2024/12月第三週のゾンビ論文 SZRモデルの基本を押さえる

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2や条件3で確かめる。

今回、12/16-12/22の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」四件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative -Minecraft」六件(条件1との重複を含めれば10件)

検索条件1は、比較文化学、情報工学、原子物理学、菌類学が一件ずつだった。そして、ねらいの論文が見つかった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

私たちがゾンビを怖がる理由とは?映画、テレビシリーズ、ビデオゲームでゾンビを再考する

一件目。

アラート日付:12月16日
原題:What made us afraid of zombie? Reimagining zombies in film, TV series, and video games
掲載:Knouwledge Base of the University of Gdansk
著者:Marta Bubnowska
ジャンル:比較文化学

タイトルの通り、ゾンビがなぜ怖いのかを考察する論文。アブストラクトから詳細に書かれた部分を抜粋する。

I aim to explain their symbolic representation of global, often universal fears. My goal is to prove that the figure of a zombie fits into the concept of “the Other”, and these are the monsters that are victims oppressed by humans, not otherwise. On the literary ground, the zombie apocalypse exposes plenty of societal fears and traumas, not only related to death or epidemiological threats but also fears related to the economy, such as corporate realms and subjectivity of workers pertaining to capitalistic structures, economic crisis, fear against the disruption of economic, political and social structures. Following that, I aim to answer the questions of what a zombie is in modern texts, why we are afraid of it, and what it is that we are so scared of outside the screen.
(私は、世界的、そしてしばしば普遍的な恐怖の象徴的表現を説明しようとしています。私の目標は、ゾンビの姿が「他者」の概念に当てはまることを証明することです。そして、これらは人間によって抑圧された犠牲者であるモンスターであり、そうでないということではありません。文学的な観点から言えば、ゾンビの黙示録は、死や疫学的脅威に関連するだけでなく、企業領域や資本主義構造に関連する労働者の主体性、経済危機、経済、政治、社会構造の崩壊に対する恐怖など、経済に関連する恐怖も含め、多くの社会的恐怖とトラウマを露呈しています。それに続いて、現代のテキストにおけるゾンビとは何か、なぜ私たちはゾンビを恐れるのか、そしてスクリーンの外で私たちがそれほど恐れているものは何かという疑問に答えようとしています。)

同論文より

私はゾンビ映画のゾンビを怖いと思ったことがない。ゾンビのどの辺に怖いと思わせる要素があるのか、まったくわからない。いや、走るゾンビには怖いと感じることもあるが、それはライオンや殺人鬼に追われる様子を見て抱く恐怖に等しい。つまり、自分が生きたまま切り裂かれたり刃物を突き立てられたりして殺される暴力に覚える恐怖である。

そして上記引用部分からうかがえるように、この論文の著者も走るゾンビの暴力的恐怖を取り上げるわけではないようだ。ゾンビを我々人間の写し鏡として捉えたとき、そこに抑圧された人間の姿を見て恐怖を覚えるのだという。

なお、ゾンビ作品から『ナイトオブザリビングデッド』、『ラストオブアス』、『バイオハザード』などを扱うらしい。これらから上述したようなゾンビの恐怖を分析できるとは思えないが…。

ジャンルは比較文化学としておこう。



疾病発生の数学的モデル化

二件目。

アラート日付:12月20日
原題:Mathematical Modelling of Disease Outbreak
掲載:Science Undergraduate Research Experience Journal
著者:Favour Christian と Matthew Molloy
ジャンル:情報工学

タイトルの通り、感染症を数学的モデルで記述する論文。感染症の数学的モデルとはつまり、SIRモデルのことだ。そしてこの検索に引っ掛かったのだから、SZRモデルも扱っているということになる。SZRモデルを扱った論文は、本物のゾンビを仮定してモデルを作ったものであるから、当然ながらこれは私が求める論文である。したがって、この論文をもって今回のアラートチェックを大当たりとする

