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梅蘭の焼きそばを完コピする。
これが突然、家の食卓に現れたらと想像してみてください。
インパクト抜群。パーティならバカウケ必至。
嫌がる施さんを説得して再現してもらったあの梅蘭の焼きそば。
昭和生まれのわたしには、焼きそばに強い思い入れがある。
まず、屋台の焼きそばだ。近所の神社の縁日に行くと、まず鉄板で焦げたソースの暴力的な香りが漂ってくる。焼きそばの屋台にはやる気のなさそうな若い兄ちゃんがいて、鉄板の上にはすでに焼いてあるやきそばをこんもりと盛り上げている。それを見ていつも「焼き過ぎじゃないのか」と心配していた。しかしそれは杞憂で、どんなに焼いても大丈夫な特殊な麺であることを後で知った。
一人前を注文すると、兄ちゃんは無言で頷き、焼きそばの山の中から適量を取り出し、鉄板中央の火が強い部分に移し、プラスティックの容器に入ったソースのようなものをチュッとふりかけ数秒炒め直し、透明の容器に入れ、申し訳程度に紅生姜を添えて蓋を輪ゴムで閉じ、割り箸をその間に差して手渡してくれた。
これが魔物のように旨かった。
それからわたしは、うまい焼きそばを求めて彷徨い歩くことになる。
町中華から本格ホテル中華までを食べ歩き、ソース味だけでなく塩味やあんかけ、上海風だ海鮮だ、硬いだ柔らかいだといろいろ試してその都度感激するが、なぜかペヤングに戻ったりする日々を送っている。
物足らないのではないのだ。みんなそれぞれにおいしい。みんな欲求を満たしてくれる。ここに焼きそばの迷界が潜んでいる。
ちょっと前のデータだが、カップ麺や袋麺を含む麺製品の中でいちばん売れているものは何かご存知か。なんと東洋水産の「マルちゃん焼そば」(3人前)である。
いまのようにネットで情報が取れない時代は、この麺をどうしたら上手にほぐせるのかと巷の話題になったほどだ。ちょっと油をたすと良いなどと、まことしやかに力説する友人がいたが、これは現在では「レンジで30秒ほどチンする」ということで解決している。やはり以前、相棒の施さんに相談したところ大笑いされた。
「だって、あれ蒸し麺だもの」と簡潔な答えだった。
しかし、動画や料理番組全盛の昨今、麺を固まったまま放置しておこげをあえてつくるという流派が出てきた。さらに「焦げてなきゃ焼そばじゃない!」と主張する料理家も出てくる始末だ。やってみると確かに悪くない。
なかなかうまいし、これを友人に振る舞うと、かまどで炊いたご飯のおこげをありがたがるように「わかっているねぇ」と感心される。
この風潮を、やはり施さんに相談するとめんどくさそうに顔をしかめた。
「焦がすとそんなに喜ぶの?」
「そう、だからね、とことん焦がした焼そばを作って欲しいんだ」
「嫌な予感がする」
「ふふふ、梅蘭をコピーしてよ」
施さんはさらに顔をしかめ、それなら旨い海鮮のあんかけ焼そばはどう?
などと話をそらしはじめた。彼は横浜中華街のことは大抵知っている。
当然、梅蘭焼そばの作り方も知っているはずだ。
「いや、梅蘭焼きそばがいい」
「・・・あれ、好きなの?」
「いや、何よりもみんな驚く」
この一言が効いた。
大ヒットメニューの横浜中華街「梅蘭」の焼きそば。
何と言ってもあのインパクトのあるビジュアルにはそそるものがある。お焦げの麺だけが皿に盛られている状態なのだが、中に餡かけが仕込まれている。
嫌がる施さんをなんとか口説き落としたわけだが、わたしは何よりアレの作り方に興味があった。いったいどうやって作っているのか、お家で再現は可能なのかと興味津々で録画した。
中華鍋は底が円形になっている。底がフラットなフライパンだとどうしても梅蘭のようなドーム型にはできない。それでも良いかという施さんに激しく頷いた。
出来上がりはこんもりしたドーム型ではないが、ほぼ再現と言ってよい出来栄えだった。
問題は食べるときに起こった。
麺が焼き固まっているためにお好み焼きのように切り分けるか、ぐちゃぐちゃにしつこくかき回すようにほぐすしかない。
つまり、思い切り食べにくい。「だから嫌だったんだよ」と施さん。
しかし、なんとか切り分けて食べるとこれがおいしい。
麺はすすれないが、お焦げ麺の入ったあんかけ野菜炒めを食べている感じ。
食べるのに苦労しますがパーティや普段の食卓にこれが突然現れたらテンションが上がるのは必至!
