2024/5月第二週のゾンビ論文 環境開発にもゾンビが潜んでいるんだって

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie narrative」(さらに取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。ただし、「-narrative」で排除される論文の中にはねらいの論文が含まれている可能性もあるため、条件3も設定してある。

今回、5/1~5/5の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」三件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」五件(条件1との重複を含めれば八件)

  3. 「zombie narrative」(30件)

検索条件1は評論、環境学、法学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

ロメロ・ゾンビ:社会の新たな怒り

一件目。

アラート日付:5月8日
原題:The Romero Zombie: Society's New Fury
掲載:Dissections Horror E-Zine
著者:Heather Elise Hamilton
ジャンル:評論(マルクス主義批評)

ロメロのゾンビは消費主義を批判している、とよく評価される。『ゾンビ』(原題:Dawn of the Dead)がショッピングモールを荒らすからである。そして、この論文ではゾンビに「生存者の罪悪感」という解釈を追加するとのこと。

A great deal of academic literature has been written on the unique sociological implications of the Romero zombie. As a representation of the shortcomings of first world consumerism, the Romero zombie is a unique symbol of the social decay created by extreme greed. This study does not propose to contradict the exceptional work that has come before, but rather to add to it the idea that the Romero zombie is also a manifestation of the ‘survivor guilt’ of wealthy consumers.
(ロメロゾンビの独特な社会学的意味については、数多くの学術文献が書かれています。第一世界の消費主義の欠点を代表するロメロゾンビは、極度の貪欲によって生み出された社会の衰退を象徴するユニークな存在です。本研究は、これまでの例外的な研究に矛盾することを提案しているのではなく、むしろ、ロメロゾンビも裕福な消費者の「生存者の罪悪感」の現れであるという考えをそれに追加することを提案しています。)

同論文より

そして、古代ギリシャのフューリー(別名エリーニュス)を引いて、罪悪感の怪物化を正当化する。

The ancient Greeks saw guilt as a monster called a Fury. The Furies were hungry, filthy, and pursued their victims with single minded tenacity. The violence that the emotion of guilt exacts on the psyche was represented by the violence the Fury exacted on the body of the guilty Greek, as it clawed and bit and tore at him. The zombie is our equivalent of the ancient Fury.
古代ギリシャ人は罪悪感をフューリーと呼ばれる怪物として捉えていました。フューリーたちは飢え、不潔で、ひたむきな執念で犠牲者を追いかけました。罪悪感が精神に及ぼす暴力は、怒りが罪を犯したギリシア人の身体に、ひっかき、噛みつき、引き裂くという暴力で表されていた。ゾンビは古代のフューリーに相当します。

同論文より

フューリーには「ひっかき、噛みつき、引き裂くという暴力」という特徴がある。ゾンビにもある。だからゾンビは古代のフューリーなのだ。という論理展開らしいのだが、初学者がやりそうな三段論法の間違いを犯しているように見える。論理的展開ではなく、単なる類推であるならば構わないが。

その他、ゾンビに象徴される恐怖や暴力を説明し、ロメロゾンビになぜ罪悪感が象徴されるのかを示している。

ジャンルは評論。消費主義を批判しているため、マルクス主義批評が妥当か。


プロフォーマ I – 第 6 回気候変動に関する国際パネル – 6 件の回答

二件目。

アラート日付:5月8日
原題:Proforma I – 6th International Panel on Climate Change – 6 responses
掲載:Policy Commons
著者:Faith Aghahowa
ジャンル:環境学

気候変動…というか諸々の開発による環境破壊に関してパネルディスカッションがあり、6つの質問への回答を示した論文だと思われる。"zombie DA"なる文字列が見られる。

