ウイスキーを女性に喩えるシリーズ #3(シーバスリーガル 12年)
『初恋は、バニラの匂いがした。』
おたがいに初めてだから、ふるえていた。
触れたところから彼女の体温が身体中に伝播して、こちら側にもじんじんと伝わってくる。
白い肌は、わずかに青く見えるほどの純白だ。
怖がりながら、怯えながらも、
僕を許容しようとしている。
僕の手をとって、導こうとしてくれた。
光が溢れて、目の前は真っ白になってしまう。
白。金色。赤。グレー。
きづいたときには、すべてが終わっていた。
彼女は起き上がって、奥のテーブルに置いてあったコップを手に取る。
きれいな野生動物が、湖の水でも飲んでいるようだ。
部屋は、海のような匂いと、
彼女の甘い匂いで満ちている。
「あのさ」
「うん」
「いや、なんでもない」
自分で涙が出ていることに気づかなかった。
水銀のように、さらりと流れ落ちる涙。
彼女が僕の涙を掬ってくれた。
今度の手は、ふるえていない。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
再びベッドに戻って、
それから、ふたりは泥のように眠った。
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初恋は、どこか甘い香りがするのはなぜだろう。
シーバスリーガル 12年。