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【有線接続の遅延】ノイキャンヘッドフォンでギターの練習はできる?【検証】

結論から申し上げると、ノイキャンヘッドフォン(ANCヘッドフォン)は、有線接続した場合であっても遅延します

普通の有線イヤホンとの比較で+50ms(0.05秒)程度です。ゲームなら許容できる範囲ですが、楽器は個人的には無理。150bpmでの32分音符1個分に相当するズレですから。そんなんごく僅かじゃん、って思うでしょ?弾いてみてください。違和感すごいですから。

なお、検証に用いたのはSONYとBOSEの2製品のみですが、まあ、他のメーカーがこんな需要の無い使い方(有線接続でノイキャンON)に力を入れるとも思えないので、恐らく現状全てのANCヘッドフォンに当てはまる内容だと考えられます。

詳しくは記事をどうぞ。


・窓用エアコンとの戦い

最近ロビンソンのイントロが弾けるようになりました。
さばのおすしです。
スピッツのアルペジオって、良いですよね。

さて、突然ですが私の部屋を少し紹介しましょう。

これがデスク周り。
最近はここで人生の8割を過ごしています。

の真横にあるのが窓用エアコン。
室外機のいらないエアコンと言うと聞こえは良いですが、世の中そんなに甘い話はなく、まあ端的に言うと、室外機クラスの爆音を室内にお届けしてくれるわけです。

夏本番ということもあり、使わないわけにもいかず。でも愛しのデスクからは離れがたく。かといって、室外機を置くスペースはこの物件にはありません。そんなわけでANCヘッドフォンの導入に踏み切ったわけです。

・購入した商品

ギター弾くときのために、有線接続でもノイキャンが使えるのが絶対条件。その上で、できるだけ軽量なものを選択しました。長時間着けることになりますからね。

購入したのがこちら。

ソニーの中堅クラスのヘッドフォンです。
特筆すべきはその重量、192g。
他製品が軒並み250g前後の中、ノイキャン+オーバーイヤー(耳をすっぽり包むタイプ)でこの重量は驚異的です。

・拭えない違和感

開封して数分はウキウキだったんです。
軽い、つけ心地もいい、なんといってもエアコンが煩くない!ノイキャンの効き具合も自然だし、文句無しでした。

そう、ギターアンプに繋ぐまでは。

愛用のTHR10II

いざ弾いてみると「あれ、なんか遅れてる?」
得も言えぬ違和感に襲われました。
…いや、気のせいだろう。だって有線接続なんだから。
遅延なんてまさか1万6千円も払ってそんなわけ…

そう言い聞かせても、鎮めた違和感はまるでホットケーキ生地にふつふつと浮かんでくる小さな泡のように、這い上がっては私の心を侵食していきます。

よし、検証しよう。

・検証方法

ざっくりと示すとこんな感じ。

ヘッドフォンから音を流し、PCのマイクで集音する作戦。シンプルですね。

この状態で下記の動画を流し、画面録画します。

動画編集ソフトで音が出た位置を特定し、

画面を確認することで大まかな遅延量が推定できるという仕組みです。

なお、この方法ではどうしても他の機器(パソコンや録画ソフト)の影響を受けてしまうため、イヤホン/ヘッドフォン単体の遅延量の計測はできません。

したがって、今回は同じ環境下で一般的な有線イヤホンのデータを計測し、この値を基準とすることで、ヘッドフォン単体の遅延量を推定していきます。

検証は、以下の5通りを行います。

  • 有線イヤホン

  • ヘッドフォン(Sony)を有線接続(電源ON)

  • ヘッドフォン(Sony)を有線接続(電源OFF)

  • ヘッドフォン(Sony)をBluetooth接続

  • ヘッドフォン(Bose)を有線接続(電源ON)

それぞれ頑張って5回ずつ測定し、平均値で比較を行います。

「電源ON」と「電源OFF」について
今回購入したヘッドフォンは、有線接続時に「電源ON」と「電源OFF」の2通りのモードが存在します。電源ONだと、Bluetooth接続時と同等の機能が使用できて、ノイキャンも効きます。電源OFFの場合、充電が無くても使用できる反面、音質が格段に劣化し、ノイキャンも使用できません。今回の用途では電源ON以外ありえないのですが、参考のため両方計測しておきました。

