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蒸留酒ごとのモチベーション比較

蒸留酒というのは、簡単にいえば、なにかしらの原料を気化させて、それを冷やし、液体に戻したもの。

蒸留酒にもいろんな原料があるわけで、そのそれぞれに個性がある。

そしてその個性は、それらを呑むときのモチベーションを左右する。

「こういうときにジンが呑みたくなるよね」
「ウイスキーを呑むときはこんな日だなあ」

みたいな、ごく個人的で、あまり参考にならない感覚を、ここに言葉で残してみようとおもう。

(※呑み方はすべてストレートで呑むときの感覚なので、カクテルで呑むときとはまったく別ものです。)

ジン

ジンは、もっともラフな蒸留酒だとおもう。
なんというか、身構える必要がないお酒。

たとえそれが平日のお昼であっても、歯磨きをしたあとの寝る前であっても、一口くいっと流し込めてしまう気軽さがある。

ボタニカルのさわやかな香り、口の中を風が吹き抜けるような、なんとも心地よいお酒。

リリーフランキー氏が、
「ジンは、口の中を綺麗にするお酒。
 男性とのバーでは、帰る前にジンで口と股を洗うのが女性の嗜み。」

的なことを言っていたが、これは冗談抜きで、正鵠を射た表現だなとおもう。

ジンをつくっている様子を想像すると、白衣を着てビーカー片手に実験している研究者、あるいは、さまざまな種類の香料を混ぜ合わせる調香師をイメージしてしまう。

そういう意味では、「口の中をアルコール消毒する」みたいなニュアンスも、なぜだかしっくりきてしまうのだ。

ジュニパーベリーという原料さえ含んでいれば、あとはなにをしてもジン。
こういう自由度の高いところも、ジンのおもしろさの一つかもしれない。

【筆者オススメのジン】
・MONKEY 47(これぞ香りの暴力)
・ニッカ カフェジン(まるで生のライムを絞ったかのよう)
・ブラックトマトジン(これはかなりの変化球)


ウイスキー

ウイスキーは、ジンとは対照的で、とにかく考えさせられるお酒である。
カッコつけて言えば、「哲学的なお酒」といえよう。

ウイスキーを呑むならば、月のきれいな静かな夜に、あるいは雨の降る湿った夜に、薄暗く上品な空間で、レコードの針をそっと落とす。
マイルスデイヴィスのSo Whatが流れる室内で、葉巻を手に取る。
それもライターという味気ないガス火ではなく、マッチの火をわざわざシダー片に移してから、シガー先に炎を灯すのだ。

このように、ウイスキーは呑むシチュエーションからつくりたくなるような、ある種、えらくかしこまってしまうようなところがある。

ただしそれは面倒臭さのようなネガティブな感情ではなく、たった一杯のウイスキーをいかに美味しく呑むか、この一点を拘りたいがために、自らの探究心にしたがって動機付けされていることである。

8年、10年、16年、、年数を重ねるたびに香りが円熟し、ウイスキーは深みを増していく。
年数を重ねたウイスキーはそれだけ複雑で、しかし身体にフィットするような、まるで長年連れ添った女性と身体を重ねているようである。

しかし、ウイスキーに長い人ほど、年数の若いウイスキーを呑むようになるのも、ウイスキーの興味深い点だ。

16年もの時間をかけて熟成されたウイスキーの「ルーツ」が、8年もののウイスキーから垣間見える。

若いウイスキーはまだ熟成し切ってはいないものの、その分弾けるような瑞々しさや、ギザギザ、ピリピリするような綱渡り感、まさに若いからこそ許されるようなエネルギーを感じられる。

身体にとことんフィットする熟した女性もいいが、多少無骨であっても、ハリがあって刺激の強い若い女性もいい。

そんな風に、ウイスキー通の舌は、どんどんロリコン化が進行していくのだろう。

やはり人は、刺激を求める生き物なのだ。

最近だと、バーにウイスキーが並んでいるのを眺めるだけで、いろんな女性が決めポーズをしてこちらを艶かしく見ている、、みたいなシチュエーションを妄想するようになってしまった。
これが、世に言う「ウイスキー症候群」である。(※そんなものはない)

