2023/04/27(木)のゾンビ論文 認知症患者をゾンビにたとえる悪癖
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -company -philosophical」(経済学・哲学のゾンビ論文避け)
「zombie -firm -company」(経済学のゾンビ論文避け)
「zombie」(zombieの単語が入っていればなんでも)
このうち、「zombie -firm -company -philosophical」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードできちんと経済学と哲学のゾンビ論文がよけられているか確認するために、差分を簡潔に紹介する。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -company -philosophical」二件
「zombie -firm -company」四件(差分二件)
「zombie」五件(差分一件)
「zombie -firm -company -philosophical」の二件は認知言語学、観光学が一件ずつだった。
検索キーワード「zombie -firm -company -philosophical」
「生ける屍」か「最後まで戦う」か – オンライン健康フォーラムにおける認知症の隠喩
一件目。
原題:“the living dead” or “fight till the end”?–Metaphors of dementia in online health forums
掲載:16th International Cognitive Linguistics Conferenceにて報告
著者:Monika Pleyer
ジャンル:認知言語学
タイトルからして認知症を表す比喩としてゾンビを引き合いに出しているものと推定される。アブストラクトを「zombie」で検索したところ、以下の文章が出てきたため、間違いないだろう。
多くの人間が何かネガティブな性格を持つ人間をゾンビのようだと言っている。この論文は、それを認知症患者やその家族介護者に限定して、どのような人間がゾンビとして表され、概念化の際に負のイメージが付与されるのかを分析したものである。
以前、移民が自分たちをモンスターとして表すことがあると報告した論文を、このマガジンで紹介したことがある。
その時は移民、今回は認知症患者。それぞれが研究者の専門分野に限定された範囲における分析ではあるが、多くを集めれば共通点が見えてくる可能性は高い。収集して、ひとつの線を見つけることができれば、なぜ多くの人間がゾンビを比喩として使うのか、定量的な分析ができるかもしれない。
ジャンルは、学会の名前より、認知言語学。
YouTuber、ゲーム実況者、VTuberなどの複合的で複雑な現代文化を研究する際に有用な研究手法の提案―コロナ禍におけるVTuber「 ゾンビ先生」による情報空間のフィールドワーク―
二件目。
原題:ー
掲載:近畿大学学術情報リポジトリ
著者:岡本健
ジャンル:観光学
日本におけるゾンビ研究の第一人者を自称する岡本健准教授の報告書である。ジャンルは彼の専攻からとって観光学とする。Vtuberをバーチャル空間における観光の一種と捉えれば違和感はないだろう。もちろん、異論はあるだろうが。
私は彼の著作である『ゾンビ学』も『大学で学ぶゾンビ学』も、どちらも読んでいる。ゾンビが世界や日本で受け入れられるようになった歴史や最近のゾンビ映画のトレンド、変化する受容のかたちなど、傾聴に値する部分は多い。しかし、どうにも「言ったもん勝ち」な分析・結論に見える部分もそれなりにあり、好きにはなれない。
話を戻すが、この論文も好きになれそうにない。私の好悪感情などどうでもいいのだが、上述の著作とはまた異なる、単なるVtuberとしての活動報告書からどうやって存在意義を読み取ればいいのかわからない。この文章のどこを読み、何を抜粋してこの記事にまとめればよいのかわからないのだ。
不平不満しか書けず、大変申し訳なく思う。この記事を読んでいる人間にも、岡本先生にも失礼な態度だと思う。私が社会学系の論文を「言ったもん勝ち」「感想文」と捉える限りはこのような態度が消えることはないだろう。
検索キーワード「zombie -firm -company」
この検索キーワードは「zombie -firm -company -philosophical」との差分を表示する。-philosophicalは「philosophicalという単語を含まない」という条件を意味するため、主に哲学のゾンビ論文が差分として表示される。
この節では差分を見ることを目的とするため、各論文の内容にはできるだけ立ち入らない。
生物学的恐怖の再定義: HBO の The Last of Us における感染体の美的進化
原題:Redefining Biological Horror: The Aesthetic Evolution of an Infected Body in HBO's The Last of Us
掲載:STUDIA UBB DRAMATICA
著者:Flavius Floare
ジャンル:芸術学
『ラスト・オブ・アス』は凶暴な感染者が蔓延る世界を舞台としたサバイバルゲーム。まあ、おおむねゾンビゲームと捉えて間違いない。ただし、論文中では”There have been debates on whether the infected humans should be called “zombies”,”(感染した人間をゾンビと呼ぶべきか議論がある)とある。バイオハザードみたいなものか。
「-philosophical」に引っかかったのは”… and the philosophical subtexts of morality are highly regarded by critics”(道徳の哲学的サブテキストなどは批評家から高く評価されている)という一文。本筋には関係ない。
『ラスト・オブ・アス』における感染者がどのような描かれ方をされるに至ったか、その歴史的経緯?を探る論文らしい。
プラトンとアリストテレスによる哲学
原題:Philosophizing with Plato and Aristotle
掲載:PhilArchive
著者:George H. Rudebusch
ジャンル:哲学
このタイトルで「哲学的ゾンビ」以外のゾンビを扱うわけがない。
検索キーワード「zombie」
このキーワードでは経済学・哲学のゾンビ論文がアラートに入ってくる。
レンズの血
原題:Blood on the Lens
掲載:このタイトルの本がある
著者:Shellie McMurdo
ジャンル:映画感想
中身検索で「zombie」を探してみると、ほぼすべての章で「zombie」の単語が見られる。また、本の説明に”Trauma and Anxiety in American Found Footage Horror Cinema”(アメリカのファウンドフッテージホラー映画におけるトラウマと不安)とある。ゾンビ映画を引き合いに出してトラウマと不安を分析する論文なのだろう。とすれば、タイトルのレンズとは撮影用カメラのレンズか。
まとめ
「zombie -firm -company -philosophical」の二件は認知言語学、観光学が一件ずつだった。
今回のアラートチェックは点が線になる瞬間を見せてくれた。すなわち、ある種の人間が自分自身、あるいは身近な人間をゾンビにたとえることについて、様々なジャンルで調査がなされているということを知った。今回は認知言語学、とりわけ認知症患者をゾンビとたとえることに関する調査で、前回はメディア文化学で、移民と難民に着目した調査だった。
ジャンルとしては全く別のものとしてカウントするしかないが、方向性は同じだ。同じ成分を持ったベクトルが、同じ空間の別の座標を原点として割り当てられているイメージを持った。
今はまだ論文2本だけだが、これが多く集まった時、まとめて総評を考えてみると面白いかもしれない。
今日はねらいのゾンビ論文なし。