2024/4月第四週のゾンビ論文 何がゾンビに喩えられるのか?その分析
本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。
アラートの検索条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」
「zombie -firms -Chalmers -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)
「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。
「-firms」:ゾンビ企業
「-philosophical」:哲学的ゾンビ
「-drug」:ゾンビドラッグ
「-network」:情報科学系の論文ならなんでも
「-DDoS」:ゾンビPC
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬
「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論
検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。
今回、4/22~4/28の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」二件
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」七件(検索条件1とかぶったものを含めると九件)
検索条件1は経済学、情報科学が一件ずつだった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」
「なぜ『ゾンビ企業』は『アンデッド』のままなのか?」
一件目。
アラート日付:4月24日
原題:"Why Do 'Zombie Companies' Remain 'Undead'?"
掲載:Frontiers in Business, Economics and Management
著者:Yifei Wang と Jiarui Wang
ジャンル:経済学
タイトルの通り、自前で利益を出せずに補助金で生き永らえている企業を指すゾンビ企業に関する論文。主眼は、ゾンビ企業を市場から撤退させる手段である。
ゾンビ企業の論文は、形態の分析や社会動向と広がり方の相関調査、果ては駆除の手段などが多い印象がある。ゾンビを人間に戻す手段は、たとえ比喩の世界であっても存在しないのだろうか。ゾンビには不可逆性があるのだろうか。
ジャンルは経済学。
AI Planningを使用した自動テスト
二件目。
アラート日付:4月25日
原題:Automated Testing Using AI Planning
掲載:Game AI Uncoveredという本
著者:Bram Ridder
ジャンル:情報科学
"AI Planning"というシステム?を用いてAIにゲームをさせる手法の紹介。AIだから哲学的ゾンビに触れているのか、AIにプレイさせるゲームにゾンビが出てくるのか。どちらの理由でこの論文が検索に引っ掛かったのかはわからない。
ジャンルは情報科学。
検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers」
上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビは排除されるように設定してある。
「貧しい人々は状況を改善するために仕事を辞める余裕はない」: コナーズにおける労働者階級の危機
アラート日付:4月23日
原題:“Poor People Can’t Afford to Quit Their Jobs to Make Things Better”: Working-Class Crisis in The Conners
掲載:Television Sitcom and Cultural Crisisという本の第七章
著者:Nancy Bressler
ジャンル:比較文化学?
「-drug」および「-gender」、「-narrative」で排除。内容閲覧もできないし、章ごとのアブストラクトもないため、なぜこの章が検索に引っ掛かったかわからない。ただ、この本がテレビのコメディと現代の様々な文化との関わりを考察するものである点と、この章が「労働者階級の危機」に注目しているという点から推察するに、資本家に虐げられる労働者をゾンビに喩えているのだろう。
行動、選択、幸福の解体: 新古典的選択理論と厚生経済学
アラート日付:4月23日
原題:Deconstructing Behavior, Choice, and Well-being: Neoclassical Choice Theory and Welfare Economics
掲載:このタイトルの本がある
著者:Edward R. Morey
ジャンル:経済学?
「-gender」および「-philosophical」で排除。こちらも全くの内容不明。ただ、副題に経済学と入っているから、ゾンビ企業(zombie companiesの方)あたりが入っていたのだと思う。
Roblox Lua スクリプトの基本
アラート日付:4月24日
原題:Roblox Lua Scripting Essentials
掲載:このタイトルの本がある
著者:Christopher Coutinho
ジャンル:ゲームデザイン学
「-gender」および「-network」で排除。これも内容不明。Roblox Luaというのがゲーム作成言語らしいので、ゾンビが出てくるゲームに触れているのか。
ゾンビを欲して
アラート日付:4月25日
原題:Desiring the Zombie
掲載:Beauty and Monstrosity in Art and Cultureという本
著者:Yorgos Drosos
ジャンル:メディア学(比較文化学でも良いかも)
「-narrative」および「-philosophical」、「-gender」で排除。現代のポップカルチャーにおけるゾンビの分析。分析の対象をゾンビそのものにするのは珍しい。また、アブストラクトに興味深い文章があった。
こちらの記事で私がまとめたように、ゾンビは自由意思のない被支配者の比喩として機能することがある。それが今回の論文では「抑圧、感情の麻痺、従順の化身」と表されているが、最近では一転して「主体性、知性、さらにはかわいらしさ」を表すようになっているという。ただ、おそらくはコスプレや一点物のキャラクターグッズとして出現するゾンビに限ったことで、フィクションに出てくるゾンビはいまだに前者のままではないかと推測する。
ジュリア・チャンピオン、ロクサーヌ・ダグラス、スティーブン・シャピロ(編)著『アンデッドの脱植民地化:世界文学、映画、メディアにおけるゾンビの再考』
アラート日付:4月25日
原題:Decolonizing the Undead: Rethinking Zombies in World-Literature, Film, and Media, by Giulia Champion, Roxanne Douglas & Stephen Shapiro (eds.)
