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DeepSeekの創業者、梁文鋒とAI天才少女

DeepSeekショックとなった週明けのアメリカ市場。

DeepSeek R1を発表した同名の企業、DeepSeek(深度求索)は、High-Flyer(幻方、フアンファン)というヘッジファンドが100%所有する会社で、どちらも梁文鋒氏が中心になって起業しています。

クオンツキング、梁文鋒

1985年に広東省湛江市(たんこうし)で生まれ、杭州大学出身の梁文鋒(Liáng Wénfēng)は、大学時代の仲間と3人で幻方量化というクオンツ系ヘッジファンドを設立し、AIを使ったシステムトレードで財をなしました。

2019年には中国プライベートエクイティのゴールデンブル賞授賞式で、「プログラマーの視点から見た中国の定量投資の未来」と題する基調講演を行い、「定量分析を行う企業にはファンドマネージャーはいません。ファンドマネージャーは単なるサーバーの集まりです。」と、クオンツ系自動取引の優位性を説いています。

が、2021年にはAIの投資判断がうまく行われなかったとして公開謝罪書簡を出したり、昨年10月の中国市場でショートスクイーズに巻き込まれ、ヘッジ商品の投資ポジションを段階的にゼロまで削減する計画であると投資家に発表したりと順風満帆とはいきませんでした。

微妙だった本業の投資業に対してAI への関心は高く、2016年に最初の AI モデルを発表。資金をAI開発へと注力していきます。

メディアのインタビューでは、「中国も常にただ乗りするのではなく、徐々に貢献者にならなければならない」、「これ(ソフト・ハードウェアの技術の進歩)は西洋主導のテクノロジーコミュニティの何世代にもわたるたゆまぬ努力の結果です」と述べたりと、まるでシリコンバレーのテクノリバタリアンのようですが、実際にDeepSeekをオープンソースで公開したりと、アメリカよりもオープンな姿勢には驚かされます。

“中国也要逐步成为贡献者,而不是一直搭便车。”
“这是西方主导的技术社区一代代孜孜不倦创造出来的”

まあ自由にやりすぎるとアリババの馬雲(ジャック・マー)のように表舞台から消されるんでしょうが…。

半導体と国家戦略

このように、DeepSeekは新興テック企業であり、政府機関でも国営企業でもない私企業ですが、アメリカや日本の例と同じく、いや、それ以上に、AIと半導体は世界の覇権争いのカギとなる国家戦略産業です。

DeepSeekのR1がトランプの就任日に発表されたように、アメリカを意識した政治の匂いがプンプンします。

実際に、梁文鋒は李強首相のシンポジウムに参加し、国営テレビでもその様子が報道されています。

AI天才少女、羅福莉の小米入り

他にもDeepSeek-V2の主要開発者の一人で、「AI天才少女」と呼ばれている羅福莉が小米に高給で引き抜かれたりしています。

2019年、まだ北京大学大学院生だった羅福莉(Luó Fúlì)は、人工知能分野のトップ国際会議であるACLで8本の論文を発表し、大学院の2年間で国際的なトップ会議に20本以上の論文を発表するという、驚異的な実績を残しています。

小米(シャオミ、Xiaomi)は2021年に中国共産党の軍事企業として米国政府の投資禁止リストに加えられたこともある「準国策企業」ですが、創業者の雷軍が自ら動き、「95後」(1995年以降生まれ)の羅福莉を年俸1000万人民元(2億14百万円)で一本釣りしてAI開発チームを率いさせています。

コスト効率への転換

この点、性能はテストすればわかりますが、発表されたコスパが本当かどうかは外からではわかりません。

GDPの数字や若者の失業率やコロナの感染者数は信じられない大本営発表だとすると、DeepSeekのコストが信じられるのかは疑問符が残ります。

(翌日追記)本人のロングインタビューを読んだのですが、その人となりを知ると信じられる気になってきました。

一方で、AIのコストを下げられるのではという可能性に大きな一石を投じたと思いますし、だからこその下げなのでしょう。

個人的には、市場を寡占するメガテックの言い値で大量生産、大量消費の拡大路線&期待先行が続いているアメリカのAI&半導体産業には効果的なアンチテーゼだったと思います。

AIのためのデータセンターで電力消費量が爆増する予測も出ている中で、物価高騰を懸念する身としても、良い意味で冷や水を浴びせてくれたと思います。

データセンターと仮想通過が引き起こす電力消費と二酸化炭素排出増

今はまだ「AIへの期待」に対して「コストが下がる期待」という期待に振り回されている状態ですが、アンチテーゼが実際に米国内でも証明されて、大規模投資の化けの皮が剥がれたときにこそ、実体経済に影響を及ぼすブラックスワンに化けるのかもしれません。

最後に忘れてはならないのは、インターネットが世の中を変えたにもかかわらずドットコムバブルは弾けたということ。

今後もAIへの投資は加速するかもしれませんし、半導体需要も伸び続けるかもしれません。それでも針の一刺しで膨らんだ風船が弾ける可能性があるということを意識しておきたいものです。

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