2025/1月第五週のゾンビ論文 ゾンビが出た時のメンタルヘルス教育
本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。
アラートの検索条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI -brain -horror」
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative -AI」(取りこぼし確認用)
「zombie "AI"」
「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。
「-firms」:ゾンビ企業
「-philosophical」「-Chalmers」:哲学的ゾンビ
「-drug」:ゾンビドラッグ
「-network」:情報科学系の論文ならなんでも
「-DDoS」:ゾンビPC
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬
「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論
「-AI」:人工知能を扱う情報科学系の論文
「-brain」:ゾンビを彷彿とさせる容体を紹介する論文。脳神経科学や公衆衛生学、薬学など
「-horror」:ゾンビをホラー映画のモンスターとして扱う評論
検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2や条件3で確かめる。
今回、1/27-1/31の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI -brain -horror」二件
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative -AI」一件(条件1との重複を含めれば三件)
「zombie "AI"」36件
検索条件1は、菌類学、観光学が一件だった。そして、検索条件3でねらいの論文が見つかった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI -brain -horror」
イギリス諸島のクモ病原性 Gibellula 属 (Cordycipitaceae: Hypocreales) には、円網を張る洞窟クモ (Metainae: Tetragnathidae) に生息する新しいゾンビ種も含まれる
一件目。
アラート日付:1月30日
原題:The araneopathogenic genus Gibellula (Cordycipitaceae: Hypocreales) in the British Isles, including a new zombie species on orb-weaving cave spiders (Metainae: Tetragnathidae)
掲載:ingenta connect
著者:Evans, H.C.を筆頭著者として、五名
ジャンル:菌類学
真菌に寄生され、菌に行動を制御されてしまったアリをゾンビアリと呼ぶ。そのクモ版の報告。アリ以外にセミが菌に侵されてゾンビになるのは知っていたが、クモもいるとは。
寄生菌は、Hypocreales目Cordycipitaceae科Gibellula属(ニクザキン目コルディシピタ科ギベルラ属)に属する。今回は新種としてGibellula attenboroughii(ギベルラ・アテンボローギ)を報告している。アリに寄生するHypocreales目Ophiocordycipitaceae科Ophiocordyceps属(ニクザキン目オフィオコルディセプス科オフィオコルディセプス属)とは遠縁か。
一方で、寄生されるクモはTetragnathidae科Metainae亜科に属する。日本ではアシナガグモ科と呼ばれている。このクモがGibellula属の新種に寄生され、ゾンビアリと同じように高いところに登って絶命するらしい(summit disease: サミット病)。高いところとは、具体的には洞窟や土を掘って作った住処の天井など。アリのように葉や茎に噛みついて自身を固定するようなことはしないらしい。
また、論文中の図を見る限り、ゾンビアリと聞いて思い浮かべるようなキノコを思わせる子実体と子嚢のセットは見られず、クモは白カビのようなものに覆われている。となると、共通点はサミット病くらいか。
最後にひとつ。この論文を読んで最も気になったことを。論文中には"zombie ant"という呼称は何度も出てきた。きっとゾンビアリがリファレンスに良いのだろう。しかし論文のメインを張っているクモは一向に"zombie spider"とは呼ばれていない。うーむ、なぜだろう。
ちなみに、著者のHarry C. Evansはゾンビアリの専門家で、ゾンビアリという呼称を初めて論文中で使った人間でもある。その辺の詳細は、以下の記事で解説してある。
ジャンルは菌類学。
観光パッケージ作成の研修を通じてムルペジビー村の観光地の管理者を育成
二件目。
アラート日付:1月30日
原題:PEMBERDAYAAN PENGELOLA OBJEK WISATA KAMPUNG LEBAH MURPEJI MELALUI PELATIHAN PEMBUATAN PAKET WISATA
掲載:Journal Pengabdian Mandiri
著者:Fathurrahim Fathurrahimを筆頭著者として、10名
ジャンル:観光学
インドネシアの論文。西ロンボク県リンサール県ダサン ゲリア村の一部であるカンポン ルバ ムルペジが観光地になりうるらしい。確かに、観光サイトにもKAMPUNG LEBAH MURPEJIが掲載されている。
観光名所には養蜂に美しい山々、地元の知恵?などが挙げられている。その観光の魅力を高めるために関係者に施したトレーニングの効果を報告している。
筆者にZombie Kaswari Wantiraという方がいたために検索に引っ掛かった。中々珍しいケースだ。
ジャンルは観光学。
検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative -AI」
上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビを扱った論文や、AI、評論系の論文は排除されるように設定してある。
アフリカのエネルギー転換における「ゾンビエネルギーシステム」の実態を解明
アラート日付:1月30日
原題:Unearthing the reality of 'Zombie energy systems' in Africa's energy transition
掲載:Environmental Research
著者:Michael O Dioha と Magnus C Abraham-Dukuma、 Prudence Datoの三名