ちなみにこれをいつもの食事会で出したら大ウケ!
「梅蘭だ!梅蘭だ!」
「なにこれ!どうやって食べるの?!」
梅蘭焼きそばを知っている者は写真を撮り、知らなかった者は一斉に検索する。
その場でSNSにアップする者もいた。
わたしは得意げに包丁を持ち出し、ピザをカットするように人数分を切り分けた。
【梅蘭焼きそば】
【材料】1人前(2人前)
中華生麺 2玉(玉子麺だと焼き色がつきやすい)
玉子 1個
小松菜 1房
もやし 60g(一袋の1/3)
玉ねぎ 1/4個
豚ロース肉 40g
たけのこ水煮細切り ひとつまみ
サラダ油 大さじ4(最初に麺を焼くとき)
サラダ油 数回(麺を焼くとき)
※呆れるほど何度も油をさします。
サラダ油 大さじ2(餡を作るとき)
水溶き片栗粉(餡の炒めの仕上げ時に)×2
※(一回目 大さじ1 二回目 小さじ1)
ごま油 少々(餡の炒めの仕上げ時に)
〈餡かけ用合わせ調味料〉
水 100cc
チキンスープの素 1/2個
味の素 小さじ1/2
塩 小さじ1/2
こしょう 少々
砂糖 小さじ1/3
醤油 大さじ1
オイスターソース 大さじ1
〈肉の仕込み〉
水 小さじ1
味の素 少々
醤油 少々
水溶き片栗粉 小さじ1/2
ごま油 少々
●小松菜を一房、適当な大きさに切る。
●玉ねぎ1/4個を、繊維に沿って薄めのくし切りにする。
●たけのこの水煮はさっと軽く湯がいておく。
●豚ロース肉(生姜焼き用)を細切りにする。
●水、味の素、醤油、水溶き片栗粉、これらを入れながら細切りの肉に吸い込ませるようによく揉み込んでやる。仕上げにごま油をひとたらしする。
●餡の合わせ調味料を作る。(水、チキンスープの素、味の素、塩、こしょう、砂糖、醤油、オイスターソース)
●沸騰した鍋に中華生麺2玉を入れ、沸騰したところでお玉1杯分の差し水をし、再度沸騰したところで火を止める。
●湯切りした麺を水洗いし、ザルにあけておく。
●熱したフライパンにサラダ油大さじ2を入れ、端に傾けて肉を煮るように焼く。●肉に軽く火が通ったら、玉ねぎ、小松菜、タケノコ、もやしを入れ軽く炒める。●全体に火が通ったら合わせ調味料を入れ、しばらく煮込んだら水溶き片栗粉を入れ、軽く合わせたら火からおろし、別皿に取り置く。
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●熱したフライパンにサラダ油大さじ4を入れ、水をよく切った麺を入れる。
●麺をフライパン全体に敷き詰めたら、縁にサラダ油を大さじ2ほどまわしかける。
●途中麺を軽くほぐしながらフライパンに滑らせるように焼く。
●これを続けること1分30秒、また縁にサラダ油大さじ2をまわしかける。
●さらに1分ほど滑らせるように焼き続けたらひっくり返す。麺を入れてからひっくり返すまで約3分。
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●中央に餡を盛るように入れ、麺の端をつまみ上げ、餡を包み込むように盛り上げていく。
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●滑らせるようにしながら1分30秒ほど焼いたら、溶き卵を麺の縁ギリギリにまわしかける。
●形を整えながら滑らせるように1分ほど焼き続けたら、再度ひっくり返す。1度目にひっくり返してから再度ひっくり返すまで約5分。
●縁を整えながら30秒ほど焼いたら出来上がり。