「エクスペリアームス強すぎ」に対してのアンサーは、「エクスペリアームスは強くない呪文のまま、杖とそれを信じたハリーが勝ったのだよ」みたいな話。

まず、4巻(炎のゴブレット)の墓場でヴォルデモートが復活するシーンにおいてハリーとヴォルデモートの杖が繋がったのは、直前呪文の効果ではない。あれは、ハリーの杖と我が君の杖に使われている芯が同じ、兄妹杖であることが原因(ちなみに芯の素材はダンブルドアの愛鳥ホークスの尾羽)。さらには、分霊箱による絆や、その杖でハリーを殺そうとしたことがその持ち主であるハリーとヴォルデモートの結びつきをより強めていた。

厳密にあの結びつきがなぜ起きたのかは、結びつきの強い二つの杖とその魔法使いが戦った時に起こる不可思議な現象であり、”杖の神秘”的なあの二人の間にだけ起きる現象だと思っている。それにひとまずの説明をつけるべくダンブルドアは、ハリーの杖がヴォルデモートの杖に対して、非道な行いを現すように直前呪文”的”に過去の行いを出現させたと説明したものと思っている。

この観点から見ると、アバダケダブラとエクスペリアームスのどちらが強いとかはあの場面では描かれていないことがわかる(そもそも強制解除みたいなもので、決着自体がついてない)。逆に言えば、咄嗟に出したエクスペリアームスが弱く、相手に最大の危害を加えようとするアバダケダブラと、相手に危害を加えないある種最弱の防御が対峙したからこそ、杖の防衛本能的なものが働いた可能性すらあると思っている。

映画では戦闘シーンが限られるのでエクスペリアームスが印象的に描かれているけど、本では結構防御としてはプロテゴが多用されているし、「強い呪文」である認識も別に作中人物にはないと思う。ただ、じゃあなぜここぞという場面においてエクスペリアームスなのかは後述。

他にエクスペリアームスが用いられる印象的なシーンだと最終決戦での再度のアバダケダブラVSエクスペリアームスかと思う。映画だと、4巻のシーン同様二人の呪文が繋がる演出になっているが、この時ハリーの使っている杖はマルフォイの杖なので、杖の絆という前述の理由により杖の接続が起こるという前提に立ち返れば、あのシーンはそもそも起こりうるはずのない全くのナンセンス。事実、原作では呪文同士がぶつかって即座に跳ね返り勝負がついたはず。(手元に今本がないので確認できていないが。)

ここも正確に言えば、ヴォルデモートの使用したニワトコの杖の真の所有者はハリーであった、という杖の主従関係の問題でついた決着であり、呪文の強弱については一切の関係がない。むしろヴォルデモートは最後にハリーが放った呪文がエクスペリアームスであったことをあざけるような様子もあるので、ここでもエクスペリアームスが決して強くない呪文であることがわかる。

ではなぜ、ハリーはあの場面においてエクスペリアームスを選択したのか。それはなぜニワトコの杖の真の所有者が最後にハリーだったのかと言う話にも密接に関わっていると思う。

ヴォルデモートは物も人もそれを何かの道具として見ていなかった。だからそれを所有するには“奪う”ことだけがその手段だった。そしてさらに彼にとって“奪う”ことは相手の命ごと奪い所有者を亡き者にすることであり、それ以外考えられていなかったのだと思う。だからヴォルデモートは杖も彼自身が所持し、選ぶものと考えていたと思うし、魔法の古の考え方である”杖の所有権”という考え(杖自身が自らの所有者を選ぶようなこと)自体を馬鹿にしていたと思う。

しかし、その実際は強奪や殺害以外にも、杖の所有権というものは移る。エクスペリアームスはマンガ的なシーンでイメージすると敵を打ち倒し、無力化された相手が「こ、殺せ、、、!」となる状態だと考えると受け入れやすい。よくある「殺す方が簡単」ということなのだ。そりゃ相手の杖も自分を負かした相手を認め、屈服する。ただこの姿勢は杖の意思を受け入れないヴォルデモートから見たらありえない思想。

それ考えると、オリバンダーの店で”杖が持ち主を選ぶ”シーンを描いているのは、めちゃくちゃ大切な伏線だと思う。

やや話は脱線したが、強奪や殺害以外にもこの「エクスペリアームスで杖の所有権は移る」という状況からニワトコの杖の所有権の変遷を追っていくと、謎のプリンスでダンブルドアが死ぬシーンに繋がってくる。ここでダンブルドアの目論みとしては、スネイプが自分を合意のもとに殺すことでその所有権はダンブルドアのまま所有権がうつらず、ここで消失するはずだった。(ダンブルドア自身が自身を殺害させ自身から所有権を奪取するような構図)

しかしこのダンブルドアとスネイプの契約は一足先にダンブルドアと対峙したマルフォイによって覆されることになる。マルフォイはダンブルドアからエクスペリアームスで杖を奪い、その時点でニワトコの杖の所有者となったのだ。その後死喰い人に捕まりマルフォイ邸に連行されたハリーは逃走する際、マルフォイから杖を”強奪”する。サクッと描かれているがこれがニワトコの杖の所有権をめぐる変遷の中でハリーに所有権が移った瞬間。マルフォイの杖はハリーに忠誠を誓い、それに従うニワトコの杖も必然ハリーに従うこととなる。ニワトコの杖は所有権が移り変わってきた歴史からもよりこの所有権が如実に反映されたのではとも思う。

最終決戦のシーン、ハリーはこれらの仕組みをついに理解し、自分が死の秘宝全ての所有者になったことを悟る。そして相手を屈服させることが死や苦痛だけにあるとは考えなくなった。さらには自分が対峙している杖はヴォルデモートに従っていない杖であり自分に従っていること(所有権が自分にない杖は十分な力を発揮しないことはハーマイオニーの杖を借りたりして知っている)を理解した上で、前述の通り、呪文の強弱に頼らず真に決闘の形式をとりヴォルデモートと対峙した。

シリウスを殺したベラトリックスに対してアバダやクルーシオを使おうとしたこともあるハリーだったが、最大の敵であるヴォルデモートに対して「殺さない、傷つけない」呪文であるエクスペリアームスではっきりとヴォルデモートの全てに対してNOを突きつけた。突きつけるためにはだからこそあの場面では強くないエクスペリアームスでなければいけなかった。全てを上回ったハリーの超つよつよムーブだったのだ。

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