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ゾンビ論文の総括(2024年06月)


概要

2024年06月にGoogleスカラーのアラートに次の検索条件を設定して、ゾンビ論文の収集を行った。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

単語の前にハイフンをつけると、その単語を含まない論文を探す検索条件となる。「zombie」でゾンビ論文を探し、「-〇〇」で不要なゾンビを検索結果から排除するというわけだ。各キーワードで排除したゾンビは次の通り。

6月中にメインの検索条件に引っかかったゾンビ論文は11本であり、私が探している「本物のゾンビを扱った(と仮定しても矛盾しない)論文」は見つからなかった。

また、6月は次の検索条件で論文を確認していく。ただし、検索条件1をメインの検索条件とする。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie narrative」(さらに取りこぼし確認用)

以下、6月の調査の詳細を記載する。



集計結果

まず、集計結果を示す。

2024年06月のゾンビ論文集計結果。最上行の日付はアラートメールが送られてきた日付。
ジャンルごとに集計結果が多い順にソート済

合計で12件のヒット。平均0.4件/日。前回の九件と比べて若干多いか。とはいえ、アラート機能が機能していなかった6/23~6/26を計算から抜いても0.5件である。

ジャンルごとのヒット数を見ても最大が医学の二件。ただ、詩と小説は同じジャンルのような気もする。まとめたところで二件にしかならないが。とはいえ紛らわしいため、次からは「創作」というジャンルにまとめようと思う。

上記ジャンルを除いてヒットしたジャンルを数えると、歯学、社会学、政治学、評論、芸術学、菌類学、書評、教育学が一件ずつ混じっている。評論と書評はもちろん、社会学と政治学も排除したいところだが、どうも「-narrative」だけではうまくいかないようだ。というか、そもそもGoogleアラートのアルゴリズムが"機転を利かせて"narrative"の単語を含む論文も検索条件1に含めるケースも多々あるのだが。まあ、月の総ヒット数が10件程度ならば目をつぶっておこう。月に一件ずつならば、学術的ゾンビの収集として役に立つこともあるだろうし。

次に、検索条件2のヒット数は次の通り。

2024年06月の検索条件2の集計結果。

取りこぼし確認用である検索条件2に引っ掛かったのは21件。検索条件1の11件と合わせても33件。

最も多かったのは情報科学の四件、そして評論の三件、メディア学と教育学の二件が続く。評論とメディア学は「-narrative」で排除するつもりだったのだが、中々うまくいかない。とはいえ、検索条件2に引っ掛かった論文は真面目にアブストラクト+流し読みしかしないことにしているため、二三件程度ならば目をつぶろう。

情報科学の四件は、もう仕方がない。コンピュータにはゾンビが多すぎる。

最後に、検索条件3。太字で示しているのは、「-narrative」で排除する想定だったジャンルだ。

2024年06月の検索条件3の集計結果。

合計で155件。合計件数を比較すると5月の188件よりも少なく見えるが、5月からの条件変更が間に合わなかった6/1~6/4と、なぜか機能していなかった6/23~6/26の四日間はゼロ件として計上しているため、それらを考慮すると188件を超していただろう。5月から検索条件3に排除キーワードを追加したにも関わらず、なぜ総ヒット件数は減っていないのか。理由に心当たりがある。まず、Googleアラートは関連性の低い結果も合わせれば基本的にアラート最大件数の10件の論文を紹介してくる。そして、私はその10件の論文を可能な限り計上していたのだ。これでは条件変更の効果が分からない。愚かなことをしたものだ。

一応、全体の傾向を調べておく。まず、排除想定の論文が108件で、想定していなかったも方が47件。5月は124:64だったため比率はあまり変わっておらず、「-narrative」を使うと想定しない排除が三分の一ほど生じるという結論に変わりはない。

さて、想定した排除の件数を見てみると、最も多いのが評論で44件。次に15件の教育学、10件の社会学が続く。この傾向は5月の集計結果と変わらない。続いての比較文化学の九件、メディア学の八件、政治学の六件もほどほどに多い。これは、「-narrative」という排除キーワードがねらい通りに機能していることを意味する。

一方、想定しなかった論文の中で最も多かったのは哲学と心理学の六件。前者は哲学的ゾンビ、後者は誰かをゾンビに喩えるネガティブな心理を分析したものだろう。ゲームデザイン学、情報科学、情報工学の四件は、なんだろうか。後者二つに"narrative"が関係あるようには思えないのだが、5月分にもそこそこのヒット数があった。気にはなるものの、細かく分析するつもりもない。



6月の検証結果

6月の検証課題は次の三点だった。ひとつずつ、確認する。

  • 検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

  • 検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

  • 検索条件2と3を比較して、「-narrative」がねらいのゾンビ論文まで排除してしまわないか確認する


検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

検索条件1は次の通り。4月までの条件に「-AI」を追加している。当然、情報科学のうちAI関連の論文を排除する目的である。

「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

検索条件2の結果を見れば、「-AI」で排除できたかどうかがわかる。条件2は次の通り、「-AI」が入っていない。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

「-AI」で排除できたのは次の三件。一件が情報科学の論文だった。また、検索条件1に情報科学の論文はヒットせず、「-AI」単体で排除できた論文はゼロだった。

  1. EmoSTL: コンピュータ ゲームにおける感情仕様の正式な時空間検証(6/5、ゲームデザイン学)

  2. タワーディフェンスゲームにおける高レベルの戦略的制御のための強化学習(6/16、情報科学)

  3. 失敗した自動化の再考: 新自由主義的懲罰的自動化から ケアの政治に向けた福祉(6/16、政治学)