一応、検証に用いたもの一覧を下記に挙げます。

・検証結果

結果はこの表の通り。

メーカーに関わらず、ANCヘッドフォンを有線接続した際の遅延量は約50msでした。対して、電源を切って有線接続した際の遅延は、ほぼゼロという結果になりました。

ここから分かるのは、ノイズキャンセリング等の処理には概ね50msかかっているってことです。

・高いやつなら遅延しない?

最初は「安い機種だから遅延が出たのかな」と思ったのですが、調べてみると今回の検証機(Sony WH-CH720N)は現行のハイエンド(Sony WH-1000XM5)と同じチップを使用しているようなので、どうやらそういうわけでもなさそうです。

・「50ms」の影響:音楽編

さて、50ms。
一般生活ではごく僅かな時間ですが、どのように影響してくるでしょうか。
例えばグランドピアノは、鍵盤を押してから音が聞こえてくるまで約50msのラグがあるようです。

「じゃあ問題ないのでは?」って思われそうですが、いやいや待ってください。これはつまり「グランドピアノ」というシステム全体で50msってことです。

今回の場合、ヘッドホン単体で50msの遅延があります。

ギターだって、弦が振動し、ピックアップが電気信号に変換し、サーキットを通って…と、少なからずラグは存在するはず。ここに50msが乗っかるわけですから、まあ確かに、違和感を感じそうな気がしますよね。

実際、楽器用を謳うワイヤレスヘッドフォンの遅延は軒並み「数ms」です。

例えばこれは、4msという桁違いの超低遅延性能です。

以上を考慮すると、楽器用としての50msの遅延は「お話にならない」性能のようです。なんてこった。

・「50ms」の影響:ゲーム編

では、同じく遅延を嫌うゲームではどうでしょう?

まず、音ゲーなんかは無理だと思います。楽器と同程度の性能が必要ですからね。リズム調整は必須です。

同様の理由で、コンマ一秒を争うガチゲーマーなんかにも向かないと思います。ノイキャンで集中できるというアドバンテージはあるものの、0.05秒のハンデを背負うに値するかと言うと…どうですか?

一方で、上記ほど激しくない用途。「操作に対する音声のズレ」はそこそこで良くて、「映像と音声のズレ」さえ無ければ良い用途。例えばゼルダの伝説とか、FF16なんかを普通にプレイしたい場合はどうかというと、これは問題なさそうです。

というのも、映像と音声のズレの認識について調べてみると、

60ms以上から感じ取り始め、100ms以上のズレになってやっと明らかに映像と音声がズレている、一致していないと感じます。

アリオン株式会社

とのこと。
50msなら大丈夫そうですね。

実際私もティアーズオブザキングダムをこれでプレイしていますが、至って快適です。音もきれいだし、雑音も気にならない。ガチゲーマー以外なら、むしろおすすめかもしれません。

・まとめ

  1. ノイキャンヘッドフォンは、有線接続でも約50ms遅延する。

  2. ゲームはいけるけど楽器は無理。

こんなところです。
まあ、楽器向けのワイヤレスヘッドフォンが軒並み5万円くらいするのに、ノイキャンが付いていない時点で察するべきでしたね。超低遅延とノイキャンは、現状では両立が難しいんだと思います。

楽器やりたい方で遮音性能が必要な人は、普通のモニターヘッドフォンがおすすめです。例えばこれ。

実は検証後、失意のままにこれと同じものを買ってしまったのですが、

気づいたらYAMAHA製で揃ってました

本体のみで「あれ、これで十分じゃん!」ってくらい遮音してくれます。さすがにノイキャンほどではありませんが、騒音を快適なレベルまで十分に緩和してくれます。プロ用ってこともあって音も品質も高いし、値段も検証機より安価。最初からこれでよかったんだ…

参考になれば幸いです。

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