔑しながらその論文を紹介したのだが、上述のように記述されると一考の余地があるようにも思えてくる。
ただ、女性を苦しみながら生きる弱者として規定するには「男性が結託して家父長制を敷き、女性を意図的に支配しようとしている」という世界観を前提としなければならないため、やはり軽蔑した方が正しいかもしれない。
ただ、この論文が補助線となって家父長制の危険性を説く論文への理解も進んだように思う。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は評論が二件だった。また、「zombie -firm -philosophical」で比較文化学が一件、「zombie」で人文学が一件、それぞれ興味を引く論文があった。
評論の二件はあまり興味を引かない。紹介文を読んだ限り、背景となる思想は特になく、本当に単なる本をレビューしているように見えたため。
その一方で、比較文化学と人文学のゾンビ論文は非常に興味を引いた。前者は私の映画の観方を拡張してくれたし、後者はこの人文学の本懐を私に教えてくれたような気がする。何なら、後者は本物のゾンビがいると仮定しても問題ない論文だとしてねらいのゾンビ論文と判定してもよいくらいだ。
ただ、論文自体はゾンビでなくても意味が変わらない内容であるように思える。世界の終焉の一例としてゾンビ・アポカリプスを扱っているだけなのでは…。
ということで、今日はねらいのゾンビ論文なし。悩むが。
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