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ゾンビ論文の総括(2023年12月)


概要

2023年12月にGoogleスカラーのアラートに次の検索条件を設定して、ゾンビ論文の収集を行った。

条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

  3. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

各検索キーワードの意図は次の通り。単語の前にハイフンをつけると、その単語を含まないものを探す検索条件となる。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などを評論する論文を排除する

  • 「-Netflix」:ネトフリ限定ゾンビドラマなどを引用する論文を排除する

  • 「-network」:とにかく情報科学の論文を排除したい

12月中にメインの検索条件に引っかかったゾンビ論文は25本であり、私の目的に合致した論文は見つからなかった。


また、1月の検索条件を次の3つに設定する。ただし、検索条件1をメインの検索条件とする。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network

  2. 「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

以下、12月の調査の詳細を記載する。



集計結果

まず、集計結果を示す。

2023年12月のゾンビ論文集計結果。
最上行の日付はアラートメールが送られてきた日付。
ジャンルごとに集計結果が多い順にソート済

合計で25件のヒット。標準的なヒット数である。また、「月の合計で30件以上のヒットがあった場合、各日で設定したジャンルを再分類する」という課題には引っ掛からなかった。

最も多かったのは経済学の六件で、次に医学の四件。ただ、経済学のゾンビ論文のうち五件は排除キーワードが機能していなかったために引っ掛かったものだった。これへの対応は後述する。教育学と評論の三件は、まあいいだろう。ただ、評論系のゾンビ論文は「-narrative」で排除する予定だったため、このキーワードがなかったら何件だったか、そして残りの三件に共通する単語がないかはまとめておきたい。

日ごとの論文のヒット数は平均二件。ゼロ件が三日ある一方で、四件と五件の日がそれぞれ二日(12/2、12/28)と一日(12/23)だけあったが、医学か経済学の論文さえ排除できていれば、いずれも二件のみのヒットに抑えられた。そうなれば、合計で18件のヒットとなり、日ごとのヒット数は平均で0.72件になる。そうなれば時間を作れて、やっと本物のゾンビを扱う論文のレビューができるようになる。

また、検索条件ごとのヒット数は次の通り。検索条件1と2の差分が14件と、25件の半分超もあることから、11月末に追加した排除キーワードがうまく機能していることがわかる。また、検索条件2と3は「-gender」と「-philosophical」のみだが、その差分は24件と非常に大きい。

2023年12月の検索条件ごとの集計結果。
検索条件2が1よりも多ければ黄色で、
検索条件3が2よりも多ければオレンジで色を付けた。


12月の検証結果

12月の検証内容を述べる。

  • ゾンビ企業を扱う論文が多数ヒットした。

上でも少し触れたが、ゾンビ企業を「-firm」で排除していたにもかかわらず、12月は六件もヒットしてしまった。これは「-firm」を排除キーワードとしていたところ、論文中のゾンビ企業が"zombie firms"と記載されていたことに起因する。

主に、"zombie firm"と記載される場合は概念としてゾンビ企業を紹介する場合に限り、ゾンビ企業の特徴や衰退を論じる場合は基本的に"zombie firms"と複数形にするようだ。まあ、ゾンビが一人だけなんてあるはずもないので、言われてみれば納得だが。

したがって、排除キーワードを「-firm」から「-firms」に変更する。


  • 月の合計で30件以上のヒットがあった場合、各日で設定したジャンルを再分類する。

今回は合計25件のヒットだったため、再分類は不要。

ただ一応断っておくと、アラートのメールに記載はあるものの、論文や記事が見つからなかったり、zombieの単語が見つからなかったり、英語以外の言語なのに論文が画像化されていて翻訳ソフトが使えなかったりした場合は私の判断で除外していた。あるいは、記事内で紹介するのが他にも個人ブログとか単なる意見表明とか、レベルが低いと判断したものも抜かしてまとめていた。


  • 評論の論文を排除するためのキーワードとして「-narrative」と「-Netflix」を設定し、効果を確認する。

まず、「-narrative」で排除された論文は次の16件。今回改めてカウントしてわかったが、他のキーワードとの重複が案外多かった。

  1. ビクトリア朝の墓地政治: イントロダクション(12/9、歴史学?)

