ウイスキーを女性に喩えるシリーズ #12(コンパスボックス スパイスツリー)
『隠されざる匂い』
私は、女子校でテニス部の顧問をしている男性教師である。
いわゆる「硬派」な性格で、すこし不器用なところがあるのは自覚しているが、教師をするにあたってそれはむしろポジティブなものだとおもっている。
誠実に、厳しく。
指導において、私情は禁物である。
当然、テニス部の顧問をするにあたっても、厳しく指導していた。
そんな教師人生がもう10年近くなって、ある年。
「ハーフの子」が入学してきた。
国まではわからないが、どうやらラテン系の血が入っているとのこと。
背が高く、スタイルもよい。
長い手足、整った顔立ち。
その笑顔は白くまばゆい光を放って、周囲の空間が一段明るく感じられるようである。
世間的に言えば、「美人」のくくりに入るのは間違いないだろう。
そして、その子は自分が顧問をするテニス部に入部した。
されど、厳しく指導をすることは変わらない。
どの生徒に対しても等しく、美形の子だからといって色眼鏡を使うことなんて言語道断。
それが私の、教師としてのモットーである。
夏。
セミの鳴き声、ラケットでボールを打つ音、テニス部員たちの掛け声、、
今年の7月も暑い。
ジリジリと陽に照らされて、若い肌は汗を弾いて光っている。
例の「ハーフの子」が、サーブを打っているのが目に入った。
違和感のあるフォームだった。
さきほど教えたことができていない。
反射的に指導に入る。
「おい、違うだろ!
サーブを打つときはここを固定して、手首の力を抜いて、、」
と、隣りに立って指導しているとき、その子の胸元からハーフ特有の汗の匂いが。。
日本人にはないスパイシーな香りに、一瞬我を失ってしまった。
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最もセクシーな香水は、女性の汗である。
コンパスボックス スパイスツリー。
【特筆】
今回の話は、タモリさんがラジオで話していた内容に大幅に尾鰭を付けて、文章化したものです。タモリさんが実際に呑んだウイスキーの銘柄は公開されていませんが、このウイスキーを呑んだ時にこの話がフラッシュバックしたので、こちらで紹介させていただきました。