Develop a new process in the NSW Environment Planning and Assessment Act in regard to existing DAs, including ‘zombie DAs, that requires the incorporation of up-to-date modelling on climate change risk, including risk for increased severity of bushfires, coastal hazards, and flood hazards
「ゾンビ DA」を含む既存の DA に関して、ニューサウスウェールズ州環境計画および評価法に新たなプロセスを開発し、気候変動リスクの最新モデルを組み込むことを要求する。山火事、海岸の危険、洪水の危険の深刻さ)

同論文より

しかし「DA」が何を指すのかは示されていない。読める部分に限りがあるため、きっと本文を読めば「DA」の意味がわかるのだが。しかし、調べたところ"zombie development application"(ゾンビ開発申請)がヒットした。

“Zombie DAs” are development applications that have been approved historically and are seemingly brought back to life, in other words relied and acted upon, many years after they were granted. This can become a cause for concern where developments that no longer adhere to contemporary environmental and planning controls, standards or strategic objectives are permitted to proceed.
「ゾンビ DA」は、歴史的に承認されてきた開発申請であり、承認されてから何年も経ってから見かけ上復活した、つまり言い換えれば、信頼され、実行されたものです。これは、現代の環境および計画の管理、基準、または戦略目標に準拠しなくなった開発の進行が許可されている場合、懸念の原因となる可能性があります。)

McCullough Robertson掲載
"Zombie Development Applications"より

昔の基準で認定された開発計画が今になって蘇った。しかし昔の基準でもらった許可なので現代では問題があるかもしれない。これがゾンビの名を冠する理由である。

ジャンルは環境学。


ゾンビ自決?

三件目。

アラート日付:5月11日
原題:Zombie Self-determination?
掲載:Review of Central and East European Law
著者:Bill Bowring
ジャンル:法学(書評?)

見覚えのあるタイトルと著者名だと思ったら、以前にもチェックしていた。ただし、前回は大学のリポジトリに登録されたpreprint?であり、今回はReview of Central and East European Lawに掲載された正式版らしい。

この論文は『Russia and the Right to Self-Determination in the Post-Soviet Space』という本の書評。ただ、法学的観点からの読み解きであるので、ジャンルは法学としていた。

前回扱ったときは、民族自決権(right to self-determination)が第二次世界大戦後に社会的混乱をもたらしたことからゾンビ自決権という言葉が生まれたと結論した。

ジャンルは法学。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

悪魔主義者 デビッド・ウィックスとのインタビュー

アラート日付:5月6日
原題:The Satanist An Interview with David Wickes
掲載:Critical Readings on Hammer Horror Filmsという本
著者:Matthew Edwards
ジャンル:評論

「-network」で排除。ホラー映画の評論するオムニバス本の第14章。"The Plague of the Zombies"(邦題:吸血ゾンビ)という映画に触れている。


ジキル博士 - ジョー・スティーブンソンとのインタビュー

アラート日付:5月6日
原題:Doctor Jekyll–An Interview with Joe Stephenson
掲載:Critical Readings on Hammer Horror Filmsという本
著者:Matthew Edwards
ジャンル:評論

「-gender」で排除。ホラー映画の評論するオムニバス本の第18章。こちらも"The Plague of the Zombies"(邦題:吸血ゾンビ)という映画に触れている。著者が同じだし、手癖かテーマなのかもしれない。


ジョゼフ・トンダ著、クリス・ターナー訳『現代の主権者:中央アフリカ(コンゴとガボン)の権力体』

アラート日付:5月11日
原題:Joseph Tonda (translated by Chris Turner). The Modern Sovereign: The Body of Power in Central Africa (Congo and Gabon).
掲載:African Studies Review
著者:Holly Dunn
ジャンル:書評

「-gender」で排除。"The Modern Sovereign: The Body of Power in Central Africa (Congo and Gabon)"の書評。アフリカ文化について書かれた本の書評で、アフリカはブードゥー教の本元であるため、ゾンビに触れている。

One of the exciting elements of this book is how the author weaves together the modern sovereign with hidden violences and the African realities of witchcraft, sorcery, and zombies.
(この本のエキサイティングな要素の 1 つは、隠れた暴力を伴う現代の主権と、魔術、魔術、ゾンビなどのアフリカの現実を著者がどのように織り交ぜているかです。)