  2. 教育用エスケープルームを使用して電子機器とマイコンの教育を変革する(12/12、教育学)

  3. フク、黙示録的な幽霊、そしてジュノ・ディアスの「モンストロ」における SF の具現化(12/14、評論

  4. 他者の修辞的使用: 現代ホラー映画における象徴的障害の分析(12/14、評論

  5. 永続的なピラミッド:マリー・コレッリのジシュカにおける宗教の箔としてのエジプトの創造を探る(12/17、歴史学)

  6. 撤退:ジョゼ・サラマーゴの視覚とルース・オゼキの『あるときの物語』を通して未来への感覚を再考する(12/17、評論

  7. 疫病の政治経済学(12/19、経済学)

  8. ゾンビコンセプトとしてのキャラクター(12/19、評論

  9. 『私はゾンビと歩いた!』が壊れた理由と壊れた理由(12/21、評論

  10. 衰退しつつあるゾンビの革命能力。ダニー・ラフェリエールとヤニック・ラーエンスの小説に例示される、ハイチ文学におけるゾンビの象徴主義の変容(12/21、評論

  11. ホラー対リンダガトーレ・デル・インキュボ。ディラン・ドッグの物語におけるディオニュソス的、不合理、不条理(12/21、哲学?)

  12. ポスト真実時代の不純なリアリズム、純粋な出来事性、ホラー映画: 『カメラを止めるな!』のケーススタディ(12/23、評論

  13. 中国系アメリカンの文学における巨大な母系譜(12/26、評論

  14. ナチスをぶちのめす: ゾンビから宇宙まで、素晴らしい映画文化の中でファシストの悪役を解体する(12/30、比較文化学

  15. 脱植民地化と西洋人の心の閉鎖(12/30、社会学)

  16. 日本の吸血鬼(12/30、比較文化学

16件のうち、八件が評論系の論文。また、比較文化学は二件あるが、基本的に映画や小説などフィクションを使って文化を比較するものだから、これも「-narrative」で排除されるのは問題ないと言える。

残りの六件は、歴史学が二件、教育学、経済学、哲学、社会学が一件ずつである。うち、ゾンビかどうかはともかく物語性に注目しうるジャンルは歴史学と社会学、哲学か。ちなみに、歴史学の二件は民族や文化のナラティブがどうのこうのという内容だったが、12/21の哲学論文は『ディラン・ドッグ』12/30の社会学論文は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』をそれぞれ引用しているため、論文の主題こそ哲学や社会学だが、文章の作りが評論じみていると言っても過言ではない。

となると、「-narrative」になぜか引っ掛かった、あるいは引っ掛けてしまったと評さねばならないのは教育学、経済学であり、16件中14件はねらい通りに排除できたと評価してもよいだろう。「物語性に注目しうるジャンル」という考えは後出し感が否めないが、やってみて結果を見たらそんなこともあるかもなーと思いなおすこともある。

したがって、「-narrative」で排除できたのは、評論だけに絞っても八件、比較文化学を含めれば10件、範囲を広くとれば14件。一方、「-narrative」で排除しきれなかった評論系の論文は三件、比較文化学や歴史学などは一件もなかったため、うまく機能したと言っても良いだろう。

ということで、検証は成功。ただし、ねらいの論文を排除する懸念までは払拭できないため、取りこぼし確認用にはまだ入れない


次に、「-Netflix」で排除された論文は次の三件。

  1. 他者の修辞的使用: 現代ホラー映画における象徴的障害の分析(12/14、評論

  2. ナチスをぶちのめす: ゾンビから宇宙まで、素晴らしい映画文化の中でファシストの悪役を解体する(12/30、比較文化学

  3. 日本の吸血鬼(12/30、比較文化学

役に立っていない。韓国のネトフリゾンビドラマを論じる論文が集中的にヒットしたタイミングで考えた排除キーワードだったため、正直なところこうなることは目に見えていた。ただ、ここまでとは…。

また、懸念される事項として、ゾンビパンデミックシミュレーションでは映画やドラマを引用して個々のケースをシミュレーションを再現しようとすることが考えられる。たとえば、ネトフリドラマ『今、私たちの学校は…』を模して学校内でゾンビパンデミックが生じたケースのシミュレーションをする、といったことが。よって、ドラマそのものを除外するのは都合が悪く、その点でも「-Netflix」は排除キーワードとして不向きである。

ということで、1月の検索条件から「-Netflix」を削除する


  • 情報科学の論文を排除するためのキーワードとして「-network」を設定し、効果を確認する。

次の検証を行う。「-network」で排除された論文は次の12件。

  1. TCP/IP サイドチャネルを介した NAT ボックスに関するインターネット全体への侵入調査(12/2、情報科学

  2. ほぼ非同期の分散暗号化技術(12/2、情報科学

  3. 映画館での微生物病原体(12/9、生物学)

  4. フク、黙示録的な幽霊、そしてジュノ・ディアスの「モンストロ」における SF の具現化(12/14、評論)

  5. ChAos(12/17、?)

  6. 『私はゾンビと歩いた!』が壊れた理由と壊れた理由(12/21、評論)

  7. 無効/有効なプレイ: ビデオ ゲームのメカニズムとインフラにおける非障碍者優先のイデオロギーと能力の統合(12/21、ゲームデザイン学?