ラベルの割にたいしたインパクトのないウイスキー、地味なラベルなのにパンチが効いたウイスキー、、

人もウイスキーも、見た目ではすべてはわからないものだ。

実際に香りを嗅いで、呑んでみると、ラベルの意図が見え隠れしてくるし、そのうえでもこのラベルは違うよね、みたいな銘柄もたまにある。

だから、まずは一目惚れでもいいから見た目で選んで、呑んでみてそのギャップはどうか。
これを確かめてみるのもウイスキーの嗜み方のひとつである。

さて、話を本筋に戻そう。

ウイスキーにはいろんな種類があって、たとえばスコッチ(スコットランドでつくられるウイスキーの総称)ひとつとっても、マッカランのような完成された味わいから、ラフロイグのように正露丸を思わせる薬品臭(ピート香)がするものまで、実に様々な種類がある。

ツウな人ほどアイラウイスキー(上述したラフロイグなど、アイラ島でつくられるウイスキー)を好むといわれるのは、それが舌に与えるインパクトの強さ、香りの残る時間の長さ、ひいては個性の強さ、、
こういうものに起因してくるのだとおもう。

おもしろいお酒、というのはじゃじゃ馬のように、最初は乗りこなすのが難しく、しかし、それを乗りこなせれば恐るべき速さで走る、みたいなものなのかもしれない。

さて、ここまで書いてみて、まだまだウイスキーについては書きたいことがあるが、さすがに尺を使いすぎたので、それはまた別の機会にじっくり書こうとおもう。

【筆者オススメのウイスキー】
・タリスカー 10年(永遠に飽きのこないスコッチ)
・ラガブーリン 16年(慣れてきたら8年で)
・山崎 18年(12年とは全くの別物)
・テーレンペリ KULO(フィンランドのウイスキー)



バーボン

バーボンは、ウイスキーの親戚のようなもので、人によってはウイスキーというくくりの中にいれる場合もある。

細かい違いをいえば、
・ウイスキーは主に大麦が原料とされるのに対し、バーボンは51%以上がトウモロコシ
・スコッチが「Whisky」と表記するに対し、バーボンは「Whiskey」と表記される
・ウイスキーが「単発式蒸留」なのに対し、バーボンは「連続式蒸留」
・ウイスキーが一般的に8年〜12年熟成させるのに対し、バーボンは4年〜6年と短め
・ウイスキーは度数が43度前後なのに対し、バーボンは50度近いものが多い
・バーボンは、アメリカが産地(とくにケンタッキー州)

などなど、こうして比較すると、バーボンのイメージが見えてくるかもしれない。

これらを男性に例えてみると、
ウイスキー:黒いハット帽を被り、スーツを身にまとった上品な男
バーボン:アメリカ内陸の血気盛んな作業場の男たち

みたいなイメージ。(めっちゃ偏見だろうけど)

ウイスキーに比べて度数が高いということもあり、香りよりもパンチの強さを楽しむ蒸留酒だとおもう。

早く酔いたいとき、テンションをあげたいときに、バーボンは向いているかもしれない。

(でもやっぱり、バーボンを呑むとウイスキーの深みが欲しくなるんだよなあ。。)

【筆者オススメのバーボン】
・ブラントン シングルバレル(8種類ある馬のキャップが目印)



ラム

蒸留酒を好きになったきっかけが、ラムである。

ラムには、熟成期間や樽の種類によって、「ホワイトラム」「ゴールドラム」「ダークラム」とカテゴライズされる。

私が好んで呑むのは、もっとも熟成期間が長く、甘みの強いダークラムである。
そして、初めて飲んだラムもダークラムであった。

映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」で、ジャック・スパロウが孤島に埋めたラム酒を探し当てるシーンが目に浮かぶ。

