2024/6月第三週のゾンビ論文 ゾンビ論文探しはたまに毒が混ざる
本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。
アラートの検索条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」
「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。
「-firms」:ゾンビ企業
「-philosophical」「-Chalmers」:哲学的ゾンビ
「-drug」:ゾンビドラッグ
「-network」:情報科学系の論文ならなんでも
「-DDoS」:ゾンビPC
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬
「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論
「-AI」:人工知能を扱う情報科学系の論文
検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。ただし、「-narrative」で排除される論文の中にはねらいの論文が含まれている可能性もあるため、条件3も設定してある。
今回、6/17~6/23の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」二件
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」三件(条件1との重複を含めれば五件)
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」33件
検索条件1は学が一件だった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
うっかり「ゾンビ」と呼ばれる若者の行動の台頭: 合成カンナビノイド乱用にスポットライトを当てる
一件目。
アラート日付:6月19日
原題:The Rise of the inadvertently called Adolescent 'Zombie' Behavior: A Spotlight on Synthetic Cannabinoid Abuse
掲載:Braz J Psychiatry
著者:Pedro Mendonça-Ferreira と Henrique Bombana、 João Mauricio Castaldelli-Maiaの三名
ジャンル:医学
No abstract available。であるため、内容は一切不明。タイトルから推測するに、ゾンビドラッグ、具体的には合成カンビナノイドの乱用による社会問題を取り上げているのだろう。
なぜか「-drug」で排除されていない。まあ、こういうイレギュラーはしばしばありうる。
ジャンルは医学。
検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」
上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。
KUSH アフリカ沿岸の致死性新薬
アラート日付:6月22日
原題:KUSH A deadly new drug on African shores
掲載:Servamus Community-based Safety and Security Magazine
著者:Kotie Geldenhuys
ジャンル:衛生学
「-drug」および「-network」で排除。ドラッグが蔓延し、若者たちがゾンビのようになっていると指摘している。
検索条件3「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」
検索条件2の「-narrative」がねらいの論文まで排除していないか調べる。
以下、41件のゾンビ論文が見つかった。そのうち、「-narrative」で排除したかった評論・比較文化学・社会学など(太字で表示する)は計22件だった。つまり、残りの19件は意図せず排除してしまったゾンビ論文である。ただし、この中にねらいの論文はなかった。
まず、6/17の分。
The Rezort (2015): Zombies, Refugees and B Protocols(ザ・リゾート (2015): ゾンビ、難民、B プロトコル 評論)
Unwavering Decolonial Hauntings in Mati Diop’s Atlantics(マティ・ディオプの大西洋に残る、揺るぎない脱植民地時代の幽霊 評論)
Preparing for and Engaging Middle School Students in ReadAlouds of Expository Texts(中学生の解説文の読み聞かせの準備と参加 教育)
The ‘crazies’ are panicking(「狂人」たちはパニックに陥っている 社会学)
Islamophobia beyond Explicit Hate Speech: Analyzing the Coverage of Muslims in Slovenia’s Public Broadcasting(露骨なヘイトスピーチを超えたイスラム嫌悪: スロベニアの公共放送におけるイスラム教徒の報道を分析する メディア学)
Trust and Transactions: Exploring Microtransactions in Gaming(信頼とトランザクション: ゲームにおけるマイクロトランザクションの探求 ゲームデザイン学)
Language and Decolonisation: An Interdisciplinary Approach(言語と脱植民地化: 学際的なアプローチ 国際社会学)
