【風圧で葉っぱを吹っ飛ばす】お寺を掃除しているのは誰の巻 #たそがれ木林春夫
【誰がお寺をお掃除しているのか?】
ほとんどの人は、学校なり職場なりへ行くときに、同じ道を通るでしょう。
最近はテレワークが広まって、自宅で仕事をする人も増えました。
でも少し前までは、授業や仕事がある日は家を出て、毎回似た景色を見ながら通ったはず。
木林春夫さんも同じです。
月曜から金曜まで、リュックを背負って通勤していました。
早起きの苦手な木林春夫さんは、自宅から駅へ向かうときは早歩き。
遅刻しそうだったら、もちろん走ります。
周りの景色を楽しむ余裕なんて、まったくといっていいほどありません。
でも、帰りは違います。
夕方から夜にかけての時間帯。
西日は建物にさえぎられて、むしろ涼しいくらい。
木林春夫さんは、歩きながら道路脇の家々に目を向けます。
この家には、どんな人が住んでいるんだろう?
4人家族かな。
5人かな。
ご夫婦2人だけの暮らしかな。
そんなどうでもいいことを考えるのも、楽しみの一つ。
誰にせかされることもなく、自分のペースで帰っていきます。
数えきれないほど通った、その帰り道に小さなお寺がありました。
誰もいないお寺。
いつのぞいても、誰もいません。
でも、いつもキレイに掃除されています。
誰が掃除してるんだろう?
住職さんかな。
世話好きな近所の人かな。
ひょっとしたら、上の電線にとまっているカラスかな。
ふとした疑問。
答えは出ません。
いくら考えても、わかりませんでした。
でも、ある日の早朝のことです。
木林春夫さんは、仕事の都合で早朝の電車に乗るため、朝6時に自宅を出ました。
空気が透き通っているような朝。
テクテクテクテク。
お寺の前を通りかかりました。
そして、見かけたのです、お堂を掃除している人を。
住職さんでも、近所の人でも、カラスでもありませんでした。
プロの清掃業者の人でした。
強い風の出る業務用機械で、落ち葉やホコリを吹き飛ばしていました。
作業着の胸のところには、「〇〇株式会社」と書かれた名札。
木林春夫さんが口を開けて見ていると、業者の人にあいさつされました。
普段なら大きな声で、あいさつを返す木林春夫さん。
ですが、このときはペコリと会釈しただけで、急いで立ち去りました。
どうしたのでしょうか。
いつもの木林春夫さんらしくありませんね。
帰り道、再びお寺の前を通りました。
小さな境内に入り、賽銭箱にお金を入れ、手を合わせました。
前を何百回も通ったお寺なのに、お祈りしたのははじめてでした。
何か新しい友達ができたような気がしました。
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