だが、論文をざっと読んだ感じ、大したことが書かれていない。私がひとことで要約するなら、Muntzらの2009年の論文を丹念に調べてみました、程度だろうか。この手の論文にはふつう、従来のモデルの問題点を指摘し、新たな計算手法を提案する、といったことが書かれているのだが…。というか、科学論文には従来の研究からの発展を記述しなければならないはずだが。

よって、私の求める論文ではあるものの、あまり読む気にはなれない。この論文を読んで私が何を得ることができるのか、期待が持てないからだ。しかも、Muntzらの2009年の論文を丹念に調べてみました、程度の記事なら私も書いている。

いや、読み返してみるとレベルが低い。今回の論文を読むと、こういうのを思い出しながら、羞恥に苛まれながら読み進めなければならないのだろう。それも嫌だ。

一応、今回の論文を擁護しておくが、この論文は『Science Undergraduate Research Experience Journal』(科学学部研究体験ジャーナル)という雑誌に掲載されている。論文の内容からも想像がつく通り、学部生(あるいは高校生)がお試しで研究を体験し、成果を論文として出版するプログラムがあるのだろう。そんなものに通常レベルの科学論文を期待するのは酷である。…と言うと、私が博士課程を終えて書いた記事のレベルも低いということにはなるが。

けど、いいなあ。こういうのを私も体験したかった。

ジャンルは情報工学としておこう。


ゾンビ、超能力、終末論的物語: 放射線に関する若者の関心を高める新しいアプローチ

三件目。

アラート日付:12月20日
原題:Zombies, Superpowers and Apocalyptic Narratives: Novel Approaches to Advance Youth Engagement on Radiation
掲載:WN Symposia (WM = Waste Management)
著者:Larissa Shasko
ジャンル:原子物理学

タイトルの通り、ゾンビや超能力、世界の終末を描いたSF作品を使った若者への放射線教育に関する論文。

13-17歳の若者に最新の放射線教育が行き届いていないことに注目し、その原因がそもそも若者が放射線周りに興味を持っていないことにあると主張する。そして、興味を持ってもらうためにはSF作品が有効であると可能性を提示し、だからといってSF作品の描写を鵜呑みにしないように現実との境界を明確にしなければならないとも主張する。

面白いアプローチだ。ゾンビが教育に使われるとき、教育対象には感染症やプログラミングが多かった。次点でゾンビアポカリプスを題材にしたリーダーシップ教育か。ゾンビで放射線教育を行うというのは、初の試みではないだろうか。

しかも、放射線でゾンビ化するという作品はかなり少ない印象がある。映画で出てくるゾンビは、ほとんどがウイルスが原因だ。ただ、もしかしたらコミックでは多いのかもしれない。『ハルク』や『ファンタスティック・フォー』など、アメコミには放射線でスーパーパワーを身に着けるものは多いし。その辺の媒体による違いも気になる。

ジャンルは原子物理学。

 

ジョホール州フータン・シンパン・ラビスにおける特定のゾンビアリ菌類の DNA バーコーディング

四件目。

アラート日付:12月14日
原題:DNA Barcoding of Selected Zombie-Ant Fungi in Hutan Simpan Labis, Johor
掲載:Enhanced Knowledge in Sciences and Technology
著者:Kenneth Yohansen Ak Kendawang と Jeremiah Sia Yiao Rong、 Yap Jing Weiの三名
ジャンル:菌類学

アリに寄生し、操るゆえにゾンビアリ菌と呼ばれる真菌属Ophiocordycepsに関する論文。タイトルの『Hutan Simpan Labis, Johor』はマレーシア、ジョホール州にある自然公園のこと。この公園に棲息するゾンビアリ菌の調査らしい。

調査の手法はDNAバーコーディング。端的に言えば、この自然公園のオフィオコルディセプス属のDNAをサンプリングし、他のオフィオコルディセプス属のものと比較しているのである。ただ、新種を発見したとかではなく、DNAを比較する技術の有用性を論じているようだ。

ジャンルは菌類学。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系を使った論文は排除されるように設定してある。