ジャンル:環境学
「-network」で排除。アフリカで蔓延る"zombie energy system"(ZES、ゾンビエネルギーシステム)の実態を解明する論文。ZESとは何か? 本文を引用して示す。
検索条件3「zombie "AI"」
検索条件2に含まれる排除キーワード「-AI」が必要以上にゾンビ論文を排除し、私の求めるゾンビ論文まで排除していないか確認する。
なお、「-AI」で排除したい論文は、大規模言語モデル(LLM)を哲学的ゾンビの一種と捉えるものやゾンビが出てくるゲームをAIにプレイさせるもの、AIのベンチマークに"zombie"というプログラムを使うものなどである。
合計36件のヒットがあり、その中にねらいの論文が見つかった。
まずは、1/27の分。ほとんどが情報系、あるいはAIの用途が明快であるが、No.9だけわからない。
Detection of Botnet Attacks on IoT Using AI(AI を活用した IoT へのボットネット攻撃の検出、情報科学)
Society Protect: Developing A Voting Mechanism for Blockchain-based AI Alignment(社会を守る: ブロックチェーンベースの AI 整合のための投票メカニズムの開発、情報科学)
The Impact of Perceived Experience on Customer Privacy Concerns During AI-Human Interaction: The Chain Mediating Effect of Hedonic Value and Trust(AIと人間の相互作用における知覚された経験が顧客のプライバシーの懸念に与える影響:快楽価値と信頼の連鎖媒介効果、経済学)
Botnet Detection Using Hybrid Methods(ハイブリッド手法によるボットネット検出、情報科学)
Cyber Intelligence and Information Retrieval(サイバーインテリジェンスと情報検索、情報科学)
The Role of Age-Related Changes to Memory in Social Judgment and Decision Making Involving Artificial Social Agents(人工社会的エージェントが関与する社会的判断と意思決定における加齢に伴う記憶の変化の役割、情報工学)
Hell-Bent for Leather: Sex and Sexuality in the Weird Western(革に夢中:奇妙な西部劇におけるセックスとセクシュアリティ、評論)
DDoS Attacks on Cloud Computing and IoT Devices: Strategies for Mitigation(クラウドコンピューティングと IoT デバイスに対する DDoS 攻撃: 軽減戦略、情報科学)
Sulfur dioxide exposure of mice induces peribronchiolar fibrosis—A defining feature of deployment-related constrictive bronchiolitis(マウスの二酸化硫黄曝露は細気管支周囲線維症を誘発する - 配備関連収縮性細気管支炎の特徴、細胞工学)
1/28の分。No.1の看護教育に関する論文は、どうも本物のゾンビを扱った(と仮定しても矛盾しない)論文であるように見える。タイトルを見ただけでもそれが伺えるだろう。ただし、"AI"は論文中ではなく、論文の掲載ページの但し書きに見つかる。とにかく、この論文をもって今回のアラートチェックを大当たりとする。
Zombie apocalypse simulation: elevating mental health nursing education(ゾンビ黙示録シミュレーション: メンタルヘルス看護教育の向上、看護学)
“The painting is colonial”: cancel culture and a heated media debate in Norway(「この絵は植民地主義的だ」:ノルウェーにおけるキャンセルカルチャーとメディアの白熱した議論、人文学)
Quality in Big Qualitative Research(大規模な定性調査における品質、メディア学)
The bad belle model: introducing a new model for understanding disability in Nigerian cinema and culture(バッドベルモデル:ナイジェリアの映画と文化における障害を理解するための新しいモデルの紹介、障害学)
From Neoliberalism to Illiberalism: Film Policy and the Cinematic Ecosystem in Recent Hungarian Cinema(新自由主義から非自由主義へ:近年のハンガリー映画における映画政策と映画のエコシステム、メディア学)
Conclusion and Future Prospects(結論と今後の展望、情報科学)
1/29の分。No.2がなぜ"AI"に引っ掛かったのかわからない…。
Will human designers be replaced? Exploring consumer responses to AI involvement in interior design(人間のデザイナーは置き換えられるのか?インテリアデザインにおけるAIの関与に対する消費者の反応を探る、情報工学)
p53-loss induced prostatic epithelial cell plasticity and invasion is driven by a crosstalk with the tumor microenvironment(p53の喪失により誘発される前立腺上皮細胞の可塑性と浸潤は、腫瘍微小環境とのクロストークによって促進される、細胞工学)
Generation 1.5 of female Russian and Ukrainian migrants in Israel in the times of the Russia-Ukraine War: Narratives regarding the impact of war(ロシア・ウクライナ戦争時代のイスラエルにおけるロシアとウクライナの女性移民の第 1.5 世代: 戦争の影響に関する物語、社会学)
1/30の分。細胞工学の論文が"AI"に引っ掛かっているのは、四件中三件がAIの扱いに関する宣言を入れているからで、残りの一件がAIによる画像認識を使っていたから。