同論文より


SYN Cookie のダークサイド: 有効なポート スキャン脆弱性

アラート日付:5月11日
原題:The Dark Side of SYN Cookies: Port Scanning Vulnerability Enabled
掲載:Università Ca' Foscari Veneziaに提出された修士論文
著者:Enrico Da Rodda
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。タイトルのSYN Cookieとは、「特定のDoS攻撃であるSYNフラッディングを回避するためのネットワークセキュリティ対策」だそうだ。調べたところ、ゾンビPCを使って対象のサーバなどに多大な負荷を与えるDoS攻撃にも種類があり、SYNフラッド攻撃というものがあるらしい。読んでもわからなかったけど…。

"zombie machine"という文字列が見られるが、意味はゾンビPCと同じだろう。


H-Louvain: ソーシャル メディア データ ストリームにおける階層型 Louvain ベースのコミュニティ検出

アラート日付:5月12日
原題:H-Louvain: Hierarchical Louvain-based community detection in social media data streams
掲載: Peer-to-Peer Networking and Applications
著者:Zi-xuan Hanを筆頭著者として、九名
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。タイトルもアブストラクトも意味が分からない。



検索条件3「zombie narrative」

検索条件2の「-narrative」がねらいの論文まで排除していないか調べる。

以下、30件のゾンビ論文が見つかった。そのうち、「-narrative」で排除したかった評論・比較文化学・社会学など(太字で表示する)は計20件だった。つまり、残りの10件は意図せず排除してしまったゾンビ論文である。ただし、この中にねらいの論文はなかった。

まず、5/6の分。

  1. Videology: A journey into the archive of obsolete video through media archaeology(ビデオロジー: メディア考古学を通じて時代遅れのビデオのアーカイブを探る旅 メディア学)

次に5/7の分。

  1. Mass Media Intervention on Drug Abuse and its Effect on Secondary School Students Learning Abilities(薬物乱用に対するマスメディアの介入と中学生の学習能力への影響 衛生学)

次に、5/8の分。件数がアラート最大の10件に近いため、関連性の低い結果であると思われる。また、一件目の本文で、失語症患者を"phone zombie"(電話ゾンビ)と呼んでいる点が気になった。

  1. The Online Motivations and Adjustment Mechanisms of "Verbal Aphasiacs" from the Perspective of CMM Theory(CMM理論の観点から見た「言語性失語症」のオンライン動機と調整メカニズム 医学)

  2. WHY HER? An Attempt to Account for the Enduring Appeal of Jane Austen.(なぜ彼女なのか?ジェーン・オースティンの永遠の魅力を説明する試み。 評論)

  3. Theory of Mind and Its Role in Theories of Autism(心の理論と自閉症理論におけるその役割 医学)

  4. The Perpetrator's Allegory: Historical Memories and the Killings of 1965 (加害者の寓話: 歴史の記憶と 1965 年の殺害 歴史学)

  5. I Just Want to be a Normal Teenager: A Literature Review of Impacts of Adolescent-onset Chronic Illness on Identity Development and Proposed Benefits of Drama Therapy(私はただ普通のティーンエイジャーになりたい:思春期に発症する慢性疾患がアイデンティティーの発達に及ぼす影響と演劇療法の提案された利点に関する文献レビュー 表現療法学)

  6. Academic abuse: A conceptual framework of the dimensions of toxic culture in higher education and the impact on the meaning of work(カリブ海フィクションにおけるセックスワーク 比較文化学)

  7. Diagnosing Complex Organisations with Diverse Cultures—Part 2: Application to ASEAN(多様な文化を持つ複雑な組織を診断する - パート 2: ASEAN への応用 比較文化学)

