【下書き】TVアニメ「ワールドダイスター」感想文

オタクは感想文を書くものらしいので書きます。

全体の所見
全話観た方なら分かると思いますが、クォリティがそもそも高いですよね。爆発的な火力のなさと裏番組が鬼滅だったという点は少々気になりますが、ちゃんと詰めていけば詰めた分だけ良いと思える作品だと思います。実際の演者の演技を(おそらく3DCGにモーションキャプチャで落とし込み)トレスした演技シーンのfpsは鳥肌モノで、何の気なく1話を観ていたらあっと驚かされました。どうやら声優の演技指導でも「登場人物を演じるキャラを演じるのではなく、直接登場人物を演じる」ことが求められていたようで(わらじか何かで話されていたような気がします)、とにかく「演劇」というモチーフに真摯だったのが印象的です。八恵のセンスが強すぎて〜というくだりも良い。舞台はみんなで作り上げるもの、という前提があるからこそ、後述の「自己表現」がさらに活きますからね。センス発動で目が光るのもかっこいいですよね、これは趣味ですが…
音楽は割と平凡だったなと思いますね。劇的な良さはないものの、まあノイズになってないし良いか…という感じでしたが、ユメステが配信され、挿入歌に関しては、繰り返し聴いていると結構いいなと今では思っています。オペラ座の曲群はかなり良いです。でも「魔法のラストノート」の歌詞のダサさだけは看過できないですね。なんだ「魔法の頃」って。

「自己表現」の物語
ワールドダイスターは自己表現の物語である、というのを繰り返し言っています。これは勿論、役者が役者として自分の強みを出して良い役を、良い舞台を作っていく、というところを言うんですけど、それ以上に、「他者が関わらない」、という意味合いが強いです。
近年、共感、弱者、労り、みたいな、社会に揉まれて傷ついた人たちの心に突き刺さりつつ、癒すような作品、というのが流行っています。「ぼっち・ざ・ろっく!」とかまさにそんな感じなんじゃないでしょうか。私はそういう作風が本当に血反吐が出るくらい苦手なんですよね。(ぼざろは普通に好きです 苦手と嫌いは違うので)というのも、私の中には恒常的に「誰かより優れていたい」という欲求があって、その誰かというのは不定形なんですが、人気作品の想定する「刺す相手」に自分が含まれていることは即ち、幅広い層の価値観と自分の価値観が似通っている、階層を同じくする、ということになり、それが多大なストレスになるんですよね。ここは皆んなそうなのか自分だけなのか未だに分かりかねています。
社会に揉まれる、ということは即ち、他者という存在との関わり合いに他なりません。自分をどこまで通すのか?他者をどこまで許すのか?何故それをするのか?そういったせめぎ合いが前述の「傷ついた人のための作品」の魅力なのでしょうが。
当たり前ですけど、誰かの人生を語ろうとする時、その人以外の人物に触れずに1から10までを終えることは本来不可能なんです。でも、ワールドダイスターは、鳳ここなはそれをやってのけてしまった。もちろん搦手ではあります。静香という存在はワールドダイスターの世界観独特のものです。そもそも彼女らを同一人物とするのも解釈が分かれるところでしょうし…
ですが、しかし、そのここなと静香が主人公の物語である、それが重要です。ぱんだと流石ではなく、八恵でもなく、ここなと静香の物語です。演劇との初めての出会い、今までの挑戦と失敗、ワールドダイスターになると語った友人、そのどれも、アニメの中で具体的に語られることはついぞありませんでした。自分の中だけでの、でも確かに硬く結ばれた意志を、擬人化して「約束」と呼び、2人で踏み出していく様が「ワールドダイスター」であった、その構造美に深く感動しています。おそらく、「エヴァンゲリオン」以降、他者との関わり合いの中で折り目をつけて生きていくことを肯定しがちになったサブカルチャーの流行の中で、こうまで自分の、1人の人間の中の可能性と真剣に向き合い続けた作品が存在するというのが、(しかも深夜のオタク向けアニメで)とても趣深いと思います。自己表現というのはそういうことで、自己を肯定して演者の道をひた走ることなんて前提でしかなくて、そこからどう戦うか描くことであり、演劇というモチーフがそれと巧く合致しているのが素晴らしいです。

ぱんだと流石
アニメで好きなエピソード、というと8話で、個人的に、「才能と努力」という話題に関して敏感なのもあり、やはりぱんだと流石は外せないなと思います。
ぱんだは目ざとく計算高い腹黒系。割とベタなキャラ付けではありますが、SNSでの数字を気にする、アンチとやり合う、みたいなところが単なる承認欲求ではなく、(才能のないぱんだが)演者として成り上がるために最も手取り早いのがそれ、という点が、「腹黒」から、自分のそばには常に「天才」の流石がいて、現実を直視して劣等感を募らせつつも、夢を見ることを絶対にやめず懸命に走る「強さ」を浮き彫りにしています。ユメステだと「努力家な一面も」なんて括り方をされていますが、


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