Mind the Machine: A Philosophical Inquiry into AI Consciousness(機械を意識せよ: AI 意識に関する哲学的探究、哲学)
Télépathie, problème des autres esprits, et erreurs de catégorie(テレパシー、他者の心の問題、そしてカテゴリーエラー、哲学)
Challenges of autonomous systems(自律システムの課題、情報工学)
Essential Role of B Cells in Early Defense Against Acinetobacter baumannii Pulmonary Infections(アシネトバクター・バウマニ肺感染症に対する初期防御におけるB細胞の重要な役割、細胞工学)
Evolving Botnet Defenses: A Survey of Machine Learning Approaches for Identifying Polymorphic and Evasive Malware(進化するボットネット防御:ポリモーフィック型および回避型マルウェアを識別するための機械学習アプローチの調査、情報科学)
Discrimination of Anti-Donor Response in Allogeneic Transplantation Using an Alloreactive T-Cell Detection Assay(同種移植における抗ドナー反応の識別:アロ反応性T細胞検出アッセイを用いた同種移植における抗ドナー反応の識別、細胞工学)
The Effectiveness of Cybersecurity Training(サイバーセキュリティトレーニングの有効性、情報科学)
Identification of signaling networks associated with lactate modulation of macrophages and dendritic cells(マクロファージと樹状細胞の乳酸調節に関連するシグナル伝達ネットワークの同定、細胞工学)
Distinguishing Journalism from Political Influence Operations: Rethinking the FEC's Approach to the Press Exemption(ジャーナリズムと政治的影響力の行使を区別する:FECの報道免除へのアプローチの再考、メディア学?政治学?)
Stromal architecture and fibroblast subpopulations with opposing effects on outcomes in hepatocellular carcinoma(肝細胞癌の転帰に相反する影響を及ぼす間質構造と線維芽細胞サブポピュレーション、細胞工学)
最後に、1/31の分。
Somaesthetics and Sport(身体美学とスポーツ、スポーツ学?)
A survey of security threats in federated learning(連合学習におけるセキュリティ脅威の調査、情報科学)
A cis-regulatory element controls expression of histone deacetylase 9 to fine-tune inflammasome-dependent chronic inflammation in atherosclerosis(シス調節要素がヒストン脱アセチル化酵素9の発現を制御し、動脈硬化におけるインフラマソーム依存性慢性炎症を微調整する、細胞工学)
Synergistic Enhancement of Radio-immunotherapy Efficacy by IL-15 via Macrophage Activation and Memory T Cell Response(マクロファージ活性化とメモリーT細胞応答を介したIL-15による放射免疫療法の効能の相乗的増強、細胞工学)
Revolutionary burnout: Subjective crisis responses and the demobilization of mass protest in Lebanon(革命的燃え尽き:レバノンにおける主観的危機対応と大規模抗議活動の解散、政治学)
Redirecting glucose flux during in vitro expansion generates epigenetically and metabolically superior T cells for cancer immunotherapy(体外増殖中にグルコースフラックスをリダイレクトすると、癌免疫療法のためのエピジェネティックおよび代謝的に優れたT細胞が生成されます。、細胞工学)
A new perspective on social sustainability: examining Amazon workers' working conditions and protests applying computational methods in social sciences(社会の持続可能性に関する新たな視点:社会科学における計算手法を適用してアマゾン労働者の労働条件と抗議活動を調査する、経済学)
The Art of NFTs: Copyright, Contracts, and the Fallacy of Ownership(NFT の芸術: 著作権、契約、所有権の誤謬、情報科学)
最後に
検索条件1は、菌類学、観光学が一件だった。そして、検索条件3でねらいの論文が見つかった。
本物のゾンビを扱った論文と言えば、つい先日ゾンビ・パンデミックが経済に与える影響を論じた論文を見つけたばかりだった。
前回は経済学。そして今回は看護学。ゾンビのシナリオは、単なる数値的定量的シミュレーションにとどまらず、様々な分野で極端なケースの想定に有効なのだろう。その先駆けが国際政治学の『ゾンビ襲来』であるが、他の様々な分野にも適用可能だということが上記二件の論文で明らかになった。
さて、今回見つかった看護学の論文は検索条件3で見つかった。検索条件3は条件1と2に含まれる「-AI」が必要以上にゾンビ論文を排除していないかを調べるための条件であった。しかし、ElsevierはHPの下に必ず"All rights are reserved, including … AI training, …"という文言を入れているため、AIを扱わない論文であっても「-AI」で排除されてしまうことがわかっている。看護学の論文もそうだし、細胞工学の論文の多くも似たようなものだ。
であれば、「-AI」は排除キーワードとして不適であるということなのだろう。ただ検索条件の変更は三か月に一回と決めているため、2月も3月も不毛と知りながら検索条件3をまとめなければならない。辛いものだ。