2024/1/2(火)のゾンビ論文 ゾンビパンデミックシミュレーション…実際にやってみた
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」
「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network」
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firms」:ゾンビ企業を扱う論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う論文を排除する
「-drug/xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-network」:とにかく情報科学の論文を排除したい
「-DDoS」:ゾンビPCを扱う論文を排除する
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などを評論する論文を排除する
検索条件2は「-drug」と「-xylazine」の差分を見るためにある。また、検索条件1と2には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。
今回、それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」一件
「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network」一件(差分ゼロ件)
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」五件(検索条件2との差分は四件)
検索条件1は物理学が一件だった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」
歩行者回避のシミュレーション: 人間 vs ゾンビのシナリオ
一件目。
原題:Simulating Pedestrian Avoidance: The Humans vs Zombies Scenario
掲載:arXiv
著者:Juan P. Oriana と German A. Patterson、 Daniel R. Pariの三名
ジャンル:物理
歩きスマホは英語でsmartphone zombieと呼ばれるので、歩きスマホのふらふら歩きをシミュレーションしたのかな~と思ったが、どうやら本当にゾンビを仮定してシミュレーションしているらしい。その証拠として、アブストラクトの以下の文章を挙げる。
「獲物を捕食者に変える一方向の伝染プロセス」というのはゾンビ(=捕食者)が人間(=獲物)を襲ってゾンビに変えることを意味している。しかも、ゾンビの感染拡大を描写するSZRモデルを採用しており(正確にはSCZRモデルだが)、SZRモデルの提唱者であるMunzらやSZRモデルをベースにアメリカにおけるゾンビ・パンデミックをシミュレーションしてみせたAlemiらの論文も引用している。
この論文では、シャーレのような円形の空間に人間とゾンビを入れ、ゾンビは人間を追い、人間は互いにぶつからないようにしながらゾンビから逃げるようにプログラミングされている。これは、私がずっとやりたいと思っていたことだ!SZRモデルは、例えるならば人間とゾンビをフラスコに入れて振って反応を見るようなシミュレーションであって、人間やゾンビそのものをきちんとモデル化できていないと常々感じていたのだ。たとえば、今回のように人間がゾンビから逃げきれる限界を考慮するとか、もっと言えば人間が集まってゾンビを殺すとかがあってもよいと思うのだ。まあ、噛まれた人間を見捨てるモデルなら存在するのだが。
論文はシミュレーションの様子を動画化してyoutubeにアップしており、シャーレの中で人間がゾンビに追いつめられる様子が生々しく描写されている。いやあ、面白い!
一例を貼っておく。黄色い点がゾンビで青い点が人間だ。点が小さくなる瞬間は点同士がぶつかったことを表している。たった一分足らずで人間が追いつめられ、すべてゾンビに変わってしまう恐ろしさを見よ!
私はこれに加えて遮蔽物や音に反応するゾンビ、人間の疲労を考慮してシミュレーションをしたかった。だがプログラミングの勉強が思うようにはかどらず…。その辺も今年は進められると良いのだが。
ということで、今回のアラートチェックはこの論文をもって大当たりとする。嘘だろ…?まだ2024年が始まって三日もたってないんだぞ…?
どこかのタイミングでレビューしたい。優先的にレビューしたい。
ジャンルは物理にしておく。arXivの保存先が物理になっているし、もしもどこかの雑誌に投稿するならPhyscal Review Eだろう。ここにはAlemiらの論文や直接の先行研究も掲載されているから。
検索条件2「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network」(差分なし)
検索条件1との差分を調べ、「-drug」が「-xylazine」よりもどの程度論文を排除しがちか確認する。
今回は差分がなかった。
検索条件3「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」
上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。
ポップカルチャーを使って栄養生化学の概念を教えることの影響: なぜゾンビは脳を欲しがるのか
原題:Impact of Teaching Nutritional Biochemistry Concepts Using Pop Culture: Why Zombies Crave Brains
掲載:Proceedings of the West Virginia Academy of Science
著者:Kristy Henson と Greg Popovich
ジャンル:教育学
「-network」で排除。タイトルの通り、栄養生化学の教育にゾンビを使って、どの程度成果があったか調査した論文。この論文で取り上げた例では、ゾンビの効果はあまりなかったらしい。
なんかこういうのって、教師が突然「全集中だぞ!」と言い出すのと似てる。気を引けると思ってるのは本人だけってところが。今だとスパイファミリーになるのかな?日本には流行り廃りがあるが、ゾンビは息が長くてちょっとうらやましい。
意識の理解への貢献: ヒューマノイド世代の可能性のある物語またはプレビュー
原題:Contributions to the Understanding of Consciousness: A possible Narrative or a Preview of the Humanoid Generation
掲載:ESTUDO GERAL Repositório científico da UC
著者: Dinis, Manuel de Jesus Ferreira
ジャンル:哲学
「-philosophical」および「-narrative」で排除。哲学的ゾンビを扱う論文。
エスノグラフィーとゾンビの方法論
原題:Ethnography vs. zombie methodologies
掲載:American Ethnologis
著者:Greg Downey
ジャンル:心理学
「-philosophical」および「-」、「-」で排除。タイトルのエスノグラフィーは”フィールドワークに赴いて消費者の生活に密着・観察し、あらゆる先入観や既存の知識を捨てて行動様式を分析・理解するというアプローチ"のこと。
この論文では、心理学において完成された統計的手法が実はザルであると批判し、エスノグラフィをはじめとした人類学の調査法と対比し、心理学がとるべき道を提唱している。また、「ゾンビ方法論」の意味は次の通り。
ゾンビに喩える理由が説明されており、何より自分が勝手に呼んでいるだけだと宣言している点に好感が持てる。グッと来てしまった。
爆死を遠ざける
原題:Bombs Away
掲載:このタイトルの本がある
著者:John Vetto
ジャンル:評論
「-gender」で排除。タイトルの"Bombs"は芸術的あるいは興行収入で失敗したことを指すらしい。日本語で言うところの爆死である。John Vettoが爆死の定義や爆死した作品を掘り下げる本。検索に引っ掛かったのはもちろんゾンビ映画を扱っているから。
まとめ
検索条件1は物理学が一件だった。
そしてその一件が私がずっと求めていた論文であった。そのものズバリ。欲を言えばもうちょっと条件を詰めたいが、それは自分でやればよいだけのこと。この論文の著者がコードを公開してくれていればよいのだが。まあそうでなくとも、論文を読んだ感じでは数式を使っての解析があり、つまり単にシミュレーションしてみました、できました、ではなく、その結果を解析するための手法まで残してくれているのだ。たぶん。私の苦手な情報科学系の微分やベクトル解析をどうこうする数式だったらどうしよう?
これは最優先で読んで、レビューをしておきたい。どうせ正月休み中なのだ。何に時間を使っても良いというものだ。
今回はねらいの論文があった。うれしい。