ラムを呑んでいると、蒸留酒がワインや日本酒のような繊細な醸造酒と比べて「外的環境に強いお酒」であることを思い出させてくれる。

一定の温度で神経質に管理しなくても常温で保存することができ、開けた後もキャップさえ閉めていれば、しばらくの間、大きく味が変わらない。

こういうタフさは、蒸留酒を構成する大事な要素であるとおもう。

さて、ラムの話に戻ろう。

サトウキビを原料にしているだけあって、甘みが強く、なかにはシロップのような味わいの銘柄も少なくない。

ラムレーズンに代表されるように、菓子との相性もよく、そのままバニラアイスクリームに垂らすだけで大人なスイーツに変身するくらいだ。

とあるバーでラムを教えてもらったとき、「蒸留酒は常温で、ストレートで呑むものだ」という教訓は、いまも続けている。

もちろんロックで呑んだり、割ってみるのもいいのだが、蒸留酒本来の「香り」がもっとも引き立つのが、常温だという。

たしかに、オンザロックのウイスキーは呑みやすいが、香りは閉じてしまいがちだ。

カクテルにしてしまうと、風味がわからなくなってしまう。

その銘柄本来の味を楽しみたいのであれば、やはり、「蒸留酒は常温で」呑むのがよいのだろう。

ただ、カクテルだとラムが楽しめないのか、というとそんなことはない。

あれは少し前にキューバの首都、ハバナを訪れたとき。
立ち寄ったバーでは、4〜5人の音楽隊が陽気な音楽を奏で、歌い、それをみる客たちも踊り出していた。

そこで頼んだモヒート(ラムベースのカクテル)は、なぜだかいつもと味が違う。
いままで呑んでいたモヒートよりもコクがあって、カラメルのようなほろ苦さがある。

その秘密は、ラムにあった。

通常、日本で呑むモヒートは、ホワイトラムでつくられる。
しかし、ハバナのバーで呑んだモヒートは、ダークラムでつくられていたのだ。

しかも、ハバナクラブ7年。

さすが、ラムの一大産地キューバである。

それ以来、日本のバーでモヒートを頼むときは、ダークラムで頼むようになった。
(たぶんどこのバーでもやってくれると思うので是非)

呑むとカリブの土地を思い出させてくれるお酒、ラム。
お酒というのは、その土地の記憶と密接に結びついているなあ。

そんなことを思いながら、ちびちびとラムを呑む。

【筆者オススメのラム】
・ハバナクラブ 7年
・ロンサカパ 23年



ウォッカ

(先に言っておくと、ウォッカを普段呑まないので、これに対するモチベーションが湧くことがほとんどない)

ロシアなど、寒い国で呑まれるイメージがあるが、その理由のひとつに、「食前酒として胃を活動させる」みたいな用途があると聞いたことがある。

たしかに、ウォッカは無味無臭なので、そのあとに食べるものを邪魔しない。
近々に冷やして流し込めば、もはやアルコールを呑んでいる感覚もほとんど感じないのかもしれない。

たしかにそう。
そうなんだけど、、お酒を「味わう」という点からすると、ウォッカはあまり向いてない気がする。

ソルティードッグやモスコミュール、スクリュードライバーなど、柑橘系のジュースを混ぜ合わせた呑み方が多いところをみると、ウォッカはカクテル向きなのかもしれない。

めちゃくちゃ美味しいウォッカ、なるものがあるのであれば是非ともご教示いただきたい。


テキーラ

ごめんなさい、苦手なのでスキップします。笑


ブランデー

ブランデーというのは、果実を蒸留してつくるお酒の総称。
コニャックやアルマニャックなどは葡萄が原料で、ノルマンディー地方が産地のカルヴァドスは林檎が原料。
ほかにも、洋梨やさくらんぼを使ったブランデーもある。