Nonbelievers, Apostates, and Atheists in the Muslim World(イスラム世界における非信者、背教者、無神論者 宗教学)
次に、6/18の分。
Distributed (Correlation) Samplers: A Study on the Round Complexity of Cryptographic Sampling Protocols(分散 (相関) サンプラー: 暗号サンプリング プロトコルのラウンドの複雑さに関する研究 情報科学)
Evil Corporations(悪徳企業 メディア学)
Career Counsellors as Street-level Integrators(ストリートレベルのインテグレーターとしてのキャリアカウンセラー 経営学)
6/19の分。
Zombies From Cultural Cultural Origin to Contemporary Uses(ゾンビの文化的起源から現代の用途まで 評論)
A Pattern Matching Algorithm for Self-Adjusting Basal Rates in Insulin Pump Systems(インスリンポンプシステムの基礎速度を自動調整するパターンマッチングアルゴリズム 情報工学)
Analog Simulation and the Indian Wars: Encountering the Other Through Board Wargames(アナログ シミュレーションとインディアン戦争: ボード ウォーゲームを通じて他者と遭遇する ゲームデザイン学)
Representing Scotland: Conservative narratives of nation, union, and Scottish independence(スコットランドを代表する: 国家、連合、スコットランドの独立に関する保守的な物語 政治学)
Use of standardized decision support instruments to inform child welfare decision-making: lessons from an implementation study(児童福祉に関する意思決定を支援するための標準化された意思決定支援ツールの使用:実施研究からの教訓 心理学)
Un/Bound(非/バウンド エッセイ)
User Experiences in Fitness Technology: Uncovering Value Creation through a Systematic Literature Review(フィットネス テクノロジーにおけるユーザー エクスペリエンス: 体系的な文献レビューを通じて価値創造を明らかにする 情報工学)
Rupturing Rhetoric: The Politics of Race and Popular Culture since Ferguson(破壊的なレトリック: ファーガソン以来の人種と大衆文化の政治 政治学)
6/20の分。
Making Archives More Explorable: The Need for Additional Descriptive Metadata (アーカイブをより探索可能にする: 追加の記述メタデータの必要性 情報科学)
No More Haunted Dolls: Horror Fiction that Transcends the Tropes (No More Haunted Dolls: 比喩を超えたホラー フィクション 評論)
Police Cloud: Functional modularity in China’s cloud public security infrastructure (Police Cloud: 中国のクラウド公安インフラストラクチャの機能モジュール性 情報工学)
A content analysis of mothers' online communications of their partner's paternal postnatal depression(パートナーの父親の産後うつ病に関する母親のオンラインコミュニケーションの内容分析 健康科学)
6/21の分。
Systematic Review on the Impact of Mobile Applications with Augmented Reality to Improve Health(健康改善に対する拡張現実を備えたモバイル アプリケーションの影響に関する系統的レビュー 情報工学)
Indigestible performances: Women, punk, and the limits of British multiculturalism in Nida Mazoor’s We Are Lady Parts(消化不良のパフォーマンス:ニダ・マズールの『We Are Lady Parts』に見る女性、パンク、そして英国多文化主義の限界 評論)
Mirror Mirror on the Wall: The Bible and Ethics in Jordan Peele’s 2019 film Us(壁の鏡鏡: ジョーダン・ピール監督の 2019 年の映画「アス」における聖書と倫理 評論)
The “Colonial Anthropocene” Imaginary: Re-Imagining Climate Change in Waubgeshig Rice’s Moon of the Crusted Snow (2018)(「植民地人新世」の想像: ワウブゲシヒ・ライスの『Moon of the Crusted Snow』における気候変動の再想像 (2018) 評論)
