医者と◯◯

医者「はい、次の方どうぞ」 

患者「先生」 

医者「はい」 

患者「私ですね、割とごっつぁんラッキーな体質なんです」 

医者「はぁ」 

患者「そんなに親しくない友人の結婚式の二次会ビンゴでルンバ当てちゃったり」 

医者「ビンゴでルンバ、楽しそうじゃないですか」 

患者「そんなに出てないバイトなのにたまたまご祝儀が当たる日にいたり、たまたまとった芝居の席で隣からご本人登場とか、少人数限定のトークショー物見遊山で行ったらめちゃめちゃ専門的で私ごときが見てもどうかっていうくらい良いお話で偉い人がサプライズゲストとか」 

医者「あの、、、」 

患者「はい」 

医者「なんか」

患者「はい」

医者「問題、ありますかね？」

患者「あります。大ありです。」

医者「それはどのような？」

患者「後ろめたいんです。そんなまともに生きてないのになんでそんなことが起こるのか。幸運とは善行に紐付くものではないでしょうか。でもバカなので起こった時はぬか喜んで受け取ってしまうんです。そのあとから、あぁ、あんなものは誰かに譲れば良かったのだ荷が重い。私はなんと愚かなのだろう。人の真の喜びのために私は何ができるだろうかと思い悩んでいるのです。」

医者「あなたは」

患者「はい」

医者「患者よりも哲学者に向いてそうですなぁ」

哲学者「そうでしょうか」

医者「えぇ、そう思いますよ。ただね」

哲学者「はい」

医者「私、呼吸器科の医者でしてね」

哲学者「はい」

医者「なんか、あれですか？そう言う後ろめたいなぁと思う時に喘息様の症状が出るとか」

哲学者「いえ、全く」

医者「あー、一昨日から4月だからなぁ。僕ね、心の領域は門外漢なんだ、良ければ紹介状でも書くのでもっと大きい病院の別の科で見てもらうといいかな。」

哲学者「いえ、先生私はここが呼吸器科だときちんと理解してここへ来ています。」

医者「どう言うことかな？」

哲学者「数々の文学の中に描かれるように、また実際に、文学者や芸術家の中には心を病むと同時に結核や喘息などの肺や呼吸器に疾患を抱えるものが多いのです。歴史的にみても集団ヒステリックを起こす地域にそのような病が流行っていたという報告もある。これを鑑みるに幸運を幸運として受け取れずくよくよと悩み罪悪感に押しつぶされる私は呼吸器科の病なのではないかと考えたのです。」

医者「あなたは」

哲学者「はい」

医者「研究者の方が向いてそうですなぁ」

研究者「そうでしょうか」

医者「えぇ、そう思いますよ。あなたがそうまで言うなら肺のレントゲンでも撮っておきましょう。ではこれで」

研究者「しかし、先生、私はこうも思うのです。」

医者「おや、ひかないねぇ。こりゃ困った。僕こそ何か悪いことをしたのだろうか。」

研究者「この、幸運という物がこれまでの善行の結果ではなく、これから起こる事の前払いであったなら恐ろしくていられないのです。天井が落ちてくる恐怖で夜安心して寝られずに結果心臓麻痺で亡くなった者があると聞いたことがあります。まるでその見えない落ちてくる天井のようにこの幸運はこれからの苦行の前払いではないのかと！恐ろしくなるのです！」

医者「どんどんめんどくさくなるなぁ、、、。僕こそこりゃ前世で犬でも蹴ったかな。」

研究者「それです先生！」

医者「こわいな！なんです！」

研究者「前世、です、、、。私の幸運は前世の善行に対する支払いなのかもしれません。きっと、善行の分の支払いが終わる前に死んでしまったのでしょう。しかしここで幸運が支払われてしまってはまた後の世、つまり私の来世でろくなことが起こらないのではないでしょうか？あぁ、こわい、怖くてたまらない！先生、私はレントゲンの結果など待てません！今すぐここでこの不安を解消してください！」

医者「あなたは」

研究者「はい」

医者「宗教者にでもおなりになったらいいかもしれない」

宗教者「そうでしょうか」

医者「繰り返しにはなりますがね、私があなたにここで出来る事は無いんです。どうしてもと言うのであれば喉用のトローチでも差し上げましょう。これを一つ口にいれてね、あ、噛まないようにね、ゆっくり溶かしながら隣町の大きな病院へ行って然るべき人にカウンセリングをお願いしてください。そこなら総合病院だからあなたの心配する肺も心もいっぺんに見てくれるでしょう」

患者「はい、わかりました。」

医者「おお、そうだ。ちょうど良いところに貰い物の舶来のチョコレートがあるからこれでも持っていって。」

患者「ありがとうございます、、、」

医者「気をつけて行ってらっしゃい、気を確かにね。」

患者「あぁっ！」

医者「まだ何かあるのかい」

患者「また貰っちゃった」

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