2024/9月第四週のゾンビ論文 ネットワークを使ってゾンビをシミュレーションしたい

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。

今回、9/23~9/30の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」一件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」六件(条件1との重複を含めれば四件)

検索条件1はゲームデザイン学が一件だった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

権威の遊び場: Dying Light における空間、権力、主体性

一件目。

アラート日付:9月30日
原題:Playgrounds of authority: space, power, and agency in Dying Light
掲載:2024: Abstract Proceedings of DiGRA 2024 Conference: Playgrounds
著者:Poppy Wilde と Will McKeown
ジャンル:ゲームデザイン学

『Dying Light』はゾンビがはびこる世界を生き抜くゲーム。そのゲームを権威、空間構成という観点から読み解く論文。私にはよくわからない着眼点だが、アブストラクトには次のようにある。

Cremin (2015) foregrounds the importance of player agency in the exploration, completion, and therefore necessarily co-creation of games. Spatial compositions can be explored in tandem with player agency in order to understand the meaning of the distribution of authority and agency through virtual space (see, for example, Bódi 2022).
(Cremin (2015) は、ゲームの探索、完了、そして必然的にゲームの共同作成におけるプレイヤーの主体性の重要性を強調しています。空間構成は、仮想空間を通じた権威と行為主体の分配の意味を理解するために、プレイヤーの行為主体と並行して探求することができます(たとえば、Bódi 2022 を参照)。)

同論文より

ゲームは、プレイヤーが主体的に遊べているかが楽しさのひとつの指標になる。確かに、つまらないタスクを粛々とやらされるのは苦痛だ。私にも心当たりがある。ゆえに「やらされてるかどうか」を測るために権威という観点が導入されたなのだろう。

ただ、上記引用部を読むと空間構成についても何か説明があるが、いまいちよくわからない。どうして仮想空間が権威と結びつくのだろうか。もしかして、"authority"の和訳にもっとふさわしいものがある…? まあ、とにかく、今の私にはわからない。

ジャンルはゲームデザイン学。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

伝染病の蔓延とネットワーク接続

アラート日付:9月23日
原題:Epidemic Spread and Network Connectivity
掲載:International Journal for Multidisciplinary Research
著者:Sana Aejaz と Saba Parveen
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。感染症の伝搬を数式で表すSIRモデルに感染ネットワークを適用している。応用先として、従来の感染症はもちろん噂や情報、コンピュータウイルスに金融危機、そしてもちろんゾンビが挙げられている。

しかし応用先に挙げたのみで、しかもはっきりとゾンビをScience Fictionであり、学生の興味を引くアイテムのひとつとしてのみ扱っている。つまり、このモデルをゾンビパンデミックシミュレーションに適用できれば大変面白いのだが、本論文自体は本物のゾンビを扱ったものではない。残念。


燃え尽き症候群:半世紀にわたる論争

アラート日付:9月27日
原題:Burnout: half a century of controversy
掲載:Occupational Medicine
著者:R Bianchi と I S Schonfeld
ジャンル:医学

「-network」で排除。タイトルの通り、燃え尽き症候群に関する論文。1970年代に提唱された症候群?で、WHOにも認定されているらしい。その症状は以下の三つ。これらがゾンビを想起させるために検索に引っ掛かったのだろう。

Burnout is said to comprise three components: (i) feelings of energy depletion or exhaustion; (ii) increased mental distance from one’s job, or feelings of negativism or cynicism toward one’s job; and (iii) a sense of ineffectiveness and lack of accomplishment [3].
(燃え尽きは、(i) エネルギー枯渇または疲労感、(ii) 仕事に対する精神的な距離の拡大、または仕事に対する否定的または皮肉的な感情、(iii) 無力感および達成感の欠如という 3 つの要素で構成されると言われている [ 3]。)