  8. Unity3D をベースにしたタワーディフェンス ゲームデザイン(12/23、ゲームデザイン学

  9. ポスト真実時代の不純なリアリズム、純粋な出来事性、ホラー映画: 『カメラを止めるな!』のケーススタディ(12/23、評論)

  10. 中国系アメリカンの文学における巨大な母系譜(12/26、評論)

  11. アンサンブル学習に基づくゾンビ企業分類認識システムの設計と研究(12/28、経済学)

  12. 有望な多標的神経保護剤としてのゾンビ真菌 (冬虫夏草) 由来のユニークな生理活性物質(12/30、医学)

情報科学の論文はたったの二件。ゲームデザイン学はプログラミングを使うため情報科学に属しそうだし、12/28の経済学も手法が情報科学的だが、これらを含めても12件中五件。ねらいの論文以外を排除しすぎている。

これは「-philosophical」や「-gender」にも同じことが言える。それぞれ哲学的ゾンビやフィクションをジェンダー的観点で批評する論文を排除するために設定したキーワードだが、様々な論文で使われる単語であるため、ねらいの論文さえも排除する危険性があり、取りこぼし確認用の検索条件からは外したという経緯があった。

ならば、「-network」を使うとしてもすべての検索条件は入れず、取りこぼし確認用の検索条件には入れないと判断するのが妥当であろう。1月からはそのように対応する。

また、裏でアラートに「zombie network」という検索条件を設定しており、「-network」で排除される論文をざっくりと追ってもいた。そこで気づいたことがある。その論文の中に「-DDoS」でも排除される論文がいくつも混ざっていたのだ。つまり、「-network」さえあれば「-DDoS」は不要になるのではないだろうか。

試しにGoogleスカラーで検索してみると、2023/12/31時点で「zombie DDoS」では約11,000件のヒットがある。次に「zombie DDoS -network」で検索すると約139件のヒットがある。つまり、zombieの単語を使いながらDDoSを扱う論文のうち、98.7%が同時にnetworkの単語も使っているということになる。「-network」は「-DDoS」で排除される論文をほとんどすべて排除することができるのだ。

ただ、「zombie network」で検索すると約25,500件と、「zombie DDoS」の二倍の論文がヒットする。これは、「-network」が「-DDoS」よりも広い範囲でゾンビ論文を排除することを意味しており、先の検証結果とよく合致する。

また、「-DDoS」を取りこぼし確認用の検索条件には入れないことは宣言した通りであるため、「-DDoS」は取りこぼし確認用の検索条件には残しておき、その他の検索条件には代わりに「-network」を入れることとする。



1月の検証

1月は以下の検証を行う。

  • 月の合計で30件以上のヒットがあった場合、各日で設定したジャンルを再分類する。

  • 衛生学の論文を排除するためのキーワードとして「-drug」を設定し、効果を確認する。

「-drug」が突然出てきたが、これは11月のゾンビ論文の総括にて考えてたことだ。11月は衛生学のゾンビ論文が総四件ヒットしたため、それらを排除するためのキーワードを考察していたのだ。

今「-xylazine」でゾンビドラッグとも呼ばれているキシラジンを排除している。キシラジンを扱う論文が「zombie」に引っ掛かるとき、必ず"zombie drug"という文字列が出てくるはずだ。となれば、「-xylazine」という範囲が非常に狭いキーワードから「-drug」に変更しても良いかもしれない。

ゾンビ論文の総括(2023年11月)より


ということで、1月の検索条件は次の3つに設定する。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network

  2. 「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

まず、すべての検索条件の「-firm」を「-firms」に変更した。これでゾンビ企業を扱う論文がヒットしなくなるはずだ。

検索条件1がメインで確認する条件である。「-DDoS」を削除した。これらの検索条件で本物のゾンビ論文がヒットすることを期待する。

検索条件2は「-drug」と「-xylazine」の比較用に設定した。予想では「-drug」が衛生学以外の論文を排除してしまい、「-xylazine」の方が正確な検索結果を出してくれるはずだ。じゃあ変えない方が良いのでは?と疑問に思うだろうが、まずはやってみろ、だ。

検索条件3は取りこぼし確認用検索条件。

変更は1/1(月)以降のゾンビ論文に適用される。

以上。


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