ユートピアの飛び地からゾンビ化した島へ:アレハンドロ・ブルゲスの『フアン・オブ・ザ・デッド』における災害資本主義とキューバのアイデンティティの再主張

アラート日付:12月16日
原題:From Utopian Enclave to Zombified Island: Disaster Capitalism and the Reassertion of Cuban Identity in Alejandro Brugués’ Juan of the Dead
掲載:Kritika Kultura
著者:Jungwon Park
ジャンル:比較文化学

「-network」で排除。キューバのゾンビ映画『Juan of the Dead』の批評。


ゾンビ訴訟:請求の集約、訴訟当事者の自主性、資金提供者の介入

アラート日付:12月18日
原題:Zombie Litigation: Claim Aggregation, Litigant Autonomy and Funders' Intermeddling
掲載:Cornell Law Review
著者:Maya Steinitz
ジャンル:法学

排除キーワード不明。"zombie litigation"(ゾンビ訴訟)なる概念を提唱する。和解が可能になっても継続を強いられる訴訟を指すらしい。

To understand zombie litigation, I offer a hypothetical. The hypothetical is based, very generally and with some alterations, on a recent, high-profile case in which a Fortune 100 corporation was compelled by a funder to continue litigating after it had arrived at settlements that were acceptable to it and its defendants.
(ゾンビ訴訟を理解するために、私は仮説を提示します。この仮説は、ごく一般的に、そして多少の変更を加えた、フォーチュン 100 企業が、その企業と被告が受け入れ可能な和解に達した後も、資金提供者によって訴訟の継続を強いられた最近の注目された訴訟に基づいています。)

同論文より


ソフトウェア開発におけるアジャイル手法の誤解: 手順の硬直性を分析し、目的主導の取り組みを活性化する

アラート日付:12月18日
原題:The misinterpretation of agile methodologies in software development: analyzing procedural rigidity and revitalizing purpose-driven engagement
掲載:Knowledge Base of the University of Gdansk
著者:Piotr Porzuczek
ジャンル:情報科学

「AI」で排除。"zombie scrum"(ゾンビスクラム)という、「チームが真の目的持たずにアジャイルの儀式に機械的に従う状態」というソフトウェア開発における問題点に言及する。


ゾンビの黙示録における解放:韓国のゾンビドラマにおける女性の主体性のフェミニスト的解釈

アラート日付:12月20日
原題:Emancipation During a Zombie Apocalypse: A Feminist Reading of Female Subjectivity in Korean Zombie Dramas
掲載:UCLA Electronic Theses and Dissertations
著者:Jennifer Ann Fagan
ジャンル:評論(フェミニズム的批評)

「-gender」および「-network」で排除。タイトルの通り、韓国のゾンビドラマにおける女性の主体性をフェミニスト的に解釈するらしい。ま、妄想ですわ。


神経解剖学におけるゲーミフィケーションが学生の成績と指導の認識に与える影響:回顧的分析

アラート日付:12月20日
原題:Effects of Gamification on Student Success and Perception of Instruction in Neuroanatomy: A Retrospective Analysis
掲載:The Journal of Undergraduate Neuroscience Education
著者:Benjamin R. Fry
ジャンル:神経科学

「-drug」および「-network」、「-AI」で排除。ゲームを教育に使うゲーミフィケーションの調査。"Build-a-Zombie"と名付けたゾンビゲームを作らせている。


2009年公正労働法(連邦法)に基づく団体交渉の回避:労働組合なしでの団体交渉協定の締結と最近の改革の影響

アラート日付:12月20日
原題:Avoiding collective bargaining under the Fair Work Act 2009 (Cth): making collective agreements without unions and the impact of recent reforms
掲載:Labour and Industry
著者:Shae McCrystal
ジャンル:法学?

「-network」で排除。団体交渉に際し、"Zombie agreements"(ゾンビ合意)なる概念を提唱する。



最後に

検索条件1は、比較文化学、情報工学、原子物理学、菌類学が一件ずつだった。

SZRモデルの論文よりも、放射線教育の論文の方に興味が引かれた。というのは、放射線ゾンビが出てくる作品を観たいからなのだが。また、ゾンビ訴訟やゾンビ合意といった新概念にも出会えたことも吉と言えよう。

今回はねらいの論文が見つかった。


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