2023/05/27(土)のゾンビ論文 ゾンビドラッグにゾンビ猫、そしてゾンビ・サッチャリズム…
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」(経済学・哲学・情報科学のゾンビ論文避け)
「zombie」(取りこぼしがないか確認する目的)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」(-companyの効果を図るため)
このうち、「zombie -firm -philosophical -DDos」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないか、「zombie」の内容も確認する。また、4月まで経済学のゾンビ論文の排除を目的として「-company」を設定していたが、その効果があるのか改めて測定する。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」三件
「zombie」六件(差分三件)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」一件(排除二件)
「zombie -firm -philosophical -DDos」は水産学、医学、社会学が一件ずつだった。また、「zombie」の方にも物理学と政治学の一件ずつに面白そうなものがあった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -DDos」
バラマンディのヘルペスウイルス病 - 播種性血管内凝固症候群の病理は、死亡率の急増を説明する
一件目。
原題:The pathology of Lates calcarifer herpesviral disease-Disseminated intravascular coagulation explains mortality spikes
掲載:Journal of Fish Disease
著者:Gibson-Kuen SとAwate S、Schrittwieser Mの三名
ジャンル:水産学
バラマンディ(米名:Lates calcarifer)という魚が感染するヘルペスウイルスに関する論文。鯉ヘルペスが日本で話題になったのはもう15年ほど前だろうか。懐かしい。
zombieの単語が現れるのは次の文。
Affected fish have patchy white skin and fins, corneal opacity and frequently hang in surface water column like 'ghost' or 'zombie' fish.(感染した魚は斑状の白い皮膚とヒレ、角膜不透明を持ち、「ゴースト」または「ゾンビ」のように表面の水柱にぶら下がっていることがよくあります。)
要するにヘルペスウイルスに感染した魚の挙動がゾンビのようだと喩えているのだ。ただ、具体的なイメージがわきづらい表現なので、何を見てゾンビのようだと評したのかはわからない。
おそらく、生きているのに生気が感じられない、といったところではないかと推測するが。たとえば、反応がない、ほとんど動かない、など。
ジャンルは水産学。アブストラクトにもそう記載されていた。
違法なフェンタニルのサンプルから検出される動物用精神安定剤であるキシラジン、別名Tranqについて知っておくべきこと
二件目。
原題:Here's What to Know About Xylazine, aka Tranq, the Animal Tranquilizer Increasingly Found in Illicit Fentanyl Samples
掲載:Medical News & Perspectives(論文ではなくニュースサイトのようだ)
著者:Rita Rubin
ジャンル:医学
(私にとっては)すっかりおなじみになったゾンビドラッグことキシラジン。別名をTranqというらしい。Tranqは精神安定剤を意味するtranquilizerの略語・俗称。
記事には、ここ数年のアメリカではとんでもない件数のキシラジン被害が出ていて、ホワイトハウスがキシラジンをフェンタニルと併用することを「米国にとって新たな脅威(emerging threat to the United States)」として正式に指定したらしい。私がゾンビの名を持つ薬物としてキシラジンを調べている間にそんなことが…。
また、キシラジンの人体への被害や薬としての効力、アメリカ社会への影響なども詳細に書かれている。キシラジンによる人体への影響だけ抜粋して終わるとしよう。
The skin sores and ulcers associated with the drug have earned it another nickname: zombie drug. Xylazine-associated wounds can run so deep that they expose tendon and bone, necessitating amputation and spurring the demand for wheelchairs and crutches.
(この薬による皮膚の痛みや潰瘍から、ゾンビドラッグという別称が付けられました。キシラジン由来の傷は腱や骨が露出するほど深くなり、切断が必要となり、車椅子や松葉杖の需要に拍車をかけることになります。 )
そういえば、ゾンビにたとえることが肉体的特徴に起因しているのは珍しい気がする。大体は、”事実上死んでいるのに名目上は生きている”か、”胡乱な状態の人間”、”誰かに支配されていて自由意思がない”などがゾンビの比喩の要件であるからだ。
フィクションに出てくるようなケガだらけのゾンビから連想したたとえは、今までゾンビ論文では出てきたことがないと思う。ちょっとした発見だ。
ビーチフラッツのコミュニティガーデンの撤去:環境的人種差別の一例
三件目。
原題:The Removal of Beach Flats Community Garden: A Case of Environmental Racism
掲載:ETHNIC STUDIES RESEARCH PAPER AWARD
著者:Melissa June Booseを筆頭著者として四名
ジャンル:社会学
インタビュー記事の体をとって書かれた論文…だろうか。体裁はインタビュー記事なので論文とはしたくないが(調査の裏付けや再現性がないため)、社会学ジャンルの論文と数えておこう。
Descriptionにこの論文の概要が書いてあるため、引用する。
This podcast details the plight of the community, interviews a documentarian who followed the struggle for the garden, and explains that environmental racism is not always massive companies dumping toxic waste. Environmental racism can happen on a much smaller scale even in areas we don’t expect.
(このポッドキャストでは、コミュニティの窮状を詳しく説明し、コミュニティガーデンのための闘いを追跡したドキュメンタリー作家にインタビューし、環境人種差別は有毒廃棄物を投棄する巨大企業によるものばかりではないことを説明します。環境人種差別は、私たちが予想もしないような地域でも、もっと小さな規模で起こりうるのです。)
Descriptionより
「環境人種差別(environmental racism)」という耳慣れない単語が出てきたが、たとえば黒人の多く住む地域にばかりごみの埋め立て場が作られるとかそういう話だそうだ。普通に人種差別問題でよさそうだが、「環境」という単語が必要だったのだろうか…?
