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『陰陽師 生成り姫』

『陰陽師 生成り姫』/新橋演舞場


▶︎博雅の笛で奏でられる音楽。その音楽が起承転結になっている気がした。静かにゆっくりと始まり、激しく,入り乱れ,いくつもの音階が重なり、そしてまたゆっくりと終わっていく。この物語の動きを表しているかのような音楽だった。

博雅が笛を吹くシーンでは、コンテンポラリーのダンサーが登場する。
最初、12年前の夜に博雅が堀川橋のたもとで笛を吹いているシーンで、博雅が立っている下手側から男性のダンサーが。そしてしばらくして上手側から女性のダンサーが登場すると、徳子姫の飛天の琵琶の音が聞こえてくる。
途中、博雅が笛を吹くとまた男性ダンサーが登場し、しばらくして女性ダンサーも登場するが徳子姫は現れない。しかし博雅は心の中に徳子姫を想い描き、徳子姫もまた博雅のことを想い続けているからこそ、女性ダンサーが現れたのだろう。
最後、晴明に吹いてくれと頼まれた博雅が吹き始めると、再び男性ダンサーが登場する。しかしいくら経っても女性ダンサーは登場せず、そのまま男性ダンサーのみで音楽とダンスは終わる。徳子姫は亡くなる(生死の間というか、徳子姫と博雅が一心同体となった鬼になり、それを解いた晴明と3人で白い煙の中会話してるところ)前に「死んだ後、もしも済時様への恨みがあった時は、博雅様の元へ来ますから、笛の音を聞かせてくださいね」的なことを言っていた。そもそも徳子姫は済時に対して恨みつらみが溜まり呪い殺すために鬼になった。しかしその済時は徳子姫が亡くなった数日後に急病で亡くなったため、徳子姫があの世から恨み続ける相手がいなくなってしまったのだ。つまり、徳子姫が博雅の元へ訪れる理由がなくなったのである。
しかし博雅は、あの白い煙の中の3人での会話を覚えておらず(「夢を見ているようだった」と言ってる)、徳子姫は亡くなったと知った今もどこかで聞いてくれていると信じている。そのため、今日もまた徳子姫を想って笛を吹くのであり、その結果男性ダンサーが登場するのだ。しかし徳子姫はもう博雅の元へ来る理由がなくなってしまったから、女性ダンサーが現れないのである。
つまり、2人のダンサーは、博雅と徳子姫それぞれの〈想いと心の行動〉という部分を表現したものだと考えられる。

▶︎徳子姫が自ら川に入っていき自殺しようとしたシーンで、川の水の流れを人が表現している点が面白かったし見応えがあった。
徳子姫を飲み込んでいく様子や、徳子姫を助けて来た家来の歩丸を弾き飛ばす様子が、本物の水・川のようで、こういう表現の仕方もあるのかと新鮮味を感じたのと、とても納得した。だし、見応えがあって観ている側が理解のできる表現をするためには、時間をかけて緻密に動きを知る必要があるだろうから、大変な作業だと思った。

▶︎綾子姫が、観てる側が心の底から憎い感情でドロドロするぐらい嫌な女だった。

▶︎健くんこと晴明の、「がぎぐげご」が完璧な鼻濁音で、鼻濁音のお手本、先生か!?ってツッコみそうになるぐらい綺麗だった。
健くん美しかった…
ずっと白いお着物を召されてるのだけど、その白が美しいお顔をより輝かせてて美しかった…というかその白いお着物が反射して顔が輝いていらした。
ステージ上にスモークが充満してる中にポツンと立つ晴明様、明るいグレー(もしくはくすんだライトブルー)っぽいお着物をお召しになってて、それも美しかった…儚かった…

▶︎徳子姫こと音月さん、博雅さまに鬼の姿を見られて「あな恥ずかしや」となりそのまま自害したが、鬼と人間の狭間を行き来してるシーン(博雅さまに抱きしめられるシーン)で、徳子姫では声がか細く高いキーでかわいらしい声をしていて、次の瞬間、低いキーであああああと叫ぶ鬼に切り替えなきゃいけなく、圧倒的喉の酷使をされていらして、最後まで無事に喉が持ちますように…と思った。
徳子姫、気品があって奥ゆかしいという言葉が似合う、そんな女性だった。

▶︎博雅さまこと林くん。感情がまっすぐで自分にも周りにも嘘がなく、晴明がいるから成り立ってるような感じ。
博雅はやっぱりあの徳子姫を後ろから包み込む姿が忘れられないのだけど(最高に素敵だった、最高of最高)、結局最後まで世間知らずっぽい感じとか、今までやったことがありそうでなさそうなところが素敵だったし良かった!
徳子姫というただ一つの事を考えて、それだけしか考えることがなく、かつそのために行動する役は初めてじゃないかな?とか思ったり。林くんに似合うけど林くんっぽくない博雅さまが、とても可愛らしくていじらしくて、素敵でした。

あんなにベビーフェイスで、いつぞやのお着物や袴はどうしても七五三にしか見えなかった林くんが、お着物しか着てないのに七五三にならなかったのは、林くんのお芝居の上手さの賜物だなと思いました。
徳子姫が鬼になったことを知り自分はどうしたらいいのかと、晴明の声に耳を傾ける余裕がないほど乱れていたり、鬼になり「あな恥ずかしや」な姿を見てしまった博雅さまが徳子姫を追いかけ、鬼と自害した人間との狭間で荒れ狂う愛する人のためにできる事はないのかと泣き叫んでいる博雅さま。そして最後は、愛する徳子姫があの世から自分の元へと会いにきてくれると信じて笛を吹き続ける何とも哀れな様子となり、いつものようにその哀れな様子を晴明や蜜虫、晴明以外には見えない自然の晴明たちに笑われる博雅さま。この移り変わりを演じきった林くん。本当にお芝居が上手になったね。

▶ 鬼と徳子さまが入り乱れてるところで博雅が徳子さまのことを後ろから包み込むように抱き締めるのだけれど、バックハグしながら訴えたり「愛おしいのだ」って言ったりしている博雅さまを見てたら、林くん王家の紋章メンフィスやりません?って思っちゃった。

▶︎まさに古文。セリフの言い回しも、ストーリー展開も。人間が鬼になるのとか完全に古文だった。古文すぎて理解するのに時間がかかったりするけど、触れることができてよかったと思える作品でした。


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