4. 二つの顔を持つ小熊さん /純喫茶リリー
純喫茶リリーの近くに、大きな会社の小さな支店がある。
そこに勤めている一人の女性が毎朝リリーにやってくる。
大きめのべっ甲のメガネをかけて、チリチリのパーマ頭、背が高くて細くて猫背。年は30代半ばくらいの小熊さんだ。
騒がしい店内に、彼女だけがぬぼーっと黙って入ってくる。
一言も喋らない。
目が覚めるような真っ赤な口紅と真っ赤なマニキュアを塗っているのに、その雰囲気はどこか薄暗く、まるで「話しかけないで」というオーラを全開にしている。
うつむいたまま、4人がけのテーブルの端