【森の哲学者】中華鍋を使いこなすの巻 #たそがれ木林春夫
【中華鍋を使いこなすの巻】
ある日曜日のことです。
木林春夫さんはお昼ご飯を作っていました。
一見、森の木こりのようなゴツゴツした見た目にもかかわらず、木林春夫さんは料理が得意でした。
いや、得意というのは、言い過ぎかもしれません。
というのも、本腰を入れて料理し始めたのは、ごく最近だったからです。
しかし自分の作ったものが、ときにはコンビニ弁当やレストランで出される料理より美味しいとさえ、感じていました。
というわけで、木林春夫さんは時間を見つけては、ささやかな手料理を作っていたのです。
そのうちご多分にもれず、料理道具をそろえたくなりました。
ネットには、包丁やらまな板やらの定番道具から、フードプロセッサーなどの本格的なものまで無数の製品が並んでいます。
けれども、木林春夫さんの目は、ただ1種類の道具しか見ていませんでした。
それは、中華鍋です。
テレビにたまに映っている、中華鍋を振るコックさんの姿。
黒くテカる中華鍋から立ち上る炎。
ダイナミックな映像は、木林春夫さんの心をわしづかみにし、放しませんでした。
気づいたときには、アマゾンで1番安い商品を注文していました。
1番安いのにした理由は単純です。
最初から高い中華鍋を買うのは、さすがに不安だったからです。
届いた日、ネットで調べた情報をもとに、さっそく中華鍋を"焼き"ました。
"焼き"とは、サビ止めを落とし、鍋に食材がくっつかないようにするための処理て。
木林春夫さんの知識に抜かりはありませんでした。
その後、油を丁寧になじませ、2日おいたのち、炒飯を作りました。
あまりおいしくありませんでしたが、木林春夫は満足でした。
家庭用ガスコンロで、レストランのような炒飯を作るのは無理だと、はじめからわかっていたからです。
それからの約1ヶ月、ほぼ毎日、中華鍋を使い続けました。
使うごとに油がなじんで、肉でも野菜でも卵でも、ほぼくっつかなくなりました。
そうなってからは、もう出ずっぱり。
中華料理だけでなく、和食にもイタリアンにも使える。
中華鍋は、なんて便利だと感動していた、そんな矢先。
パスタを作っていた木林春夫さんは、中華鍋の持ち手に違和感を覚えました。
以前なら、腕の動きと鍋の動きがピタッと合っていたのに、今は鍋だけがグラグラゆれます。
なんか変だと思い、木林春夫さんは中華鍋をしげしげと見つめました。
そして、発見したのです❗️
持ち手のところの釘が1本、抜けていました。
抜けた釘が、どこにも見当たらないところを見ると、今日抜けたのではないかもしれません。
木林春夫さんは落ち込みました。
手塩をかけて"育てて"きた中華鍋が、壊れてしまったからです。
そのとき、木林春夫はパスタにかけるトマトソースを作っていました。
壊れた中華鍋からトマトソースを移し変えようにも、代わりのフライパンはありません。
木林春夫さんの前に、大きな壁が立ちはだかります。
しかし、あきらめませんでした。
よくよく見てみると、中華鍋と持ち手を留める釘は2本あり、幸運なことに、もう1本は残っていました。
そのため、優しく扱えば、まだ使えたのです!
木林春夫さんは、まるで生まれたての子犬を扱うように料理を続け、見事「おいしい」トマトソースのパスタを完成させました。
アルデンテのパスタを食べながら、木林春夫さんは大満足でした。
それは、壊れた中華鍋で作ったにもかかわらず、おいしかったからではありません。
もちろん、自分の作ったトマトソースのパスタには満足していますが、もっと大きな理由がありました。
ことわざに「弘法、筆を選ばず」とあるように、本当の達人はどんな粗末な道具でも上手に料理を作ることができる。
まさに今の自分がそれだったからです。
しかも、本格的に料理を始めたのはごく最近。
つまり自分が、才能あふれる料理の達人のような気がしたからでした。
ただ、そうは言っても、根は謙虚な木林春夫さん。
最初に買った中華鍋は、少し安すぎたと反省し、2回目はネットで調べて、評判の良いものを選びました。
重要視したポイントは、
・価格
・大きさ
・耐久性
大きさに関しては、今まで使っていた、直径27センチタイプのもので十分。
これより大きいのは30センチがありますが、実際に鍋を振ってみた感覚からして、かなり重い。
家族4人の料理をいっぺんに作るのであれば、これぐらい必要ですが、男1人であれば、27センチがちょうどいい。
耐久性に関しては、口コミが頼りですが、ネットを調べたところ、山田工業所のものが、ひとつひとつ打ち出しで作られているとのことで、信頼できそう。
なんでも、安いのは鉄板をプレスして、短時間で成型しているのに対し、山田工業所のものは、ろくろで作った花瓶のように、少しずつ半球状にしているのだそうです。
となると、気になるのが、お値段。
安いのは2000円代台。
山田工業所のものは、5000円台
倍以上の期間使えるならば、コスパは同等。
そこで、木林春夫さんは考えました。
中華鍋は油をなじませてなんぼ。
使えば使うほど、なじんでくっつきにくくなる。
いつかテレビで見た達人などは、同じ中華鍋を10年使っているそう。
しかも、お店で毎日使っているのですから、その酷使ぶりは想像を絶します。
となると、半年で壊れる安い中華鍋は論外となりますね。
というわけで…
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