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【メゾンド勿忘草へ】
登場人物
ユウ…桜沢佑(30)元舞台俳優
ケイ…桂 継子(35)喫茶ポンパドール店長
ナレーション「ここは夢乃崎町喫茶ポンパドール。何も起こらない町夢乃崎町に新しく舞い込んできた一陣の風、桜沢佑30歳が継子と二人格闘しています。本日の町の雲行きは?」
ユウ「ノートルダム聖堂が燃えた朝、私は夢乃崎町にいた。パリで857年という時間をその身に引き受け存在し続けた彼女がまるで貴婦人が帽子を脱ぐようにゆっくりと気品高くまた情熱的にその場を去ったのだ。
その時私はこれまでパリに行かなかった自分を悔いた。演劇などに時間もお金も費やし、その癖何も持たずにここに居る。どこへも行けない。何にもなれはしない。あぁ、、、ただ、ここにある事以外に何も。」
ケイ「やだこわいこわい、ユウちゃん窓に向かってなに一人で叫んでるの!?」
ユウ「というような冒頭のセリフがあるお芝居に出たいなぁと思ったのです。」
ケイ「あぁ、そうかぁ、ユウちゃんお芝居やる人だったっけ」
ユウ「やっていた、人です。」
ケイ「はいはい。やっていた、ね。」
ユウ自分で言ったことに自分で傷つく様子
ケイ「でもあれね、もったいないわねぇ。一芸あると勿忘草荘に住めるのに」
ユウ「え?なんですかそれ」
ケイ「あ、勿忘草荘、、、とその呼び方すると怒られるんだった。メゾンド勿忘草っていう下宿アパートがあってね。そこは絵が描けるとか文章が書けるとかお笑い芸人さんの卵とか一芸のある人がほぼ無料で住んでるの」
ユウ「む、む、無料!?」
ケイ「こんな片田舎でそうそう若い夢のある人も集まらないんで時々電気工事が出来るとか左官屋さんとかアパートの補修出来る人住まわせてたりもするけどね。今一部屋空いてるんじゃないかなぁ?」
ユウ「む、む、無料」
ケイ「水道代とか光熱費とかはみんなで割って、適宜。あ、お風呂ついてないからね。トイレも共同。今時そんなとこあんのか、耐震はどうなってるんだって思うけど、住めば都。あと勝手に出入りする猫が付いてくる」
ユウ「猫、、、私そこに住みたいです!むしろ住みます!」
ケイ「勇ましいわねぇ!一応大家さんの面接があるから聞いとくね。でもあれよ。一芸ですからね。お芝居、、、やめられないけど、それはいいの?」
ユウ「え?、、、えぇ!?」
ケイ「ふっふっふっ」
ユウ「ちょ、うん、あの、ちょっ、うん」
ケイ「まぁ大家さんと話だけでもしてみたら?」
ユウ「う、うん、そうします。」
ケイ「うちはどれだけでも居てもらってもいいけど、足の踏み場もないし子供達わぁわぁ言ってるし大人が住むには大変でしょ?」
ユウ「あ、いえそんな事は」
ケイ「まぁまぁ無理しない。ともかく明日あたりには会えるように段取りしとくよ」
ユウ「え?そんなに早く?」
ケイ「じいさん二人退屈してんのよ、話し相手にでもなってやってよ。おっと!」
ケイコが紅茶に入れようとした角砂糖が放物線を描いて宙を待う
ナレーション「ユウはメゾンド勿忘草に入れるのか、角砂糖はケイコの紅茶に入るのか。夢乃崎町、そして、メゾンド勿忘草の明日はどっちだ」
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