『タワーでディフェンスゲームにおける…』は「-network」および「-AI」で排除されていた。もしかして、AIに絡んだ情報科学系のゾンビ論文を排除するとき、必ず"network"がついてくるのではないか。AIの仕組みはニューラルネットワークがどうのこうのということらしいし。また、『EmoSTL…』はゲームデザイン学というジャンルにしたが、中身は情報科学のようなものであるから、同じ論考を適用できそうだ。

一方、『失敗した自動化の…』は政治学だった。ニュースでよく見るように、AIはすでに技術マターではなく政治マターである。ゆえに社会学や政治学で引っ掛かりうるのだろう。

5月には、「あとふた月だけ追加で検証し、そこで「-AI」に効果がないとわかれば排除キーワードから外す」としていた。「-network」で事足りているのだから効果がないと言えそうだ。別にわざわざ外す必要もないのだが、どうしたものか。


検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

検索条件2を再掲する。4月までの条件に「-narrative」を追加している。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative

また、比較対象の検索条件3も示す。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

要は、検索条件2で"narrative"を含む論文を排除し、検索条件3で"narrative"を含む論文をヒットさせるという目論見だ。この二条件のヒット件数を足し合わせると、「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers」でヒットした件数になる。

しかし上述の通り、排除したかった評論、メディア学、教育学、政治学のゾンビ論文は検索条件2でヒットしている。そのため、完全排除はできなかったことになる。

ただ一方で、検索条件3はそれらの論文をそこそこに排除していた。下に比較する。ただし、カッコ内の数字はそれぞれ検索条件2、3でヒットした件数である。

  • 評論(3件、44件)

  • 教育学(2件、15件)

  • メディア学(2件、8件)

  • 政治学(1件、6件)

  • 芸術学(1件、2件)

さて、この結果から、「-narrative」は評論と教育学のゾンビ論文の排除に大きく役立っていることがわかる。「-narrative」がなければ大量の評論および教育学のゾンビ論文を読む羽目になっていた…と言いたいところだが、検索条件3は関連性の低い結果も含めて集計したのに、検索条件2は関連性の高い結果しか集計していないのだった。これでは同じ土俵の比較とは言えない。返す返すも愚かなことをしたものだ。

ということで、検証は7月に持ち越すこととする。今度はGoogleアラートが決めた関連性の高い結果のみを対象として、検索条件2と3を比較し、「-narrative」がどの程度評論系のゾンビ論文を排除できているのか確認する


検索条件2と3を比較して、「-narrative」がねらいのゾンビ論文まで排除してしまわないか確認する

まず、検索条件3は次の通り。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

さて、上で散々愚かなことをしたと嘆いたが、その愚行の目的はこの検証のためだった。「"narrative"」が万が一にも本物のゾンビ論文を排除してしまわないか確かめるため、関連性の低い結果まで確認したのだ。

この検証においては、検索条件2の「-narrative」が本物のゾンビ論文を排除することはなかった

narrativeという汎用性の高い単語が本物のゾンビ論文を排除することは大いにあり得る。しかしこれまで述べてきたように、Googleアラートの提示する関連性の低い結果まで確認するとほかの検証に影響を与えてしまう。そして何より面倒くさい。したがって、引き続きこの検証は行うが、記事に記載するのは関連性の高い結果に絞ることとする。



6月の新しい学術ゾンビ

6月も新しい学術ゾンビをいくつか得ることができた。私が過去の記事で触れた場合はリンクを貼っておいたので、意味を知りたければ飛んでいただきたい。

  1. "zombie rebirth", ゾンビの蘇生(6/7、社会学)、九件

  2. "zombie monitors", ゾンビ監視員(6/7、政治学)、37件

  3. "Zombie textiles", ゾンビ織物(6/16、社会学)、二件

  4. "zombie sports", ゾンビスポーツ(6/22、社会学)、10件

  5. "zombie rape", ゾンビレイプ(6/22、社会学)、38件

2024/06/30時点で、これらのゾンビワードがどの程度使われているか、つまり各論文の執筆者が適当に作った造語でないかを確認し、各項目の末尾にヒットした件数を記載した。

全て100件未満。多かったのはゾンビ監視員とゾンビレイプ。意外だったのは、ゾンビ監視員が一意的に使われていて、まあまあ多かった点。調べてみると2015年から「民主主義の実現に役に立っていない質の低い選挙監視員」という意味で使われているらしい。八年前から使われ始めたにしては、37件は多いと言える。

ゾンビレイプはあまり調べたくない…。フェミニズム理論が狂気の沙汰であることは6/22にヒットしたこの論文をちらと読んだだけで理解してしまった。これ以上狂気に触れたくない。触れたくないが、今触れておけば今後触れる際に負担を減らすことができるかもしれない。今一時的に正気を失うか、これから事あるごとに精神を削られるか、私は前者の方が良いと思う。だから調べる。調べて、学術的ゾンビ辞典に収録する。

件数の少ないゾンビの蘇生、ゾンビ織物、ゾンビスポーツのうち、ゾンビの蘇生は概念が面白いから、調べて理解出来たら収録しよう。

ということで、ゾンビ監視員とゾンビレイプを学術的ゾンビ辞典に収録する(下の記事)。可能であれば、ゾンビの蘇生も。



7月の検証

7月は次の3つの検索条件で調査を行う。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」(取りこぼし確認用)

この3条件で、以下を検証する。

  • 検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

  • 検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

  • 検索条件3の関連性の高い結果のみカウントし、検索条件2の「-narrative」が本物のゾンビ論文を排除していないか確認する

以上。


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