ウイスキーを女性に喩えるシリーズ #9(ムーングロウ)
『僕は海を見るように、君を見ていた。』
君と、夜の浜辺を歩いていた。
真っ白なワンピースを着た君は、月に呼応して光を放っているようだった。
裸足の跡が、時間軸にそって海の砂に溶けていく。
なぜか僕の足跡よりも、君の足跡のほうが早く消えてしまう。
「今夜は半月だね」
「うん。すこし欠けたきれいな半月ね」
水面にやわらかな月が揺らめいている。
空の月と海の月を合わせても、中央にすこしだけ空洞ができるだろう。
僕たちふたりが合わさったなら、完全な満月になるだろうか。
その空洞を埋めるのが、愛というものなのだろうか。
押し寄せる波は、引いてゆく波にぶつかって勢いが中和されている。
「今、私たちが見ている星は、実はもう存在しないかもしれないんだよ」
「どういうこと?」
「光にも速さがあるからね。地球に光が届くまで何億年とかかる星もある。月でさえ、実は1.3秒前の姿を見ているんだって」
「そうか。そしたら、いま僕が見ている君も、ほんのすこし過去の君なんだ」
「そういうこと!」
君は少女のように笑ってみせた。
君というひとは、突然哲学的な話をはじめたり、かとおもえば、それと反比例するように純粋な笑顔をみせたりするから、複雑なのか、単純なのか、僕にはまるでわからなかった。
女性はみな、男には到底理解の及ばない、「女の子」という複雑を持ち合わせている。
「ってことは、いまこの瞬間の君をこの目で見ることはできないってことなのかな」
僕がそういうと、君は少し考えて、いたずらっ子のような目でこちらに寄ってきた。
「そしたら、手を繋げばいいんじゃないかな」
「えっ」
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半月も、実際はまるい。
ムーングロウ リミテッドエディション 2020。