The world novel: Salman Rushdie’s Quichotte(世界小説: サルマン・ラシュディの『キショット』 評論)
Japanese Metafiction: The Don Quixotesque Fantasies of Why Don’t You Play in Hell by Sion Sono(日本のメタフィクション: 園子温著『地獄でなぜ悪い』のドン・キホーテスク・ファンタジー 評論)
Teachers Speak Up!: Stories of Courage, Resilience, and Hope in Difficult Times (Teachers Speak Up!: 困難な時代における勇気、回復力、希望の物語 教育学)
Women's Wings in Rebel Groups(反政府勢力の女性団体 ジェンダー学)
From Battlefield to Home Front: Analyzing Themes in Finnish War Letters during The Winter War and The Continuation War(戦場から本国戦線まで: 冬戦争と継続戦争中のフィンランド戦争書簡のテーマを分析する 戦争学)
次に、6/22の分。#1が面白い。曰く、スポーツは男らしく、ゆえにか肉体をスポーツの一種の道具とみなすことがある。それは最終的に自分自身への暴力につながり、女性への暴力につながり得る。というロジックで始まる。ジェンダー系社会学者の徹底的なまでの男性軽視に驚くばかりだ。あと、"zombie sports"と"zombie rape"なる概念が紹介されている。
Sport SF and the Male Body: Estranged (Non-)Consent in Swanwick’s “The Dead”(スポーツ SF と男性の身体: スワンウィックの「ザ・デッド」における疎外された (非) 同意 社会学)
Economics Zombies in Transition: Navigating a Paradigm Shift from Tradition to Modernity(移行期の経済ゾンビ: 伝統から現代へのパラダイムシフトをナビゲートする 経済学)
Decolonial, countercolonial, yet to come Psychology?(脱植民地主義、反植民地主義、そしてこれからの心理学? 心理学)
The Virtues of Underwear: Modesty, Flamboyance and Filth(下着の美徳: 謙虚さ、派手さ、そして不潔さ 比較文化学)
Other Possible Worlds (Theory, Narration, Thought)(その他の可能世界 (理論、ナレーション、思想) 文学)
How to Build Parietal Lobes(頭頂葉を構築する方法 医学)
Pastoral Prose and Civic Engagement: Crafting the Call to the Public Square(牧歌的な散文と市民の関与: 公共広場への呼びかけを作成する 神学)
INTERMEDIALITY AND NETWORKED MEANING-MAKING IN CONTEMPORARY BALTIC ART PHOTOGRAPHY(現代バルト芸術写真における仲介性とネットワーク化された意味形成 ?)
'We'are all in this together': A mixed methods randomised controlled trial exploring Cross-Pollinative Team Learning studio pedagogy's effects on Academic Resilience and Performance(「私たちは皆、一緒にいます」: 学業の回復力とパフォーマンスに対する相互媒介チーム学習スタジオの教育学の効果を調査する混合法ランダム化比較試験 教育学?)
最後に
検索条件1は医学が一件だった。
最も面白かったのは6/22のスポーツSFがどうのという論文だ。しかもゾンビの関係ない部分…すなわち、「スポーツは男らしさゆえに自身へ暴力が向かう。だから女性差別的な側面がある」というロジックだ。ちなみに、上ではジャンルを社会学としたが、論文中ではスポーツ社会学というジャンルが指定されている。
ゾンビ論文を調べていると、頻繁にジェンダーあるいはフェミニズムな論文が現れる。『傲慢と偏見とゾンビ』を女性の解放を観点として読み解くというのが最も多いのだが、読んでて頭を抱えてしまうのがゾンビそのものと女性の関係を分析した論文だ。曰く、ゾンビ・アポカリプスは男性優位社会を復活させる恐れがあるだとか(じゃあゾンビに食われたいのかよ)、ゾンビは女性にとって恐怖の存在…つまり男性のメタファー!だとか(男性にとっても恐怖だろうよ)、そんなものがよく現れるのだ。勘弁してほしい。
スポーツSFの論文に関してもそんな感じだ。「スポーツは男らしさゆえに自身へ暴力が向かう。だから女性差別的な側面がある」という、常人からすれば狂人の妄想としか思えないロジックが展開される。しかもそんなものにも参考文献が存在し、たったひとりの狂人が好き勝手言っているわけではなく、頭のよろしい学者たちが新しい発想を追加しつつ連綿と紡がれてきた「思想」なのだ。
Twitterや発言小町でいかれた発言を読むのはまだ我慢できる。しかし、「これが学問でござい」とでも言いたげな格調高い文章でフェミニズム流の大胆な男性軽視が書かれていると精神異常か身体不調を引き起こしそうになる。全くもって正気ではない。
と、ゾンビに関係のない話をしてしまった。こんなことをしないためにも、フェミニズムあるいはジェンダー系の論文を排除するように検索条件を精査しなければならない。
今回はねらいの論文がなかった。