同論文より

日本で言うところの「燃え尽き症候群」とは違うように思う。


GNNRI: 異種情報ネットワークとユーザー関連性の探索を通じて異常なソーシャル ネットワーク ユーザーを検出する

アラート日付:9月28日
原題:GNNRI: detecting anomalous social network users through heterogeneous information networks and user relevance exploration
掲載:International Journal of Machine Learning and Cybernetics
著者:Yangyang Liを筆頭著者として、九名
ジャンル:情報工学

「-network」および「-drug」で排除。SNSで異常なユーザーを検出するフレームワークであるGNNRIを開発したらしいので、そのレビュー。フレームワークってなんだろう。フレームワークの性能を見るために、ゾンビと呼ばれるプログラムを使っている。


湘雅病変:真菌病原性の理解におけるパラダイムシフト

アラート日付:9月28日
原題:The Xiangya Lesion: A Paradigm Shift in Understanding Fungal Pathogenesis
掲載:The Diversity of Fungal World
著者:Xiujuan Yan と Charles Xiaoxiang Zhu
ジャンル:菌類学

「-drug」で排除。人間の皮膚に寄生?する真菌の研究。ゾンビアリ菌でおなじみのオフィオコルジセプス属ではなく、Aspergillus sydowiiという真菌が主役。こいつが皮膚の細胞(ケラチノサイトというらしい)と相互作用を起こして "Xiangya Lesion"(湘雅病変)という皮膚病を引き起こし、真菌に乗っ取られながらもケラチノサイトとしての特徴を有する"zombie cell"(ゾンビ細胞)を形成するらしい。

Based on research by Zhu et al., the Xiangya Lesion represents a unique manifestation of fungal infection characterized by the formation of “zombie cells”—human keratinocytes hijacked and manipulated by fungal cells [3]. This novel finding, observed in plantar hyperkeratosis-like lesions, suggests a previously unknown complexity in fungal-host interactions.
(Zhuらの研究によると、Xiangya病変は真菌感染の独特な症状を表しており、「ゾンビ細胞」の形成を特徴としています。ゾンビ細胞とは、真菌細胞に乗っ取られ、操作されたヒトのケラチノサイトです[3]。足底角質増殖症のような病変で観察されたこの新しい発見は、真菌と宿主の相互作用におけるこれまで知られていなかった複雑さを示唆しています。)

同論文より

なお、老化しても自死せずにそのまま生き残る細胞もゾンビ細胞と呼ばれる。数としては、こちらの方が多い印象がある。探したらもっと色々なゾンビ細胞があるのかもしれない。


手続き的に生成されたコンテンツとローグライク要素を備えたタワーディフェンスゲーム

アラート日付:9月29日
原題:Tower Defense Game with Procedurally Generated Content and Rogue-like Elements
掲載:Charles University に提出された学士論文
著者:Vilém Gutvald
ジャンル:ゲームデザイン学

「-network」で排除。『Plants vs. Zombie』のレビュー的分析論文。


政府間組織の制度設計:協力、活力、進化

アラート日付:9月30日
原題:Institutional Design of Intergovernmental Organizations: Cooperation, Vitality, and Evolution
掲載:University of Nevadaに提出された博士論文
著者:Darrell James Carter
ジャンル:政治学

「-netowork」および「-philosophical」で排除。政治的組織の分析。ゾンビ組織について触れているのだろう。



最後に

検索条件1はゲームデザイン学が一件だった。

今回、興味をひいた論文が二件あった。一件目目は、感染病のモデルにネットワークを導入した解説論文。SIRのみに収まらず、SEIRやSISもカバーしているばかりか、応用先まで丁寧に示している素晴らしい論文だ。ちゃんと読んで、ゾンビパンデミックシミュレーションに適用したい。

二件目は、新たなゾンビ細胞に関する論文。私が知っていたゾンビ細胞とは別のゾンビ細胞が出てきた点と、それを真菌が作り出すという点に興味が引かれた。菌とゾンビの関係はかなり知見が溜まってきたので、これもひとつ記事にしたいものだ。

…というか、そろそろパンデミックシミュレーションを再開したいし、ゾンビ論文のレビュー記事も書きたい。ゾンビに関わるタスクが溜まりすぎている。

今回はねらいの論文がなかった。


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