2023/07/29(土)のゾンビ論文 ゾンビツイントロン!ヌーノミクスとゾンビボックス!
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」
「zombie」(取りこぼし確認)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」/「-bot」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
また、「zombie」の内容も確認するのは、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる目的である。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」五件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」六件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」六件
「zombie」九件(差分三件)
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は法学、メディア学、生物学、経済学、政治学が一件ずつだった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」
ディストピアはユートピア – 法、新世界、そして断絶の中のゾンビ
一件目。
原題:Dystopia is Utopia – The Law, the New World and Zombies in Severance
掲載:the 23rd International Roundtable for the Semiotics of Law – IRSL 2023, Jurisprudence of the Future III workshop
著者:Lung Lung Hu
ジャンル:法学
"Severance"(断絶)という小説を法の観点から分析した評論。評論ではあるものの、人文学的観点からのものではなく法学という専門的な観点からなされているものであるため、ジャンルは法学とした。
『断絶』には、"fevered"という"mindless zombie-like creatures"(心のないゾンビのような生き物)が出てくるらしい。したがって、本物のゾンビを扱った論文ではない。
この論文の主題をアブストラクトから引用する。
注目すべき一文を太字で表記した。私はこのフレーズを聞いて思い出したことがある。以下の記事でまとめた、ゾンビ・アポカリプスが起きた世界で生じうる女性の尊厳の危機について、である。
引用記事内で紹介した論文のキーワードは「家父長制」である。一方、今回の論文の主題は「どのように旧世界の法律を破るか」であり、その敵対者であるボブをわざわざ「白人男性」や「法の体現者」と但し書きしている。英語で「白人男性」とわざわざ書くとき、それはおおむね支配者という意味で使われ、「法の体現者」と合わせると男性が既得権益を振り回して女性を不当に支配する構図が見えてくる。つまり、家父長制である。
(註:フェミニズムにおいて、「家父長制」は「父親が家族を支配している(=家父が長をする制度)」という意味ではなく、「男性が結託して世界中で女性を支配する制度」という意味で使われている)
旧世界の体制は女性を縛る鎖であり、ゾンビ・アポカリプスが起きた世界でその鎖が復活したり鎖を振るう者が現れたりするのは女性にとって危機的状況である。そのような観念が通底している様子を感じ取れないだろうか。
ゆえに、この論文は名目上では法学という観点を打ち出しているが、実質ジェンダー学の論文ではないかと想像する。
ちなみに、『断絶』は日本語版が白水社から出版されている。しかしkindle版はないようだ。残念。
長い長い時間: TV シリーズ「The Last of Us」(2023) の舞台美術に関連したアイデンティティとステータスの考察
二件目。
原題:Long, Long Time: An Examination of Identity and Status Connected to Scenography in the Tv-Series The Last of Us (2023)
掲載:Malmö University Publications
著者:Anton Jonsson
ジャンル:メディア学
"The Last of Us"という菌で感染するゾンビが出てくるゲーム・テレビシリーズについて議論する論文。とはいえ、ゾンビについて議論するわけではなく、舞台美術(出てくる家や調度品など)をベースに「アイデンティティやステータスの考察」を行うらしい。
調度品の装飾から登場人物の文化背景を推測するのだろうか。アニメキャラがつけている時計や靴から実家の金銭感覚を推測するオタクを思わせる。評論やフィクションの分析はすべてこじらせオタクの熱意・狂気なのだろうか。だとしたら、もっとまじめに相対すべきかもしれない。
植物マイトゲノムにおけるグループ II イントロンの動態とハプロプテリス エンシフォルミスのマイトゲノムにおけるリケッチア DNA 侵入
三件目。
原題:Dynamics of group II introns in plant mitogenomes and rickettsial DNA invasions in the mitogenome of Haplopteris ensiformis