高級品としての位置付けであることが多く、バカラ製のボトルで有名な「レミーマルタン ルイ13世」は、100万円を超えることもあるブランデー。

高いなあ。
美味しいんだろうけど、やっぱり高いなあ。

バカラのボトルで付加価値をつけるあたり、呑むものというより、寄贈することを前提にブランディングされたお酒であるのだとおもう。

もしルイ13世をもらうようなことがあったら、もったいぶらず、その場面で開けて、できればその人と一緒に呑みたい。

そして、「お酒は飾るものではく、呑むものですよね〜」なんて話で夜を明かしたい。
(タモリさんがいうところの、「コレクター」と「ドリンカー」の違い)

ブランデーは好きなのだが、コニャックやカルヴァドスではなく、個人的にもっと魅力的なブランデーがあるので、次のセクションでそれを紹介したいとおもう。

グラッパ / マール

まず、これらの名前を聞いたことはあるだろうか。
グラッパは知ってるけど、マールは聞いたことない、という人は多い。

実は、これらは同一のお酒を指している。

ワインで絞った後の「葡萄の絞りかす」を原料に、これを蒸留してつくるお酒を、イタリアではグラッパ、フランスではマールと呼ぶ。

絞りかすを使ってつくるくらいなので、もともとは庶民が呑むお酒だった。
しかし、中にはとんでもないくらいに美味しい銘柄が存在する。

グラッパ、マール、どちらも同じ原料、製法ではあるのだが、味の繊細さや香りの素晴らしさでいうと、個人的にはマールに軍配が上がる気がする。
(実際、グラッパよりマールの方が価格が高め)

本当に美味しいマールは、冗談抜きで、天にも昇るようなアロマがする。
この感覚は、ほかの蒸留酒にはない感覚である。

詳しい銘柄は後述するが、「それ」を呑んだとき、ルーベンスの天使の絵をその場で眺めているかのように、まるでそこに居るかのように、臨場感をもって感じた。
これは、神話を想起するレベルの液体なのだと。

やわらかく、荘厳で、絢爛で、美しい。
その香りから、壮大な交響曲が聞こえてくるような体験。

それはまさに、「呑む香水」である。

ここまで、天を身近に感じる経験はめったにできないだろう。

うん、、
だいぶ華美に書いてしまったが、あの体験を言葉で表現しようとすると、どうしてもこうなってしまう。

ウイスキーが「深さ」、ラムが「ほろ苦さ」なら、
マールは「美しさ」を感じる蒸留酒であるとおもう。

はぁ、この感じ、呑んで体感してほしいなあ。。

もし、バーで見かけることがあれば、グラッパやマール、呑んでいただきたい。

【上述のマール】
・メオ カミュゼ マール・ド・ブルゴーニュ(画像参照)


焼酎・泡盛

家に日本酒セラーがあるほどの日本酒ラバーではあるのだが、なぜかあまり焼酎には手を出していない。

海外発の蒸留酒と、日本発の蒸留酒。
まったく味の方向性が異なるのは、これはこれで興味深い。

焼酎のなかでは、芋焼酎が好きである。

キリッと、爽やかな風味からは芋の面影はあまりみられないが、後味にほんのすこし、芋の「ぽってり」とした質感が感じられるときがある。

原料とそれでつくられたお酒の間にここまで違いが出るというのは、お酒というのはやはり不思議な液体だ。

「焼酎がわからないようであれば、酒呑みもまだまだ」
みたいなことを祖父から言われた記憶がある。

まだまだ未熟な酒呑みではあるが、お酒を愛する心は人一倍あるとの自負はある。
歳を重ねて、お酒を呑む回数も重ねて、どんどんお酒の世界を広げていきたい。

この探究心は、まさに宇宙を旅するようである。


あとがき

さて、最初はそのお酒を呑む「シチュエーション」という着眼点で書いてみようとおもったが、着地点としてはまったく別の「蒸留酒思い出アルバム」みたいになってしまった。

まあ、これもこれで一興。

この記事を読んで蒸留酒に興味が出てきた方がいらっしゃったら、ぜひともいろいろ試してみていただきたい。

コロナで外出しにくいこの期間は、お酒の世界を広げるチャンスかもしれない。

お酒は、呑むもの。
お酒は、二十歳になってから。

最終更新日:2020/06/12

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