ではゾンビは虐げられている黒人の比喩なのだろうか。そう思いきや、zombieの単語は次の一文に現れる。
Very odd to put the word environmental and racism right next to each other, because it kind of sounds like it's just like, I don't know, a bunch of people, you know, having plant wars or like, you know, like plants versus zombies.
(環境と人種差別という言葉を隣り合わせに置くのは非常に奇妙です。なぜなら、それはたとえば、ほら、大勢の人々が、あのー、植物がゾンビか何かと戦争をしているみたいな感じだからです。)
(インタビュー記事のため口語表現が強く、雰囲気で翻訳した部分がある)
これ以外にzombieの単語は出てこない。したがって、これはゾンビの論文ではない。
検索キーワード「zombie」
このキーワードでは「zombie」ゾンビ論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
フォン・ノイマン=ウィグナー解釈に対する反論としての斬新なパラドックス
原題:A Novel Paradox as An Argument Against The Von Neumann-Wigner Interpretation
掲載:International Journal of High School Research
著者:Kerem Berk Bozkurt
ジャンル:物理学
「(物理現象。特に量子力学にかかわる現象)に反論を思いついた!」というのは物理学をまじめに勉強した人間なら真っ先にインチキを疑うべき言葉である。スピリチュアルとか大胆な解釈もとい妄想系の。
だが、ちらっと読んだ感じ、二重スリットに対してきちんと数式を使えているようだし、数学的反証も間違っていなさそうだ。
「-philosophical」に引っ掛かる一方、zombieは必ず"Zombie Cat Paradox"(ゾンビ猫のパラドックス)という文字列で出てくるため、ジャンルは哲学ではない。もちろん物理学だ。
面白そうだから暇のある時に読んでおこう。
大学院生として書くことの治癒力を発見するジェニファー・バートランド
原題:Discovering the Healing Power of Writing as a Graduate Student Jennifer Bertrand
掲載:Writing for Wellbeing: Theory, Research, and Practice
著者:Jennifer Bertrand
ジャンル:自己啓発?
「-philosophical」に引っかかったが、どうも哲学の論文ではない。ただ、zombieの単語はウォーキングデッドの紹介や"I would eventually write a zombie short story"といった文でしかで現れないため、私が求めているゾンビの論文ではない。
共に守りますか?強圧的方向転換と党とブロックの危機
原題:Holding It Together? The Coercive Turn and the Crises of Party and Bloc
掲載:The Battle for Britainの第八章
著者:John Clarke
ジャンル:政治学
イギリスの政治に関する書籍のようだ。中身を閲覧できないためどの単語に引っ掛かってこちらの検索条件に来たのかわからないが、Keywordsに"Zombie Thatcherism"(ゾンビ・サッチャリズム)の単語があった。
サッチャーはご存じイギリスで最初の女性首相を務めた人間である。よく知らないが、最近ではいろいろとこき下ろされる評価が多いように記憶している。昔はよかった(かもしれない)が、今では時代遅れの保守思想であるとしてゾンビの名を冠していると想像する。
ちなみに、"Zombie Thatcherism"で検索すると1000件以上のヒットがある。ゾンビ・サッチャリズムはイギリス政治のトレンドなのかもしれない。検索の際は、二つの単語をダブルクオーテーションでくくることをお忘れなく。
検索条件「zombie -firm -philosophical -DDos -company」
ゾンビ企業には"zombie company"という表記もあることから、そういったゾンビ論文を排除するために設定した検索条件。
この検索条件では「zombie -firm -philosophical -DDos」にヒットした論文のうち、「company」の単語を含むゾンビ論文が排除される。その排除される論文が経済学の論文であれば、目的を果たしていることになる。
今回排除されたのは以下の二件だった。
「違法なフェンタニルのサンプルから検出される動物用精神安定剤であるキシラジン、別名Tranqについて知っておくべきこと」
「ビーチフラッツのコミュニティガーデンの撤去:環境的人種差別の一例」
前者はどうもaccompanyが「-company」に引っ掛かったとしか思えない。companyの単語はなく、類語もないからだ。Googleの検索能力はこんな間違いなどしないはずだが…。
後者はコミュニティガーデンの所有者である会社を説明する際に何度かcompanyの単語を使用している。
ただ、どちらも経済学の論文ではない。今回も目的を果たしているとは言えない。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -DDos」は水産学、医学、社会学が一件ずつだった。また、「zombie」の方にも物理学と政治学の一件ずつに面白そうなものがあった。
ゾンビドラッグことキシラジンについて知識が増えた。しかしそれはアメリカの社会的治安の劣悪化によるものとあって、ちょっと気まずい気持ちがある。まあ、これで金を稼いでいるわけでもないしちょっとくらいは許してもらえるだろう。
今回は「zombie」の検索条件の方に面白い結果が紛れていた。ゾンビ猫にゾンビ・サッチャリズム。初めて聞くゾンビ用語だ。ゾンビ猫の方は物理学の論文ということもあるため、後でしっかりと読んでみよう。これでも量子力学関連で学位をとった人間だ。高校生が書いた物理学論文くらい読めずになんとする。ちょっとウキウキしてきた。
しかし、今日はねらいのゾンビ論文なし。