掲載:The Faculty of Mathematics and Natural Sciences (Rheinischen Friedrich-Wilhelms-Universität Bonnに提出された博士論文でもある)
著者:Simon Maria Zumkeller
ジャンル:生物学
zombieの単語は必ず"zombie twintron"という文字列で現れる。twintronにはWikipediaがあったので説明を引用する。
まず、生物の遺伝子情報であるDNAからRNAが生成される。DNAが設計図の大元であり、RNAは設計図を部分的に抜粋したものと理解すればよいだろうか。RNAからはタンパク質が合成されるが、タンパク質を作る過程にはいくつか段階があり、まずはRNAの持つ情報を写し取る過程が入る。この過程を転写と呼ぶ。
設計図であるRNAを転写して得られたものを一次転写産物と呼ぶ。しかし、この状態では余分な情報を含んでおり、タンパク質の設計図としてはまだ不適である。余分な情報を切り取って適切な設計図へと変化するが、この切り取る過程がスプライシングであり、切り取られる情報がイントロンである。ちなみに、設計図として残る情報はエクソンと呼ばれる。イントロンはDNAの中でエクソン同士をつなげているボンドとでも理解すればよいだろうか。
ここでようやくツイントロンの話になる。ツイントロンとは「連続的なスプライシング反応によって切り出されるイントロン内イントロン」であり、つまりイントロン同士をつなぐイントロンも存在するのである。
そしてゾンビツイントロンだが、ゾンビツイントロンは次の論文で定義されている。今回の論文と著者が同じであることに留意したい。つまり、普遍的な現象ではないということに。
おそらく「外部イントロン」がエクソンをつなぐイントロンで、「内部イントロン」がイントロンをつなぐイントロン(イントロン内イントロン)だろう。となれば当然、内部イントロンがスプライシングされた後に外部イントロンがスプライシングされるのだが、外部イントロンのスプライシングが内部イントロンに依存することがある。しかし依存しない場合をゾンビツイントロンと呼ぶ、と。
何に「依存」しているのかわからないし、依存したとしてスプライシングの何が影響を受けるのかわからない。そしてなぜ依存しない場合に「ゾンビ」なのかもわからない。突如現れた「化石化」という単語がキーワードであると想像するが、遺伝子情報が本当に化石化するわけがないため、専門的な意味があるのだろう。詰み、だ。
なお、スプライシングやイントロンなどタンパク質合成に関しては以下のnote記事が詳しかった。
ゾンビツイントロンを理解するにはツイントロンを理解しなければならず、ツイントロンを理解するためにはスプライシング反応とイントロンを理解しなければならず、スプライシング反応のためには転写とエクソンまでの理解が必要だった。そうやって調べたにも関わらず、ゾンビツイントロンの理解には至らなかった。
しかも、イントロンやスプライシングすら間違っている可能性がある。この記事を読んで、ツイントロンについてご存じの方がいれば、コメントかシェアでぜひご教示願いたい。
ジャンルは生物学。植物が対象ではあるが、内容的に生物学だろう。
新しい発展モデルの可能性としてヌーノミクスについて話す時期が来たのはなぜでしょうか?
四件目。
原題:Почему пришло время поговорить о ноономике как о возможной новой модели развития?
掲載:Экономическая наука современной России
著者:Василий Владимирович Чекмарев
ジャンル:経済学
比較的なじみのある英語表記も載せておく。
原題:WHY IT'S TIME TO TALK ABOUT NOONOMICS AS A POSSIBLE NEW
DEVELOPMENT MODEL?
掲載:Economics of Contemporary Russia
著者:Vasily V. Chekmarev
ヌーノミクスはロシアの経済学者Сергей Дмитриевич Бодрунов(セルゲイ・ドミトリエヴィチ・ボドルノフ)が提唱した経済理論。セルゲイは"Noonomy"という著作で2018年にAWARD OF WORLD POLITICAL ECONOMY OF THE 21ST CENTURY(世界政治経済学会)を受賞している。
Research Gateに登録されているセルゲイの論文からヌーノミーについて学ぶことができそうだが、自分には難しい。こちらも、詳しい方がいればぜひご教示いただきたい。
ただ、ヌーノミーはGoogleスカラーで検索しても191件しか出てこないため、傍流も傍流の理論ではないかと推測する。だからこそ、「新しい発展モデル」として注目する可能性があるのかもしれないが。
zombieの単語は次の文に現れる。アブストラクトのみ英語表記されているようだ。
ゾンビボックスは、ロシアという文脈の下に限れば、政府が管理するテレビを指すらしい。ただ、政府管理のテレビがどう経済に関係するのかわからないため、そう解釈すべきかわからない。
ジャンルは経済学。
ユーラシア地域主義の特殊性
五件目。
原題: ОСОБЕННОСТИ ЕВРАЗИЙСКОГО РЕГИОНАЛИЗМА
掲載:САНКТ-ПЕТЕРБУРГСКИЙ ГОСУДАРСТВЕННЫЙ УНИВЕРСИТЕТに提出された博士論文?
