2023/10/17(火)のゾンビ論文 なぜ薬物使用者がゾンビと呼ばれるのか
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -xylazine -biolegend」(取りこぼし確認)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」/「-botnet」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
また、検索条件3では、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。
今回、それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」三件
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」三件
「zombie -firm -xylazine -biolegend」四件(差分一件)
検索条件1-3はメディア学、健康科学、衛生学が一件ずつだった。
検索条件1「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」
気候変動の緊急事態と行動に対処するための芸術とデザインの戦略: ガーナ、アクラの電子廃棄物の事例
一件目。
原題:Arts and design strategies to address climate emergency and action: the case of electronic waste in Accra, Ghana
掲載:The 10th International Conference on the Histories of Media Art, Science and Technology
著者:Cyrus Khalatbari と Akwasi Afrane Bediako
ジャンル:メディア学
まずアブストラクトの第一文を引用する。
キーワードは「技術的不平等」「電子廃棄物」「気候変動」「社会政治的手段としての公共メディア・アート」あたりか。夏休みの宿題でやるポスター作成の超高級版みたいなものと理解できるが、小学生が「ながら運転ややめよう」とか「みんなでまもろうゴミのない町」とか描いても意味がないように、「社会政治的手段としての公共メディア・アート」も意味があるのか大変疑わしく感じてしまう。理念は理解できるので、定量的に効果を評価した報告とかないのだろうか。ないと思うけど。
zombieの単語は"zombie-media methodology"という文字列で出てくる。
ここで引用されているHertz と Parikka の研究をベースに「文脈化」なることをするらしいので、その研究がゾンビメディアの本論だろう。以下にその論文を貼っておく。
Zombie Media: Circuit Bending Media Archaeology into an Art Method(ゾンビメディア: メディア考古学をアート手法に変える回路 )というタイトルの研究。ゾンビメディアは次のように定義されている。
字面から概ね想像がつく定義である。過去に使われなくなって久しいのに再び使われなくなったモノを「ゾンビ概念」と呼ぶが、これに属すると見てよいだろう。
これが論文の中でどのように機能し、アートや広告の貢献を文脈化するかまでは読む気がしない。なぜなら間違いなく本物のゾンビを扱った論文ではないからである。
ジャンルはメディア学で間違いないだろう。芸術学や単純に人文学でも良いかもしれないが。
デジタルゲームプレイは子供の社会的/感情的なウェルビーイングに影響を与えるか?
ニ件目。
原題:Does Digital Game Play Affect Social/Emotional Child Wellbeing?
掲載:Joint International Conference on Serious Games
著者:Jan L. Plassを筆頭著者として、六名
ジャンル:健康科学
論文の内容はタイトルの通りだろう。実践的な報告はタイトルから内容がすぐわかるので、非常にありがたい。また、この論文内でゾンビを倒すゲームが出てくるために検索条件に引っかかったと思われる。
ジャンルは健康医学。
30年にわたるニュース記事にわたる薬物使用に対する非人間化の言語分析
三件目。
原題:A Linguistic Analysis of Dehumanization toward Substance Use across Three Decades of News Articles
掲載:Frontiers in Public Health
著者:Salvatore Giorgiを筆頭著者として、四名
ジャンル:衛生学
タイトルから分かるように、薬物使用者を非人間化する言論の調査・分析である。たとえば、このマガジンでも何度か扱ったキシラジン(xylazine)がゾンビドラッグと呼ばれることと関係があるはずだ。
わざわざニュース記事を調査対象にしている辺り、一般人がSNSで吠えているだけではなく開かれた言論が薬物使用者を人間扱いしないことが察せられ、問題の深刻さを感じさせる。
また、この論文は非常に興味がある。というのは、まず、私はゾンビと比喩されるものを三種類に分類していた。
①死んだのに生きているもの
②被支配者
③身体的特徴がゾンビに似ているもの
しかし、ケース3に該当するものがゾンビドラッグしかなく、しかも先日HIV感染者をゾンビと呼ぶケースを見つけて「穢れを感じさせる人間」というケース4を追加する必要性を感じていた。しかし、この論文で調査されている例がゾンビドラッグことキシラジンに関連するのであれば、その調査結果によりケース3が書き換えられる可能性がある。
ここで、ケース3がどう書き換えられるかが重要である。この論文では「非人間性」が重要視されているため、ケース4として検討していた「穢れ」が「非人間性」に包括されるかもしれない。
また、分類の核にあるものが非人間性であれば、ゾンビのメタファーを理解する理路にも影響を与える可能性がある。なぜなら、ゾンビは「他人から命令されて非道な行いをする人間」のメタファーとして文学作品で登場することがあり、その焦点が「命令されて」=被支配者と「非道な行いをする」=非人間性のどちらにあるかで分類先が変わるからである。
ということで、この論文は本物のゾンビを扱ったものではないが、内容を確認しておきたい。調査手法も気になるし。
ジャンルは論文中の主要なテーマと掲載誌より、衛生学。
検索条件1-2の差分(差分なし)
「DDoS/botnet」で検索結果に差異が生じるか調べる。
今回は差分がなかった。もうずっと差分を見ていない。GoogleスカラーがAI機能か何かで勝手に消しているのだろうか。
検索条件4「zombie -firm -xylazine -biolegend」
上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬は排除されるように設定してある。
新しいイスラエルのホラー: ローカル映画、グローバル ジャンル
原題:New Israeli Horror: Local Cinema, Global Genre
掲載:このタイトルの本がある
著者:Olga Gershenson
ジャンル:評論
「-gender」で排除。ゾンビはホラー映画のモンスターの一例として取り上げられている。当然、本物のゾンビを扱う論文ではない。
出版元はRutgers University Pressなのだが、この本を扱っているページがない。今の情勢を見てチキることがあったのだろうか。
まとめ
検索条件1-3はメディア学、健康科学、衛生学が一件ずつだった。
衛生学の一件には非常に興味がわいた。いや興味どころではなく、必ず読まなければならないとまで感じている。薬物使用者がゾンビと呼ばれる理由は、ゾンビに似ているからなのか、「穢れ」を感じる人間が多いからなのか。
また、ゾンビに限らず「非人間」という表現をしていることから、ゾンビ以外に喩えられる事案もあるはずだ。その差分を考慮すれば、ゾンビの分類をもっと正確に行えるに違いない。
今回はねらいの論文がなかったが、収穫は大いにあった。