掲載:New West Indian Guide / Nieuwe West-Indische Gids
著者:Gyllian Phillips
ジャンル:書評
「-gender」で排除。Giulia Championらが著した"Decolonizing the Undead: Rethinking Zombies in World-Literature, Film, and Media"という本のレビュー。ゾンビの見方がポストコロニアル的観点から脱植民地観点へと移行しているらしく、その移行が文学、映画、メディアにおいてどのように描かれてきたかを分析したものである。興味深い。
(ウー)マンズヴィル
アラート日付:4月27日
原題:(Wo)Mansville
掲載:Kent State Universityに提出された修士論文
著者:Laura Barbieri
ジャンル:芸術
「-network」および「-gender」で排除。『(Wo)Mansville』というタイトルの演劇。卒業制作の演劇だろうか。Mansvilleという町で男性全員が突如ゾンビになって、生き残った三人の主婦はどうやって生き延びるのか…?というシナリオらしい。『The Power』と『レイプゾンビ LUST OF THE DEAD』の合いの子のような内容に聞こえるが…。
『The Power』と『レイプゾンビ LUST OF THE DEAD』を比較して思ったのだが、『The Power』では女性が男性を直接加害しまくるという構成になっているのが、『レイプゾンビ LUST OF THE DEAD』では男性が女性を加害してくるから仕方がなく殺すという構成になっている点が興味深い。『レイプゾンビ』は男性優位社会による女性の抑圧と復讐を描いた、フェミニズム的に正しい作品だった…?
ちなみに、タイトルの『(Wo)Mansville』は(wo)man's live((ウー)マンズリブ)をもじって(wo)man's villeとしたのだと思われる。vileだとヴァイルと読んでしまうからville。
リブート カルチャー: コミック、映画、トランスメディア
アラート日付:4月27日
原題:Reboot Culture: Comics, Film, Transmedia
掲載:このタイトルの本がある
著者:William Proctor
ジャンル:メディア学
「-philosophical」および「-narrative」で排除。
この本は以前も扱ったことがある。その時は本全体ではなく、いち章の内容に触れていた。
ゾンビから殉教者へ
アラート日付:4月28日
原題:From Zombie to Martyr
掲載:Canadian Military History
著者:Paul Marsden
ジャンル:
「-network」で排除。第二次世界大戦のカナダにおいて、ゾンビと呼ばれる兵隊がいたらしい。
その中にHector Sylvestre(ヘクター・シルベストル)という二等兵がいた。彼が「ゾンビ」から殉教者と呼ばれるようになるまでを記した論文。
最後に
検索条件1は経済学、情報科学が一件ずつだった。
四月は検索条件1のヒット数が異様に多かったが、やっといつもと同じくらいの週二件に戻った。しかも論文の内容もそれほど重くなかった。といってもすべてを細かく見たわけではないどころか、そもそも内容が全く分からないから当て推量でどうにか記事にしたレベルもあったのだが。
興味を引いたのは検索条件2の「ゾンビを欲して」と書評の対象だった『アンデッドの脱植民地化:世界文学、映画、メディアにおけるゾンビの再考』の二つだ。どちらもゾンビの表象を分析した文章で、ゾンビの表象分析は私がゾンビ論文でアラートチェックを始めてからずっとやりたいと思っていたことだ。先人の力を借りることができるのは大変ありがたい。だが、英語の文章を大量に読む時間は中々…。そもそも文系の英語は苦手で読みづらい…。どうしたものか。
今回はねらいの論文がなかった。