著者:Картурани Матеус Гильерме
ジャンル:政治学
指導教員が政治学を専門としているため、ジャンルは政治学。
ユーラシア地域の統合プロセスに焦点を当てた論文。統合する以前の組織をいくつかのタイプに分類し、その中に「ゾンビ」というカテゴリーがある。全カテゴリーは次の通り。また、「ゾンビ」のみ定義を書いておく。
「経済的成果を生み出さずに一定レベルの活動を示す」という点はゾンビ企業とよく似ている。
検索条件の差分(差分なし)
「DDoS/bot」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。
今回は「DDoS/bot」に差異が見られた。
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」五件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」六件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」六件
差分は次の一件。
対話における展開データからの暗黙的なフィードバックを活用する
原題:Leveraging Implicit Feedback from Deployment Data in Dialogue
掲載:arXiveのみ
著者:Richard Yuanzhe Pangを筆頭著者として、五名
ジャンル:情報科学
自然言語処理に関する論文らしい。ゾンビPCでサーバを攻撃する系の論文ではないので、「-DDoS」で排除できなかったのも妥当と言える。また、本物のゾンビを扱った論文ではない。
以前も自然言語処理で(私にとっては)脈絡なくzombieの単語が出てきたが、そういうものなのだろうか。Hello World的な扱いなのだろうか。
検索キーワード「zombie」
このキーワードでは「zombie」ゾンビ論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
終わりの時代のアイルランドへ: 現代アイルランド小説で未来を考える
原題:To Ireland in the end times: figuring the future in contemporary Irish fiction
掲載:Irish Studies Review
著者:Simon Workman
ジャンル:文学
タイトルより本物のゾンビではなく、小説内のゾンビを扱っているものと思われる。また、zombieの単語は、たとえば次のフレーズで出てくる。
このフレーズより「-gender」で排除されていると推測する。
英語、オランダ語、ポーランド語の性格型名詞を組み合わせたカーネル構造と、スワヒリ語の型名詞ベースの構造に対する重要なテスト
原題:Kernel structure of the combined English, Dutch, and Polish personality type-nouns, with a critical test against a type-noun based structure in Swahili
掲載:Journal of Research in Personality
著者:Boele De Raadを筆頭著者として、六名
ジャンル:言語学
"From Ace to Zombie"という言語学の論文があり、それを参考文献にしているため引っかかった。AtoZという意味だろう。
「-gender」で排除された。タイトルにもある「重要なテスト」を性別ごとに集計したため、genderの単語が出てきた。性別という意味でgenderの語が使われたのを久しぶりに見た。
拡張された意識に対する議論
原題:Arguments for Extended Conscious Mind
掲載:Extending the Extended Mindの第二章
著者:Pii Telakivi
ジャンル:哲学
意識について議論をする論文であるから、哲学的ゾンビが出てくると思われる。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は法学、メディア学、生物学、経済学、政治学が一件ずつだった。
過去一番でヘヴィなアラートチェックだった。メディア学以外の四件すべてにある程度の調査が必要だった。特に重かったのはゾンビツイントロン。生物の知識は高校の生物Ⅰレベルしかなく、RNAなら何となく知っているから詳しく調べても大丈夫だろうと考えたのが間違いだった。
ヌーノミーも重かった。元の論文がキリル文字であると、それだけで検索の難易度が上がる。しかもヌーノミーという理論がなかなかヒットしなかったことも何度に拍車を上げた。ごくごくマイナーな理論ではないかと早々に疑念を持ったのだが、世間に知られていないことを示すのは非常に難しい。
新しい概念を得るのは喜ばしいことだが、そもそもの目的は本物のゾンビが出てくる論文の確認なのだ。知的興味に引きずられて目的を見失っては元も子もない。
そういう寄り道も悪くはないが。
今日はねらいのゾンビ論文なし。