  8. Is the sky bluer than before? Examining firm stability in Europe(空は前より青くなっていますか?欧州の安定性を検証 経済学)

  9. The Political Economy of the Eurozone’s Rollercoaster(ユーロ圏のジェットコースターの政治経済 経済学)

次に、5/9。件数がアラート最大の10件に近いため、関連性の低い結果であると思われる。

  1. Neuromorphic Correlates of Artificial Consciousness(人工意識の神経形態学的相関 情報工学)

  2. The End of The World: Decoding the Ideological Framework of Latin American Pandemic Narrative Today(世界の終わり:今日のラテンアメリカのパンデミック物語のイデオロギー的枠組みを解読する 社会学)

  3. "No More Haunted Dolls: Horror Fiction that Transcends the Tropes"(「もう幽霊人形はいない: 比喩を超えたホラー小説」 書評)

  4. Reading the “living rock”: Excavating the transhistorical record of racial sedimentation in the literature of Navassa Island(「生きた岩」を読む:ナヴァッサ島の文学における人種的堆積の超歴史的記録の発掘 書評)

  5. Facilitating Scientific Inquiry Skills through Fiction-Based Learning(フィクションに基づいた学習を通じて科学的探究スキルを促進する 教育学)

  6. The Routledge Handbook of the New African Diasporic Literature(新しいアフリカ離散文学のラウトリッジ・ハンドブック 文学)

  7. The Cheshire Clown: Joker’s Infectious Laughter(チェシャー・ピエロ:ジョーカーの伝染性の笑い 評論)

次に、5/10。

  1. A Dead World Dreaming: The Afterlives of HP Lovecraft and His Monsters (夢見る死んだ世界: HP ラヴクラフトの死後の世界とその怪物たち 評論)

次に、5/11の分。件数がアラート最大の10件に近いため、関連性の低い結果であると思われる。

  1. Rethinking Narratives On Environmental Migration(環境移行に関する物語を再考する 環境学)

  2. Law and Horror(法とホラー 評論)

  3. Historical Afroeuropean and Transatlantic Mobilities in Contemporary Francophone Afrodiasporic Fiction(現代フランス語圏アフロディアスポラ小説における歴史的なアフリカヨーロッパ人と大西洋横断移動 文学)

  4. Writing against the Rift(亀裂に反対する書き込み 評論)

  5. “A Sickness Partly Spiritual, Partly Physical”(「部分的には霊的で、部分的には肉体的な病気」 評論)

  6. Zoonosis(人獣共通感染症 社会学)

  7. Critical Readings on Hammer Horror Films(ハマーホラー映画の批評 評論)

  8. The True, the Good, the Spiteful: An Auto(bio)psy of Bosnian Refugee Experience in Sweden(本当のこと、良いこと、悪意のあること: スウェーデンでのボスニア難民体験の自己(生)解剖 社会学)

  9. I Bette You I'm a Great Mother(私は素晴らしい母親だと思います 評論)

  10. The Distinctiveness of Regional International Organization Law(地域国際組織法の特殊性 法学)

最後に、5/12。

  1. Player Psychology(プレイヤーの心理学 心理学)



最後に

検索条件1は評論、環境学、法学が一件ずつだった。

今回、興味を引いたのはゾンビDAと電話ゾンビ。情報科学のゾンビ論文ではゾンビマシンを使ったDoS攻撃を新しく知ることができたが、ゾンビの知識ではないため面白くはない。

電話ゾンビの意味するところは、失語症患者がスマホでのコミュニケーションに慣れると対面でのコミュニケーションがさらに不得手になってしまうことである。スマホにまつわるゾンビはかなり多い。テレビやラジオでもゾンビになってもよさそうなものだが、ゾンビが市民権を得る前から存在するメディアではゾンビと結合しづらいのだろう。また、スマホほど高機能なコミュニケーションツールにも中々ない。今後、スマホの機能が足されるほどに、スマホにまつわるゾンビは増えていくだろう。

今回はねらいの論文がなかった。


いいなと思ったら応援しよう!